「ブレイクスルー・ハウンド」132

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「へへ、銃撃で挟み込もうなんざ浅知恵だぜ」
 嘲罵にも、スミタと光は静かだ。代わりに、光が手榴弾を投げた。すでに手元にすこし置いておいたものだ。
 当然、敵の頭上で爆発する。それでも、直撃を避けきったのはさすがというべきだろう。
「人殺しの矜持なんぞ知ったことか。目的のために人を殺すならともかく、殺すのが目的になったおまえと俺たちを一緒にするな」
 光の一言と、レーザーサイトの赤い線が祐をとらえてつらぬいた。
 祐は痛恨と絶望の表情で無言で倒れる。連戦の中で銃撃をかわしたときの動作のわずかな“間”のタイミングを見抜き、小さな身振りで杏につたえたのだ。
 瞬間、光は七色の髪の青年のほうに視線を向けた。
 胸を貫かれていた。父が。
 敵が強引に達人を引きはがそうとするが、それを最期の生命力の一滴までも絞り出す表情で彼は防いだ。
 閃、動きを阻害された男の首を張が薙いだ。さらに、背後に瞬時にまわるや脊椎に鏢を突き立てる。どんな治療を即座に施したところで蘇りようのない死に男はとらわれ、父とともに倒れた。
 おかしい、気づいたら光は父の側でひざをついて彼を見下ろしている。光は手にしたままの二丁のPx4ストームを強く握りしめ、奥歯を噛みしめた。胸のうちで自分でも正体を見定められない感情が暴れた。
 だがわかっている、それに身を任せてはダメだ。そうしてしまえば、攘夷機関白虎の連中と同じ人種になってしまうだろう。だから、
「親父、俺は銃を撃てるようになった。なったんだ」
 空の、あさっての方向に向かってハンドガンのトリガーを一度絞り、送り火の代わりとする。

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