「ブレイクスルー・ハウンド」96

 ひるがえって彼らはどうだ、GSSのメンバーの実力は。佐和はひとつの事実に気づかされていた。チームワークとは無理やりに一定のレベルにみなを合わせるのではなく、それぞれが最高のパフォーマンスを発揮し、それが融合してこそ大きな力になるのだと。これは世界的には軍事の常識だ。
 刹那、上から気配を感じた。青龍刀、精確は別の名を持つ得物を持った男が近くの屋根から刃をひらめかせて舞い降りてきたのだ。
 浅知恵だ――佐和が大振りの一閃を冷静に回避する。
 電光石火、光は肉薄するや銃剣で相手の首を薙いだ。救いを求めるような顔をする相手に嫌悪感をおぼえるが銃を手にしたときほどの抵抗はない。とどめを刺して、次の敵にそなえる。その心情が佐和には読み取れた。
 実は、光がかつて強盗から少女を救おうとして誤射により射殺してしまったことを佐和は知っていた。父の達人もそうだが、実戦のなかで命が秤にかけられれば彼も引金に指をかけるだろうと予想していたのだ。しかし違った。おのれの生命よりも優先すべきものがある、その自覚が元特殊部隊や公安の実行部隊に所属する佐和には欠けていたのだ。その事実は大きな衝撃を与える。戦いというものがどれだけ人を“変える”か今さらながらに思い知らされたのだ。訓練をいくらくり返しても得られない大きなものがある。

「フロント、バッド」『ライト・バッド』
 無線機越しにスミタの景気の悪い声と銃声が聞えてきた。が、
『レフト・グッド』の報告に達人は多少、安堵をおぼえた。すでに警固対象は死んでいる。そう報告を受けた。そのことに達人は別段、感傷をおぼえなかった。任務はまだ遂行中だが、こんなところで死ぬのは愚かしい。合理的に判断をくだしていた。

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