「ブレイクスルー・ハウンド」123

 そして、光とスミタは中央情報局日本支局の武器庫のロッカーで装備をととのえている。局員が戦闘を主任務としないために武器庫のロッカールームが狭く、光たちは人数を分けて武装に当たっていた。
 装備の内容は、スミタはいつもと同じ物で弾薬や手榴弾だけを補充していた。他方、光は普段とはだいぶ趣の違う武器を選んだ。スミタと共通するのは、ボデイアーマー、アサルトベスト、シューティンググラスといった装備だ。
「おまえ、そんなもん使って猛獣の群れとでも戦うつもりか」
「連中、猛獣の群れとたいして変わらないだろ、これでも足りない」
 スミタがあきれた視線を注ぐのは光が抱えるケル・テックKSGエヴォ散弾銃、なんと二列のチューブ式マガジンがあるセミオートで銃弾の使い分けができる銃としては現在においては最高レベルの代物だ。そして、弾詰まりの問題を解決したのがエヴォだった。
 弾はダブルオーバックと十二番ゲージのスラグ弾を選んだ。さらに、Px4ストームもレッグホルスターをアサルトベストにそれぞれ一丁、シースに収めた銃剣も二本用意した。スミタから戦いのようすを聞いた限りではこれでも足りない相手が敵にいる。
 すべてがととのった、そこで光は息をついた。短期間のうちに色んなことがあり過ぎた。それもうれしくないことがほとんどだ。
「緊張してんの」「まったくしないのはそれはそれで問題だろ」
 スミタと軽口を叩き合い、父たちを待つ。と、
「心残りはないの、愛の告白とか受付中よ」「誰がそんな死亡フラグ立てるか」
 顔をしかめた直後、光はふとひらめきをおぼえた。そしてスマートフォンを取り出して、登録されていない番号、けれど今まで一度も忘れたことのない相手に電話をかけた。
「もしもし」
 なつかしさに胸が締め付けられる思いがした。だが、その声は記憶のそれよりやはり歳をかさねている。
「僕です、ヒカル・フジイです」
 こちらが名乗った瞬間、機械が壊れたように沈黙が下りた。

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