「願いを叶える犬神の子供が108匹生まれたので、毎日がむちゃくちゃです(某ライトノベル新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)」2

『それ、その端の部分から』
 確かにゆるんでいる部分があった。指示されるままに、下側に落としていった。
『ありがとう、これで神さまは元気になれるよ』
 どういたしまして、とスイは元気を取り戻してこたえる。

 それから、神社の宮司が彼の姿を見つけ、スイは無事に家に帰ることができた。
 あれは夢だったのだろうか、と月日が経つうちに考えるようになりやがて彼は忘れ去る。

 その影響は十数年後の沖縄へと及ぶ。
 長袖の服を着た男たちは、爛と輝く目で周囲を見ながら目線を交わさずに会話した。
「よし、計画の実行を邪魔するものはなさそうだ」「ついに、このときが来たな」「神は偉大なり」
 広大なショッピングセンターの、天井の高い吹き抜けのエントランスに銃声が獰猛な咆哮をひびかせる。
 二十人以上の人間がAK47で武装していた。この突撃銃は比較的口径が高いために腕に当たればそこから先が千切れるなど、致死率の高い銃に分類される。それらを矢印上に展開した彼らは偶然居合わせた買い物客に向かって発砲しはじめた。

   第一章

   一

 高橋翠(たかはしすい)の家は変わった家だ。神社であること自体はさほどの稀少性を持たないが、“願いを叶える犬神”を貸し出す、となると事情は変わってくるだろう。
 犬神といっても、いわゆる犬の首を切る呪術によって願いを叶えるそれではなく、神社で崇め奉られている立派な神が人の願いの成就に手を貸してくれるのだ。
といっても、あくまで貸してくれる程度で誰かに害が及ぶような願いには応じない。効果は気休め程度だ。
 よくもまあ人外の力なんて借りようと思うよなあ、と翠は思うのだが神頼みは古代からの人の性(さが)だ、神様をレンタルしてくれるとなると結構な人間が田舎の町にある大神神社を訪れる。
貸し出しの仕組みは簡単で、木の簡単な札に大神と記されたものを七日間貸し出すというものだ。本当か嘘か、ネコババした人間は呪われるといわれているため今のところ返却率一〇〇パーセントだ。なにしろ神に頼ろうとする人間たちだ、呪いも常人より恐ろしいのだろう。
 ふつうの人間には “いるかどうかもわからない”存在に望みをかけるなんて自分なら考えられない。原因は、幼いころに翠が恐ろしい目に数えきれないほど遭ってきたことに起因する。

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