「ブレイクスルー・ハウンド」130

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 ふざけた相手だ、というのが達人の強敵への第一印象だった。自分たちの側の敵の減少を受けて、ゴードン、杏と純を置いて、達人が加勢に来た。
 縦に髪がかかったように七色に頭髪を染めた壮年の男、そんな人間をミュージシャンやアーティストでもない限り正当に評価しようという人間はいないだろう。
 だが、戦いが始まるやそんな印象は消し飛んだ。
 動きそのものは、例の左右白黒の髪の少年に似ている。というより、外見の類似性から見て血縁者だろう。
 だが、その挙動は息子よりも圧倒的に迅く、力強い。
 銃身と銃床を切り詰めたレミントンM870・12インチ銃身のショットガンで、ダブルオーバックの弾を飛ばしながら、もう一方の手で脇差状のナイフをふるう。
 速い、その一言だ。とにかくすべの動作が一瞬裡だ。しかも、動きをほぼ“消して”いるためにほぼ勘を頼りに戦うしかない。
 張がカスタムAKの銃弾を短連射して牽制することで動きを遅らせようするが、それを“目付”で読んで避ける。目付というのは、動きの予兆から拳や蹴りを避ける技術だが、それを銃撃戦に応用するなど狂気の沙汰だ。しかし、相手はそれを成功させている。
 むろん、達人も汎用機関銃で援護していた。だが、十字砲火すら気にしない。
 むしろ、張と距離を詰めて白兵戦に持ち込むことで、事実上、一対一の状況を作り出すのに利用する。なにしろ、汎用機関銃では近すぎると誤射が起こりかねない。
 一瞬で五メートル以上の距離をつめるや、男が垂直からすこしななめに傾けた角度で斬り込んでくる。
 張は銃剣で攻撃に応じ、下段から斬り上げた。
 が、結果は目を見張るものだ。真っ直ぐにふりあげたはずの突撃銃がななめに傾いで止まり、銃口が傷つけられていた。
 マズい、暴発の恐れが生まれた――張はライフル弾による攻撃を封じられた。

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