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制作日記 勝敗が決まる瞬間〜ドキュメント小倉百人一首競技かるた高校選手権〜

2022年の放送が終わった時にかるた展望に書かせていただいた原稿です。今年も「勝敗」シリーズが続きました。今年から見てくれた方にも読んでいただきたく掲載します。

 私が10代だったころ。たまたま見たNHKのドキュメンタリーにこんなものがあった。『延長17回~横浜vsPL学園・闘いの果てに~』
 1998年 夏の甲子園。のちに大リーガーとなる松坂大輔投手を擁する横浜高校と、高校野球の名門PL学園の今も語り継がれる試合。1点を取り合うシーソーゲームが延長17回まで続き、世間を大きく賑わせた。この熱戦を受けてNHKがドキュメンタリーを制作したというわけだ。
 番組内容は一回表から両校の攻防を振り返り、高校生がこの日のためにどんな準備をし、どんな作戦を立て、何を感じながら夢の舞台に立っていたのかを詳細に追ったもの。映し出されたのはPL学園の高度なサインプレーがあったからこそ、稀代のエース松坂から7点奪えたこと。突出した能力ゆえスタンドプレーに走りがちだった松坂が、試合中に自分を支えてくれている仲間のありがたみに気がつき、グラウンドの隅で人知れず涙を流していたことなどが冷静なタッチで語られていた。

 ドキュメンタリーを見た10代の私は心底驚いた。同世代の高校生たちが、水面下でこれほど深い思考を重ねてベストプレーを展開。その結果として、たったひとつの試合で急激な人間的成長を遂げていたとは……。ただ観戦していただけでは、見抜けない“発見”が緻密に散りばめられていた。「面白い!」この映像体験は今も私の心身に刻まれている。

 社会人となり映像を作ることが仕事になった。いつかあの夏の日に自分が体験した面白さを、アップデートして世の中にお返ししたい。その機会を狙っていた矢先に、仲間と共にNHKに提出した企画案が採用されたと連絡があった。題材は「小倉百人一首競技かるた高校選手権」。野球と百人一首は全く違う競技だが、カメラを向けるべき“発見”と“試合を経ての人間的成長”の豊かさでは負けないと直感した。大会運営事務局の皆様、恵比寿有明会、暁星高校を皮切りに全国の高校かるた部、かるた会の皆さんに協力していただき、かるたに青春をかける高校生の輝きを追った。そこにはそれぞれに個性あふれる選手たちがいた。
 昨今の教育現場では、多様性を尊重し「みんな違って、みんないい」となりがちだ。無論この価値観も大切なもの。その一方で、明確に勝敗(優劣)が決する瞬間を経験することも必要なのではないか。むしろ、敗北を味わうことが人生を豊かにする。そう信じて勝者よりも敗者の言葉を膨らませる演出を選んだ。これは、かつてのPL学園と横浜高校のドキュメンタリーとは違う部分だ。

 あの夏の甲子園から20年以上が経ち、世界は大きく変わった。それでも積み重ねてきたものを信じて戦う人間が見せる眼の輝きは変わらない。


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