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過去の職場での思いを供養する回




少し長いが、ここで供養させてほしい。
前にいた職場での話。




就業時間外の雑務

私が新卒入社した就職先は地元の金融機関だった。
女性活躍推進を掲げている、地元では知らない人はいない金融機関だ。


仕事もろくに出来ない1年目。
他の職員よりも早く出社して、勤務時間外に給湯室の掃除や机拭きを行った。
それは当たり前の雑務であり、感謝の言葉をかけられることはなかった。
しかし当時の私はそれが普通のことだと思っていたし、気にも留めていなかった。



違和感を覚えたのは数年後、後輩として男性が入社してきた頃だった。

後輩に就業前と就業後の雑務を説明していると、先輩の女性職員から
「●●君はやらなくていい、引き続きほしがきさんよろしく」と声が掛かったのだ。


なぜだろう。
女の人だけの仕事なの?


思ったことをすぐに口に出せない性格の私は、
そのまま適当な相槌を打ちやり過ごしてしまった。


後から他の女性の先輩にそのことを話すと、歯切れが悪そうに
「まあ…ずっと男の人やってるの、みたことないからね」
という答えが返ってきた。




前回の記事にも書いた通り、
飲みの席で男性陣から「主張しすぎる女は良くない」という言葉をを繰り返し浴びていた私は
雑務について抗議をするという考えはなかった。


「郷に入っては郷に従え」だもんなあ。

そう言い聞かせながら毎日を過ごしていた。




お茶出し

来客があった時のお茶出しは、女性。
こちらが座る暇なくどんなに忙しそうにしていても、私に声がかかる。
奥のデスクでリラックスしているように見える男性には声がかからないのだ。


一度、あまりに忙しい時に声をかけられた際には先輩に言い返したことがある。

「今は私も来客対応中です。ご自分でやったらいかがですか。」


ものすごく驚いた顔をしていたのを覚えている。



書類のコピー

コピーは基本的に自分でとるものだ。
私自身はそうしてきたし、ほとんどの社員は自分でコピーをとっている。


私が融資担当だったころ、私以外のメンバーは男性だった。
先輩が通りすがりに「これ、やっとやっといて」「よろしく」と
顧客からの相談の多さで溺れそうになっている私の机に
私の仕事とは全く関係のない書類置いていき、そのままタバコを吸いに行ってしまった。



上司の指示ならわかる。
1つ上、2つ上の先輩男性に、それを言われる。
同じ総合職の、職位も同じ、給与も同じ、彼らに。
心の中で「コピーのひとつも自分で取れないのか」と悪態をついたこともあった。



勘違いしないでほしいのだが、私は
基本的には「協力したい」と思うタイプだ。

何かを探してそうだなと思えば声をかけて一緒に探すし、
忙しそうであれば「何か手伝えることはありますか?」と言うようにしていた。
行事の買い出しなども率先して行う。



ところが、だ。
「やって当たり前」の雰囲気を出されると話は違う。
人に物を頼むときの言い方が違っていないか?と思うのである。


「ごめん、ちょっとコピーお願いできる?」
「ありがとう」
そう言われれば全く印象が違うのに。

まあ、そのままタバコを吸いにいってしまえば
やはりムッとするかもしれないが。



取引先×セクハラ

取引先との飲み会では、スナックのカラオケでデュエットを歌うこともあった。

デュエット。

平成も終わろうとしていた時代に。
気分が良くなった取引先の男性は、私に頬ずりをした。
さすがにそんな昭和時代全開なことをされるとは思っていなかったのでかなり驚いた。
驚きは顔に出たが、拒絶の手を出すことはせず、なんとかやりきった。

しかし、表情に出してしまったことを、後から同僚に叱られたりもした。



コンパニオン

取引先とのパーティーが近づいていた。
若手の女性は浴衣を着て、お酌をする役目だった。

それはお酌をしなが挨拶をして、顧客へ日頃の感謝を伝える目的だと思っていたので納得していた。

しかし、当時の長からニコニコしながら言われた言葉はこうだった



「あなたたちはコンパニオンみたいなものだから」



衝撃だった。
職員をコンパニオンと呼ぶのか。
本部にいる役職がついた女性にも同じことを言えるのだろうか。

コンパニオンだってお酌の時間は時給が発生しているだろう。
就業時間外の無給で、わたしは何をやっているのだ。




積もり積もった不満は、私の顔を曇らせるようになった。
納得のいかない雑務や待遇にニコニコもできないし、かといってイライラを出すのも業務に支障をきたすので
結果的に能面のような表情で仕事をこなすしかなくなっていたのだ。






そうなるとどうだろう。
わたしは飲み会の席で「だめだよ~」とお叱りを受けるのである。

お決まりの嫁候補談がでてくる。
「俺は、結婚するなら○○さんがいいな~。○○さんはいいよ~」
「ほしがきちゃんはね、大人げないところあるからね」


○○さんとは、私の1つ下の後輩ちゃんだ。
私にならって、毎回の飲み会にも参加する女の子だ。
彼女は私から見ても感心するほど自己犠牲の強いタイプで、
どんな雑務も文句も言わず顔にも出さず何事もこなしていた。
年下ではあるが、そんな彼女のメンタルに尊敬もしていた。


私と一緒にいても、とてもいい子なのだ。
良い子なのか、はたまた私たちにとって「都合のいい子」なのか。

何度も「そんなに頑張って、辛くない?」と声をかけたい気持ちがあった。
その質問を投げかけるのが、少し怖い気がして、言えずに終わった。
返ってくる答えによっては、自分の愚かさを思い知らされるような気がしたからだ。



彼女の評価はやはり高く、顔に出てしまう私はお叱りの対象だった。

「ここが私のダメなところだよなあ」
飲み会が終わる帰り道で、一人反省会をしていた日々であった。



退職しても、不満に感じていたのは私の落ち度だと思っていた。
自分は大人げない人間。態度に出さず乗り切って一人前なのだ、という呪いがかかっていた。







現在の職場は、無意識の偏見や女性の不遇を改善する部署がある。
わたしが過去に「自分の未熟さがあらわれた事柄」だと思っていたこれらの体験は、
昔からある女性への不当な扱いということを知ったし、改善されるべき事柄であることも知った。






女性だって男性と同じ職場の戦力。
同僚男性のお世話がかりではないし、コンパニオンでもない。
それを嫌がるそぶりに「大人げないよ」という言葉は違う気がする。


いま、ひとつひとつ、昔の自分が成仏しているような気持ちになっている。

当時もっと良い立ち回りがあったのかもしれないが、当時はそれなりに精一杯だった。

とりあえずお疲れさまと、過去の自分を抱きしめてあげたい。


そして、私やその周囲の女性が感じてきたこの思いは
これからの若い女性に感じてほしくないとも思う。


もし、この記事を目にしている若い女性がいれば伝えたいことがある。


本当の女子力ってなんだろう。
サラダを取り分けることだろうか。
同僚男性の雑務を多くこなしてあげることだろうか。

不特定多数の嫁候補になる必要はない。
そんな風に女性をジャッジする人は視界に入れなくていい。


なるべく人に好かれたい。良い人でありたい、そう思うのは悪くない。



でも、誰にとっても都合の「良い人」になる必要はないのだ。





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