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260、おんな

コーラを最後まで、飲んだ。読書を一段落終え、本を閉じた。周りを見回してみる。
一個離れた、座席の女性が、店員に声をあげる
「ごめん、ちょっと、紙一枚ちょうだい」
いかにも、けんのある声だった。
水商売の女性だろうか。なんというか、迫力がある。ぼくは、目を合わせないようにした。
店員が素早く
「はい。一枚でよろしいでしょうか」
と、親切に冷静に対応していた。
「ああ。一枚でええわ」
行儀の悪そうな女のひとだな、と思った。
店員は、あんな、冷静に対応したが、ぼくが店員だったら、ビビって
「あ、はい!あの、一枚でいいですかね?」
と普段のひととしゃべってる、素の感じが表れていただろう。
マニュアルのことばなんて出ては来なかっただろう。よくできた店員だな、と思った。
女性。いや、もう、女と呼ぼう。
女は、ファンデーションを塗り出した。
他の客なんて、もう、おかまいなしだ。
とんでもない女やな。あんな女、家に連れて来たら、亡くなったお母さん、悲しむやろな。
しかし、まあ、その女も、となりでぼくに、noteでこんな描写されているとは、わかるまい。
壁に耳あり、障子に目あり、とはこのことだ。いつ、だれが、どこで、自分のうわさをされているか、わかったもんでないのだ。
となりの女は、まだ、化粧の鏡をしつこく、のぞき込んでいる。
もう、それ以上、きれいにならんて。
言いたかったが、こわいから、誰か代わりに言ってやってくれ。
あらあら。こんなことぼくが、書いてるのに、まだ、化粧してるよ、このひと。

ところで、ここどこか知ってる?
モスバーガーだよ。
はぁ~。ファーストフード店で、この態度。普段、どんな生活してるんだろうね。
あらあら。かれこれ、20分くらいか。
女は、化粧を確かめていた。
男が迎えにきた。細身の、髪の毛の長い、これまた、この女に合いそうな男だ。
「ちょっと、外で待っといて!いまいくわ」
まだ、帰ろうとしないよ。このひと。

先、帰ろ。
コーラの氷を捨て、コップを戻し、外に出た。雨が降っていた。
外では、男が傘を二本、持ってまっている。
いまからどこいくんだろうな、このひとたち。きっと、あてもない人生を生きてんだろうな。ま、ぼくも、ひとのこと言えないけど。
そうして、ぼくは、モスバーガーの近くにある、書店へ向かった。

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