「誤嚥と寿命は関係ある?」
ちょっと前に、トロミ調整剤まみれの食事を提供する事の問題について記事にしましたが、これは人生の最終盤にどういった生き方(死に方)をしたいかという哲学的な問題をはらんでいますので中々難しい問題です。
私はもう何度もこのトロミ調整剤の問題点に関する事を記事にしているのですが、最終的にはそういった食事を食べるご本人の意思の問題ですから、他人がどうこう言える事でもありません。
そこで、ちょっと参考までに私が実際に経験した事例をいくつかご紹介しようと思います。
その前に、トロミ調整剤とは何なのかを簡単におさらいです。
トロミ調整剤とは主に嚥下能力が衰えたお年寄りの誤嚥を防ぐ目的で使います。
誤嚥性肺炎を起こさないようそんな事をするわけですが、実際にどれほどこれを防ぐ効果があるのかについては、誰も調査などしていませんから分からないのが実情です。
つまりトロミ調整剤がお年寄りの健康寿命を延ばしているのかどうかは不明という事になります。
以上を踏まえて、まず私が働いていた施設で経験した二つの例をご紹介します。
まず80代中盤の男性の方の事例です。
この方は施設入居時にはほぼ自立出来ている方でしたが、食事中にむせて咳き込む事が増えたので介護チームから厨房の方にトロミ食で提供してくれとオーダーがありました。
ちなみにトロミ食にも段階がありまして、最初は汁物だけトロミ付けして下さいといった所から始まり、最終的には口に入るモノ全てにトロミ付けする所まで行きます。
この男性の場合は、ご家族の方がとても心配性で汁物だけトロミ付けの段階からすぐに全部にトロミ付けする所まで進んでしまいました。
ご本人は普通の食事をしたそうでしたが、心配性のご家族の要望で口に入るモノ全てにトロミ調整剤を多用するようになったという経緯です。
口に入るモノ全部にトロミ付けするという事は、水やお茶にも当然トロミ付けする事になるのですが、これは結構キツイ状態です。
この男性は結局そういった食事を摂るようになって数ヶ月で亡くなってしまったのですが、最後の方は、湯飲みを逆さまにしても残ったお茶がこぼれない程にトロミ調整剤を入れられていました。
私はそれを見て可哀想だとしか思えなかったのですが、ご本人が拒否の意思を示されなかったので何とも致し方ありません。ただ、トロミ剤を使う量が増えるにつれて、逆に食べる量が減っていったのを心配性のご家族はどんな気持ちで見ていたのでしょうか。
次の例は、70代後半の女性の事例です。
この方はご本人の希望でトロミ調整剤を使う様になりました。それも最初から全部の料理にトロミ付けして欲しいといった要望でした。
厨房としてはオーダー通りに作らなければなりませんのでその様にしたのですが、結局1週間ほどでご本人から普通食に戻して欲しいと要望がありました。
ご本人曰く「むせて咳き込む事が増えたから自分の意思でお願いしたけれども、トロミ食がこんなに辛いモノだとは思わなかった。」としみじみおっしゃっていました。ちなみにこの方、現在も同じ施設で元気に暮らしていらっしゃいます。
挙げた二つの例は、お二人とも認知症の症状はなく頭はしっかりとした方だったのですが、認知症の方でも、トロミ調整剤を使うととたんに食べなくなる例を私は何例か見ています。
それで結局元に戻したこともありますので、やはりトロミ調整剤については安易に使う事はおすすめ出来ないというのが私の考え方です。
このトロミ調整剤に関しては、また機会があれば記事にしてみたいと思います。
*アゼリアカルチャーカレッジ
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