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エッセイ|階段上り下り選手権にはまっている話

僕の生活では、階段を上り下りする機会がよくある。

まず、アパートの2階の部屋に住んでいるため、朝通学するときに、アパートの階段を降りないといけない。

僕は、朝家を出るまでの時間をいつも短く見積もっているため、たいていの場合ギリギリになって家を出る。家を出る前の1時間前はどうしてあんなに余裕な気持ちでいられるのか自分でも不思議だ。

1時間もあれば余裕っしょ!

というテンションで毎回ギリギリの時間になって家を出て、挙げ句の果てにはスマホを家に忘れたりして、大慌てで家を出るということもしばしばだ。

そんなときに、アパートの階段を降りていると、途中で足を踏み外しそうになる。タンタンという規則的なリズムで小刻みに足を動かすけれど、そのリズムが突然乱れ、一瞬宙に浮いたような感覚になり、慌てて手すりにしがみつく。その時の膝のむず痒さ、自分の足でありながら思うように動かないもどかしさで足が少し震える。

また、最寄り駅に自転車で行って、駐輪場に停めようという時も、階段を使わないといけない。駐輪場が地下にあるため、上り下りに階段が必要なのだ。

駐輪場の階段は二つあり、一つは自転車を押して上り下りをするための傾斜がなだらかなもの、もう一つは歩行者用のかなり傾斜が急なものだ。

僕は大体駐輪場に着いたときには、2、3分後にやってくる電車に乗れるか乗れないかの瀬戸際で、駐輪も迅速に行う。

そのため、自転車を停めた後はスマホの時刻表アプリと睨めっこしながら、階段を上っていく。

ここで僕の階段の上がり方の癖が出てくる。

それは、一段飛ばし上がりだ。一段一段階段を駆け上がるとかなり息が上がるため、一段飛ばしでのっそのっそと階段を上がっていく。普通に階段を上がってもそんなに上る速さ変わらないでしょ、と冷静な今となっては振り返ることができるけれど、急いでいる時はそうもいかない。

一段飛ばすことで、瞬発力がいらないし、YouTubeの動画をスキップする時のような時間を飛び越えている気にもなるのだ。

しかし、このような上り方をしていると、大股になり過ぎてしまって二段飛ばしとか、反対に一歩が小さくなって一段ずつ上がったりして、またもやリズムが崩れて階段の上で足をあたふたさせてしまう。

どうやら、階段の上り下りはリズムが大事のようだ。

僕はそれに気づいてから、階段を上り下りするときに頭の中でリズムを刻むようになった。

イチニ、イチニ、イチニ、イチニ、イチニ、イチニ、イチニ、イチニ、イチニ、イチニ

↑が小刻みに階段を下りるとき。

イィチニィ、イィチニィ、イィチニィ、イィチニィ、イィチニィ、イィチニィ、

↑が一段飛ばしで階段を上るときに頭の中で刻むリズムだ。

これをやり始めてから、少し階段を上り下りすることがうまくなった。しかもなんだか、楽しくなった。ミスなく速く踊り場にたどり着く。それがゲーム性を帯びてきたのだ。

僕は、いよいよ階段の上り下りにはまった。

大学にも多くの階段があるため、この階段上り下りゲームの舞台にはうってつけの環境だ。

僕は、一人で、イチニ、イチニ、イチニ、イチニ、イチニ、イチニ、イチニ、イチニ、イチニ、イチニと頭の中で唱えながら、できるだけ速く踊り場にたどり着くゲームを一人でやっていた。

先日、大学前でバスから降りて、広い庭を横切って大学の校舎に向かっていると、隣の校舎の2階に直接伸びている広めの屋外階段を、一人の学生が上っているのが目に入った。

僕は、しばらくその人を見て立ち尽くしてしまった。

階段を上るスピードが遅いのだ。僕なら、早く階段を登り切るために一段飛ばしでイィチニィ、イィチニィ、イィチニィ、とやっちゃうのに、目の前の学生は片足を次の段に置いたら、その段にもう片方の足を持ってくる。一歩一歩というより半歩半歩上がっているのだ。

僕は直感した。あの学生も階段登るのが苦手なんだ!

階段上り下り選手権は早く踊り場にたどり着いた方が勝ちではないな、と思った。安全にゆっくり上り下りした方がいいに決まってる。

明日は、半歩ずつ上り下りしてみよう。




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