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2023年6月 読んだ本

 今月は5月以上に本を読んだ。8冊くらい読めたらかなりいい方なんて呑気に考えていたが気づけば12冊に……。もともと本を読むこと自体速い方だけどちゃんと読んでいるはずだが、ただ速く読むことに意識が傾いているのかと少し怖くなるくらいだ。核心的なネタバレは書いていないつもりだが、もしかしたら触れているかもしれないのでネタバレ厳禁の方は読まない方がいいかも。

『君の波が聞こえる』乾ルカ

 主体はファンタジーであったが、現実の事柄とも絡めて色々考えることのできる内容だった。恋ではなく友情としての主人公の感情の表現の描き方がすごく好きでたくさんその表現をメモした。終わり方は賛否両論といったところだが、先をどのように想像するのかは自分次第。

p351 夜の中で輝く貴希の目こそが夜のようだ、と健太郎は思った。深々とした闇の色をしているのに、その奥にきらめくものが確かにある。真っ黒だからこそ、それがわかる。

君の波が聞こえる

『ほかならぬ人へ』白石一文

 今一番心惹かれている作家さん。白石さんの本を読むのはこれが初めてだった。二編で構成されていたがタイトル作が印象深かった。香水などのように付けた香りではなく、その人自身のにおいに惹かれて人間収まるところに収まるようになるというのが印象に残っている。短編という事もありもう少し詳しい情景や心情を読みたかったと惜しむ気持ちもあるがそれでもとても満足できた。

『東京奇譚集』村上春樹

 友人におすすめされた本。私は村上春樹という作家がどのような本をかくのかをまだ知らないから全体を通して、この人はこういう感じなんだなあというとてもうっすらとした感想を抱いた。一番最初のピアノの調律師の話は、自分自身が日常の中で起こる他人にとってはただ通り過ぎていくものかもしれない細やかな偶然に感動を覚えて、数日はそれを引きずるタイプだから共感できるところも多くて楽しく読めた。猿の話も非日常的で面白かった。八咫烏シリーズで"猿"という存在にわけもなく心惹かれているから、その延長線上としてのものかもしれない。

『痴人の愛』谷崎潤一郎

 いやあ~これが文豪かという感想。高校生の時に島崎藤村と谷崎潤一郎の有名作品をAとBの記号分け問題として覚えた記憶がある。その当時もとても気になるあらすじだったから電子辞書で読んでみようとしたものの、昔の独特な言い回しと電子辞書の読みづらさで断念していた。ナオミのふしだらな交友関係や遊びっぷりは私からするとあまり理解できるものではなく、ナオミの顔や身体がいくら美しいものであっても綺麗なものには思えなかったから譲治があそこまで心酔することは理解できなかった。ただ、ナオミという女ひとりに対して己が壊れるくらい狂わされる様とその美しさの表現力がすごかった。他の人の感想を読んでいても大体表現力について言及されている。この人が他にはどんな表現をするのか知りたいから他の本も読んでみたいと思う。

『わかって下さい』藤田宜永

 60代男性の恋のお話。あまり分厚いわけではなかったがたくさんの短編が詰まっていた。そういうわけもあり、後半に向かうにつれて話の展開が読めてしまった。また、ふたつの話連続でまったく同じ表現が使われていたから同じ人に対する表現かと勘違いしそうになった。私はまだ若いからその時になってみないとわからないが、60代になってもこうも純粋に人を好きになるという気持ちを持ち続けられるのだろうかと不思議に思った。しかし、各主人公の姿をみてもっと自分の気持ちに正直になってみてもいいように思えた。

『どれくらいの愛情』白石一文

 地元が福岡だから久しぶりに感じる博多弁と聞きなれた土地の名前が懐かしかった。なぜかふんわりとしか内容を思い出せないのだが、読了後に自分を救うことができるのは自分だけで、己の運命を変えられるのも自分だけであるとしみじみとした感情になった。

『烏百花 白百合の章』阿部智里

  蛍の章が言葉に言い表せないくらい好きな本だから今回の短編集もとても期待していた。さすがの阿部先生でその期待を裏切らないどころか期待以上だった。5月に書き留めるのを諦めた本が『烏百花 蛍の章』だったのだが同様にこれも書いたら長くなりそうなのと大切に残したいから、とにかくとても良かったということだけ残しておく。書くことを放棄しているわけではない。

『不連続の世界』恩田陸 

 恩田陸先生の本は有名な『蜜蜂と遠雷』しか読んだことがなくてあらすじを見て気になった本。他の人の感想を読んで『月の裏側』という作品の登場人物が主人公になっていることを知った。読む順番を間違えたのかもしれないが普通に読めた。少し不思議な話だったが読みづらさはなく、どんどん先が気になっていく物語だった。

『愛なんて嘘』白石一文 

 わかりやすく白石さんにハマっているので今月三冊目。タイトルからもう読む以外の選択肢がないと思った。これも短編集であるが、所謂普通の感覚からは逸れたひとたちの話だった。もちろん、なにを普通とするかは人それぞれで当人たちはそれが普通の感覚なのだから固定観念をぶつけるのは違うがそれ以外に伝えられる方法を見つけられなかった。普通というより常識に近いのかもしれない。愛なんて嘘だという感情は伝わった。一番最後の話が好きだった。

『冷静と情熱のあいだ Blu』辻仁成 

 少し間が空いて順正視点。断然あおい視点よりも好きだった。ふたつを合わせて初めて物語がひとつのものになったが二人とも互いを想う気持ちが抱えきれないほど重くて良かった。正直順正はあおいにこだわりすぎているのではないか、それは一歩間違えればただの執着ではないかとも感じたが順正のその感情は美しかった。もちろん、互いが同じように想っていたから成立する話で相手はもうそれを過去のものとしていたら一気に救いがなくなるが。最後は、過去と未来という暗い檻に囚われず現在に走り出した順正の幸せを願った。

『ダリア』辻仁成

 ダリアの花言葉は「華麗」「気品」「移り気」だそうだ。危険な香りがしながらもとても美しい花で、『冷静と情熱のあいだ』で辻さんの表現を好きだと感じたから読んでみたが、全く想像もしていなかった気持ち悪さですごかった。もちろん良い意味での気持ち悪さだ。一体どういう思考を持てばこのような物語を思いつくのか不思議でたまらない。

『ボトルネック』米澤穂信

 なんだろう。たまたまこれを読んだ時の自分の精神状態がすこぶる安定していて上を向いていたから助かったが、もし自分がぐらついているときにこれを読んでいたらそのまま闇に吸い込まれていたかもしれないと思った。読者次第ではかなり捉え方が変わってくるだろう。私は、主人公に生きる道を選んでほしいがすべてがうまくいくわけでもなく、自分という人間がなぜ存在するのか考えざるを得なかった。

 12冊目を読み終わった時に6月中はずっと続いていた読書意欲がプツンと切れてしまって久しぶりに韓国ドラマを観たりしていたのだが、改めて感想を書いてみるとまた読書をしたいという気持ちがふつふつと湧いてきた。個人的に7月は忙しくなりそうだけどマイペースに読書を続けていきたいと思う。感想を書くことは楽しいから。

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