見出し画像

企業におけるD&I推進のススメーーその基本的な考え方と取り組み事例 VOL.4「社会貢献活動への参加」

本連載も4回目を迎えることになった。VOL.1では企業活動とダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の関係を概観、VOL.2では社内の福利厚生、VOL.3では商品・サービスの設計という観点からD&Iにフォーカスしたが、最終回となる今回は、社会貢献活動という観点からこれにフォーカスするとともに、いくつかの事例を紹介する。

【細谷夏生氏 プロフィール】
日本法弁護士(資格登録を一時抹消中)。国内外でジェンダーと家族に関連する法律を中心に、実務と研究を行っている。

■複数の法人をネットワークするイニシアティブとしての取り組み

 本連載では、これまで3回にわたり、企業が社内制度や自社が提供する製品、サービス、施設等の設計においてD&Iを進める方法について、Famieeのパートナーシップ証明書を切り口に紹介してきた。D&I推進についても、ビジネスにおける他の人権課題同様、まずは自社のサプライチェーンに直接かかわるステークホルダーに存在する課題から着手することが求められるため、自社に直接関連する部分のD&I推進は、企業にとって最も重要なポイントの1つである。

 一方、近年では、企業が自社のサプライチェーンを超えた社会全体の取り組みを通じてD&I推進を行う事例も増えつつある。そのような取り組みの種類は多岐にわたり、規模や取り組みの主体もさまざまである。

 たとえば、サステナビリティ全般にかかわる世界的なイニシアティブとしては、企業に対して職業と雇用についての差別撤廃への支持を求めることを内容の1つとする国連グローバル・コンパクト(UN Global Compact)があり、2023年10月15日現在で584社の日本企業が署名している。国連グローバル・コンパクトは、ジェンダーの視点から企業のD&Iを促進する行動原則として、国連女性機関(UN Women)と共同で女性のエンパワーメント原則(Women’s Empowerment Principles)も開発しており、同原則には2022年4月3日時点で281社の日本企業が署名している。また、反LGBT施策の解消を企業視点から働きかけるグローバル企業グループであるOpen for Businessや、同性婚の法制化に賛同する企業を可視化するための国内キャンペーンであるBusiness for Marriage Equalityなど、 民間セクターとの協働をテーマとする イニシアティブも多数存在し、多くの日本企業が参加/ 賛同している。

■特定の法人が主体となって行う取り組み

 このような取り組みは、イニシアティブやキャンペーンの形で行われる場合に加え、法人格を有する非政府組織(NGO)や非営利団体(NPO)、場合によっては企業が主体となって行われる場合もある。参加/ 賛同企業が運営資金を拠出することが多いイニシアティブやキャンペーン型と異なり、法人が主体となる取り組みは、基本的には運営主体である法人が活動資金をねん出することが想定されているため、資金難から十分な活動ができなかったり、人手不足に陥ったりしている事態が多々ある。そのため、企業はD&I推進のための取り組みを運営している法人に対し、活動に必要な資金、物資、人材等を提供することによって、社会全体のD&I推進に貢献することが考えられる。

 たとえば、Famieeはパートナーシップ証明書の発行サービスを通じて多様な家族が社会的に認められ家族向けのサービスを受けられるようにすることを目指す一般社団法人であり、まさにD&I推進のための取り組みを運営している法人であるが、Famieeの理念と活動に賛同する法人からは「 Famieeサポーター会員制度」[1]を通じて、また個人からは別途[2]、活動資金の寄付を受け入れている 。また、Famieeの理念に賛同する企業及び個人から、プロボノとして活動を支援する人材を受け入れたり、企業が提供するサービスを無償で提供してもらったりしている 。

 さらに、D&I推進のための取り組みを運営している法人が企業も利用可能な製品やサービス等を提供している場合、それらの製品やサービス等を利用し、可能であれば利用している旨を対外的に公表することも、製品やサービス等の知名度向上や収益増加に貢献することによって、社会のD&I推進につながり得る。たとえば、LGBTフレンドリー(ゲイ、レズビアン、トランスジェンダー等)な住宅・不動産購入や賃貸・売買をサポートする不動産会社である(株) IRISや、ダイバーシティ採用を実現するための求人媒体の開発・運営等を行っている(株) JobRainbowは、いずれもFamieeのパートナーシップ証明書の導入企業であり、LGBT層を主な顧客ターゲットとしたサービスを運営しているが、企業は自社の保有不動産賃貸や採用活動において両社のサービスを利用することやその周知を通じてそれらのサービスを支援し、サービスが志向する社会のD&I推進にも貢献することができる。

 2023年、企業には、業種や規模を問わずすべからくD&I推進が求められていることはもはや疑念の余地がない。そして、多くの企業では実際に取り組みが開始され、または開始されようとしていることであろう。しかし、「D&Iとは具体的にどのように進めることができるのか」「企業がビジネス活動の中でD&I推進に貢献するためにはどのような方法があるのか」といったD&I推進の担当者がまず持つであろう疑問については、明確な回答がないのが現状である。本連載は、そのような企業や担当者の方を念頭に、Famieeが発行するパートナーシップ証明書を切り口として、企業活動とD&Iの関係をできるだけ多面的に紹介したものである。

 今後、社会もFamieeのサービスも加速度的に変化していくことが想定されることから、本連載の内容は遠からず古いものとなってしまうかもしれないが、本連載を通じて、一人でも多くの読者の方が企業活動にD&I推進の考え方を取り入れること、及びそのための有効なツールの1つであるFamieeのパートナーシップ証明書に興味を持っていただければ幸いである。


[1] https://famiee.org/support/corporation/
[2] https://famiee.org/support/individual/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?