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家族のカタチはどんどん多様化。家族という言葉にとらわれず、自分が望む関係性の中で生きられる社会になればいい。

【Famieeディスカッション 第4回<後編> ゲスト:細谷夏生さん(弁護士*)】


多様な家族のあり方を世の中に投げかけていく「Famieeディスカッション 家族のカタチ対談シリーズ」の第4回、後編。前編に引き続き、アメリカ在住の細谷夏生弁護士*と、Famiee代表理事の内山幸樹が、海外を、将来を見つめて、新しい家族のカタチを標榜します。

前編をお読みでない方はこちらから:https://note.com/famiee/n/n7ed05e046d96


(noteではディスカッションの一部を記事にしています。ディスカッションの全内容は、FamieeのYouTubeチャンネルで後日公開予定です)

*2023年6月現在、海外勤務のため日本法弁護士登録を一時抹消中

「家族」をひと括りにせず
個別の事案として向き合うことが大事

内山 幸樹(以下、内山):前半では、日本における家族の歴史や、同性婚への司法判断の変化などについてうかがいましたが、後半は家族にかかわる課題についてお聞かせいただきたいと思います。

細谷 夏生(以下、細谷):家族に関する課題には、いろいろなものがあります。たとえば同性婚について。同性婚自体の法制化の議論に加えて、地方自治体で最近導入されている同性パートナーシップ証明制度をこのまま続けていくのか、それとも何らかの方法で統合していくのか、もしくは将来的には同性婚を認めるというかたちで国の制度に吸収していくのか。それから、選択的夫婦別姓を導入するかどうか。今日はそのひとつひとつの課題をていねいに取り上げてお話しする時間はないのですが、私個人としては、それらを「家族の問題」として一括りにしてしまうのは、実はあまり良くないアプローチのしかただと考えています。

家族というのは、ある意味で、法的な概念ではない。1人1人それぞれの心の中にある概念です。ですから、その課題に法的観点からアプローチするには、その問題が、誰と誰のどんな人間関係がベースになっていて、どんな権利や義務が焦点になっているのかということを、ひとつずつクリアにしながら考えていくことが必要です。それなのに、議論の出発点を「家族」に置いて、そもそもどんな「家族」について考えているのかを明確にしないまま議論を始めてしまうと、人によってイメージしている家族が違っている可能性があるので、議論がうまくかみ合わなかったり、すり合わせでつまずいてしまったりして、結局、困っている人の助けになれない可能性があります。

同性婚の法制化の例で考えてみます。この問題は何についての議論なのかというと、たとえば「性別が同じ人たちの法律上の結婚を認めるかどうか」となりそうですが、この問いは決して単純ではありません。「性別が同じ」の基準となる「性別」とは、生まれたときの体の性別(sex)なのか、性自認(gender identity)なのか、法律上の性(legal gender)なのか。「(結婚をする)人たち」という部分については、2人に限定するのか3人以上の場合についても検討するのかという問題がありますし、さらに、「法律上の結婚」については、異性カップルの「結婚」とは違う制度でもいいのか、それとも異性カップルと同じ「結婚」制度を利用することを意味しているのかという問題があります。これだけを見ても、「同性婚を法制化するかどうか」という議論は「同性カップルは家族になれるか」という問いとイコールではなくて、もっとたくさんの考えるべきことが含まれているということがわかっていただけると思います。

内山:Famieeでは最初、婚姻に相当するような関係を、法律上の契約ではなく民間契約で実現するにはどうしたらいいかというところから議論をスタートさせました。初めは、Famieeのパートナーシップ証明書の申請の際に、法律上の結婚に付随する権利と義務をお二人がどうカスタマイズできるようにするかということからサービスの設計を始めました。ところがその途中から、生きていくためには、いわゆる結婚に相当するような関係を追求する以外に果たして方法はないのだろうか、というところに行き着きました。

たとえば、ぼくは今、1人でアメリカで暮らしていて、家族はそばにいません。でもアメリカには、個人的にすごく力になってくれている人達がいます。もしもぼくが病院に担ぎ込まれるような事態になったとき、ぼくの医療に関するジャッジは、その人達に委ねるほうが、日本の家族との連絡をとるよりも現実的です。その人達がぼくにとって家族かと言われると家族ではないですけれども、現在の社会でいわゆる家族と認識されている関係にある人だけに認められている権利の一部、延命治療の是非とか、手術方針の判断とかの権利を、その人達に渡したいと思っている。

婚姻制度のパック商品に入っている権利と義務全てではなくて、「特定の権利と義務だけをあげます」という、パスポートみたいな、認定証みたいなサービスがあってもいいと思うのです。まさにソリューションというのは、さまざまな観点から考えられるということがわかってきて、いろいろ悩んでいるところです。

法律婚以外にも選択肢を広げたイギリスと
家族の概念を拡張したブラジルの事例

内山:細谷先生がご存じの海外の事例で、興味深いもの、また、Famieeの今後のサービス展開の参考になると思われるものがあればぜひご紹介ください。

細谷:はい。今までの日本社会には、法律上の結婚という、ある意味で1種類の権利と義務のパック商品しかなかった。しかも、それにはアクセスできる人とアクセスできない人がいる。もっと多くの人が婚姻に付随する権利と義務にアクセスできるようにするための方策のひとつは、結婚という今あるパック商品にアクセスできる人を増やすこと。これがいわゆる同性婚を法律で認めようという考え方です。でもそれだけではなくて、たとえば結婚とは別の中身とアクセス条件が定められたパック商品をつくることも考えられます。その一例が、地方自治体で導入されている同性パートナーシップ証明制度であり、Famieeがやろうとしていることも、この2つのアプローチのうちの後者に当たると考えています。

海外の事例を2つご紹介します。1つ目は、その後者のアプローチ、つまり既存の法律婚以外のオプションを設けた例です。イギリスのイングランドとウェールズでは、法律婚をすることができなかった同性カップル向けの制度として、シビル・パートナーシップ制度というものを設けました。これがその後、変遷を経て、現在では異性カップルも利用できるようになっています。また一方で、同性婚も合法化されました。つまり今では、同性カップルも異性カップルも、それぞれ法律婚とシビル・パートナーシップ制度の好きなほうを選ぶことができるようになっています。

法律婚とシビル・パートナーシップ制度には、実はそれほど大きな違いはないのですが、いくつか違いがあります。たとえばカップルのどちらかがパートナー以外の人と性的関係を持った、いわゆる不貞行為があった場合に、法律婚ではそれが離婚事由になる。けれどもシビル・パートナーシップ制度では、それは関係解消の事由にはなりません。

2つ目の例は、ブラジルです。ブラジルでは法的に同性婚が認められています。ですので、これは、先ほどの2つのアプローチでいうと、前者に当たります。同性婚ができる国はほかにもありますが、ブラジルはその経緯がちょっとユニークなのです。

2011年に、最高裁が同性カップルが結婚できるという判決を下したのですが、そのときに議論になったのが、同性カップルは憲法に定められている「家族」に相当するかどうかという点でした。「家族」に相当すれば、結婚する権利を含むいろいろな権利をまとめて享受できることになります。ブラジルの司法は、これに同性カップルが含まれるという判断を下したのです。法が定めている「家族」の範囲、概念を拡張したわけです。これによって同性カップルは、結婚できるようにもなったし、社会保障などの権利も享受できるようになりました。

内山:日本の憲法には家族の定義がないので、同性カップルがブラジルと同じ道筋を通って権利を獲得することはできないのですね。

細谷:残念ながら、そうかもしれませんね。

代替サービスで補完すれば済むわけではない
真に多様性を包含する社会の実現を

細谷:こと同性婚について、日本での判例を見ていて、私が特に注意しなければならないと思っている点が2つあります。1点目は、婚姻できないデメリットを代替制度でカバーできればそれで良しとする考え方。先ほど言ったように、婚姻制度は権利と義務の“パック商品”のようになっていて、結婚することでいろいろな権利と義務がまとめてついてきます。そのどれにメリットを感じて結婚するのかは、人によって違いますし、もちろん、権利や義務以外の理由で結婚する人もたくさんいます。なのに、結婚にアクセスできない人を対象に、結婚についてくる権利と義務の一部だけを提供する制度を設けて、それでもう結婚自体へのアクセスはなくても良いと認めてしまったら、人が結婚することの意味を、たとえ意図していなかったとしても決めつけてしまうことになる可能性があると思うのです。

2点目は、仮に、現在法律婚にアクセスできない人だけを対象にした、今の法律婚が持っているさまざまなメリットを全部カバーできる代替制度を作ったとしても、それで良いとは私は思わないのです。アメリカの公民権運動のときの有名な話ですが、黒人が白人と同じバスに乗ることが禁止されているという問題の解決策として、同じ目的地に、同じ所要時間で到着する黒人用のバスを出すという案が提示された。でもそれは差別の解消にはならないし、平等ではない。同じ建物に入れても、裏口から入らなければならない人をつくるということ自体が問題です。

同性カップルが結婚できないことの不利益は絶対にあります。法律を急に明日変えるわけにはいかないから、それを埋めるための暫定的な制度をつくることも必要だと思います。けれども私は、Famieeのサービスは、同性婚が法制化されても残るサービスでなければならないと思っています。同性婚が法制化されたら不要になってしまうようなサービスにはなってほしくない。つまりFamieeのサービスは、代替サービスではないと思っているのです。

内山:そうですね、ありがとうございます。私もそう思っています。

多様な家族、さらに家族を超えて、
新しい社会のあり方や生き方を支援したい

内山:最後に、日本の家族をめぐる課題解決の方向性と将来のビジョンについてのお考えをお聞かせください。

細谷:繰り返しになりますが、今ある課題を、家族の課題としてまとめてしまうのではなく、もっと具体的なところまで分解して、1つ1つていねいに向き合って解決していくことが重要だと思います。家族に関する考え方は人それぞれに違っていて良いし、誰かから認められたり、否定されたりするものではない。その考え方が、もっと社会の中に浸透していけばいい。みんながある意味、家族という言葉にとらわれないで、自分のつくりたい関係性、人間関係の中で生きていけるような社会になればいいなと思います。

法律は社会のインフラです。社会が変われば法律も変わるべきだし、逆に法律を変えることで社会の行き先をリードしていくこともできると思っていますので、私は法曹として、法律や法制度を通して良い社会をつくることに貢献していきたいです。

内山:Famieeも家族を定義することはしない方針です。いろいろな人たちの、「私たちにとってはこれが家族」という家族のカタチに対して、Famieeは証明書を発行していきたいと思います。それに対して、たとえば生命保険会社が「ここまでを生命保険の受取対象にします」とするなど、各企業が自分たちのサービスに合った家族のカタチを選択する。Famieeのサービスはその土台でしかない。社会に向けて多様な選択肢を提示する立場になれればと思っています。

近年、家族のカタチは本当に多様化してきています。対象は男女でなかったり、4人なり5人なりのグループの場合もあります。応用形として、法律婚では特定の相手とのパックになっている権利と義務を、複数の相手と分散して結んでもいい。もっと言えば、「家族」というカタチにとらわれなくてもいい。

細谷:はい。つまりFamieeは、「家族」だけに向けたサービスではないということですよね。そもそも誰が自分の「家族」なのかは一人一人が決めることができるし、さらに、自分に関する権利や義務の一部は「家族」とシェアして、残りは家族以外に委ねることも可能。そのどちらにもFamieeの証明書は使える。「家族」を定義しないし、「家族」か「家族」でないかで利用者をはじかない。そういうオープンな制度、サービスだということですね。私は5年ぐらいFamieeにかかわらせていただいていますけれど、最初からまったく理念は変わっていませんが、サービス自体はどんどん進化しているなと感じています。

内山:ありがとうございます。ただ、Famieeが新しい生き方のためのツールを提供したとしても、それだけでは世の中は変わらない。新しい家族のあり方を受け入れることが大事だという考え方が世の中に浸透していかないと。そういった風土づくりとソリューションがセットになってはじめて、世の中が前に向かって進み始めるのだと最近すごく感じるようになりました。

細谷:そうですね。私も微力ながらそのお手伝いをしていきたいと思っています。

内山:よろしくお願いいたします。今日はありがとうございました。

(noteではディスカッションの一部を記事にしています。ディスカッションの全内容は、FamieeのYouTubeチャンネルで後日公開予定です)

一般社団法人Famiee
https://www.famiee.com/



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