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『勇者ロト異聞録~ルビスの龍宮伝説』(浦島太郎ドラクエver.)

むかしむかし、遥かなる地「アレフガルド」は「竜王」という大魔王に支配されていました。
しかし、伝説の勇者「ロト」の血を引く若者が現れて竜王を打ち倒し、平和を取り戻したのでした。
その後、若者はアレフガルドの都(みやこ)「ラダトーム」の王女、ローラ姫と共に旅立って行きました。

旅の途中、ローラ姫が身篭っていることが分かり、近くの港町に留(とど)まることになりました。

若者が身重のローラ姫を置いて海辺に歩いて行くと、
子どもたちが大きなはぐれメタルを捕まえていました。

そばによって見てみると、子どもたちがみんなではぐれメタルをいじめています。

「おやおや、かわいそうに、逃がしておやりよ」
「いやだよ。おいらたちが、やっと捕まえたんだもの。こいつを倒して一気にレベルを上げるんだ!」

見るとはぐれメタルは涙をハラハラとこぼしながら、若者を見つめています。

若者はお金を取り出すと、子どもたちに差し出して言いました。

「それでは、このお金をあげるから、私にそのはぐれメタルを売っておくれ」
「うん、それならいいよ」

こうして若者は、子どもたちからはぐれメタルを受け取ると、
「大丈夫かい? もう、捕まるんじゃないよ」
と、はぐれメタルをそっと、海の中へ逃がしてやりました。

さて、それから二、三日たったある日の事、ローラ姫とお腹の子どものために、若者が海に出かけて魚を釣っていると、

「…すみません、すみません」
と、誰かが呼ぶ声がします。

「おや? 誰が呼んでいるのだろう?」
「わたしですよ」
 すると海の上に、ひょっこりとはぐれメタルが頭を出して言いました。

「このあいだは助けていただいて、ありがとうございました」
「ああ、あの時のはぐれメタルか」
「はい、おかげで命が助かりました。ところであなたは、精霊ルビスさまにお会いしたことがありますか?」
「ルビスさま? さあ? ルビスさまって、どこにいるんだい?」
「海の底です」
「えっ? 海の底へなんか、行けるのかい?」
「はい。わたしがお連れしましょう。さあ、私に触れてください」
 若者が触れると、はぐれメタルはルーラを唱えました。

気が付くと、立派な宮殿に着いていました。
「着きましたよ。この宮殿がルビス様のお住まいです。さあ、こちらへ」

はぐれメタルに案内されるまま進んでいくと、この宮殿の主人の美しい精霊ルビスさまが、
色とりどりのスライムたちと一緒に若者を出迎えてくれました。

「ようこそ。わたしは、この宮殿の主人のルビスです。
このあいだははぐれメタルを助けてくださって、ありがとうございます。
お礼に、宮殿をご案内します。どうぞ、ゆっくりしていってくださいね」

若者は、宮殿の広間ヘ案内されました。
 用意された席に座ると、スライムたちが次から次へと素晴らしいごちそうを運んできます。
 ふんわりと気持ちのよい音楽が流れて、パペットマンや踊る宝石の、不思議な踊りが続きます。
 ここはまるで、天国のようです。

そして、
「もう一日、いてください。もう一日、いてください」
と、ルビスさまに言われるまま宮殿で過ごすうちに、幾日か過ぎてしまいました。

ある時、若者は、はっと思い出しました。
(ローラ姫とお腹の子どもは、どうしているだろう?)

そこで若者は、ルビスさまに言いました。
「ルビスさま、今までありがとうございます。ですが、もうそろそろ帰らせていただきます」
「帰られるのですか? よろしければ、このままここで暮しては」
「いいえ、わたしの帰りを待つ者もおりますので」
 するとルビスさまは、さびしそうに言いました。

「…そうですか。それはおなごりおしいです。では、おみやげに『復活の玉』を差し上げましょう」
「復活の玉?」
「はい。この中には、あなたが宮殿で過ごされた『時』が入っております。
 これを開けずに持っている限り、あなたは年を取りません。
 ずっと、今の若い姿のままでいられます。
 ですが一度開けてしまうと、今までの『時』が戻ってしまいますので、決して開けてはなりませんよ」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
 ルビスさまと別れた若者は、またはぐれメタルに送られて地上へ帰りました。

地上にもどった若者は、まわりを見回してびっくり。
「おや? ずいぶんと様子が変わったな」
 確かにここは若者が釣りをしていた場所ですが、何だか様子が違います。

ふと見ると、遠くの方にあるお城から火の手が上がっています。
若者が駆けつけてみると、なんとお城はモンスターの襲撃を受けていました。

「バカな!大魔王は倒したはずなのに、なぜ魔物が!?」
不思議に思いながらも、若者は魔物を切り倒しつつ、お城の中を進んで行きました。

壁の向こうからモンスターの不気味な叫びが聞こえてきたかと思うと、人間の悲鳴が聞こえました。
若者は思わず扉を蹴りあけて中に入ると、そこにはこのお城の王様と思われる人が倒れていました。

「大丈夫ですか?しっかりして下さい!」
「おお、旅の人…ワシはもうダメじゃ。どうか一刻も早くこのことを、ローレシアとサマルトリアに…」

それは、若者には聞いたこともない地名でした。

「いったいそれは、どこなのですか!」
「ローラ姫と勇者ロトの血を引きし一族の王国じゃ。ローレシアとサマルトリア、そしてわがムーンブルク…」

若者は絶句しました。
ルビスさまの宮殿で過ごしている間に、地上では何十年の時が流れ、若者とローラ姫の子孫が王国を作っていたのです。
しかも、今その王国が、蘇った大魔王の襲撃を受けている…。

若者の勇者の血がたぎりました。

「分かりました。必ずや大魔王を打ち倒して見せます!」
「おお、旅の人よ、ありがとう…。わが娘を、どうか…頼む…ぐふっ」

ムーンブルクの王さまは静かに息を引き取りました。

若者は玉座に残されていた地図を頼りに、ローレシアに向かいました。

ローレシアには、すでにムーンブルクからの知らせが届いており、
ローレシアの王子が、大神官ハーゴンを打ち倒す旅に出発したとのことでした。

若者はローレシアの王子の後を追って、サマルトリアに向かいましたが、
ここでもサマルトリアの王子はすでに旅立ったとのこと。

若者は考えました。
三人の子孫たちは、まだ十分な経験を積んでいないはず。
そうだとすれば、大神官ハーゴンを打ち倒すまで、影ながら力になる方が良いのではないかと。

そして、若者は三人とは別の道を歩みながら、様々な手助けを行いました。

ローレシアの地下には悪魔神官を捕らえておき、倒したらいかづちの杖を落とすように細工しました。
港町ルプガナでは、三人の経験を見極めるため、特定のモンスターに勝たない限り、船を貸さないように依頼しました。
アレフガルドでは先に竜王の子孫を打ち倒しておき、三人の邪魔立てをしないように言い聞かせました。

こうして三人のロトの子孫たちは、知らず知らずのうちに若者の手助けを借りながら、
大神官ハーゴンの本拠地、ロンダルキアを目指して進んでいったのです。

そしてついに、ロンダルキア台地の奥深く、大神官ハーゴンの居城に辿り着きました。
しかし、お城に入った三人は目を疑いました。
どう見ても、平和なローレシアの姿、そのものなのです。

若者は、これがハーゴンのまやかしであることに気付いていました。
「騙されてはならぬ!これは全てまやかしである!いまこそ、このロトの剣の力を見せる時!」

若者が腰から抜いた剣を高々と掲げ、一振りすると、まばゆい光が辺りを照らし出し、
お城全体にかかっていた魔法の効果が消え去りました。

すると、ハーゴンの居城本来の邪悪な姿が現れ、その中心には禍々しい気配に満ちた悪魔の塔がそびえ立っていたのでした。
三人のロトの子孫たちは、この最上階にハーゴンがいると確信し、塔を駆け上がって行きます。

行く手を阻もうと、たくさんの魔物たちが後を追いかけようとしますが、その前に若者が立ちはだかりました。
「これ以上、一歩も先に進ませるわけにはいかん!私のかわいい子孫たちが、見事ハーゴンを討ち果たすまではな!」

若者は鬼神の如く、魔物を切り伏せて行きます。
かつて、たったひとりで大魔王を倒した男です。
如何にハーゴン直属の魔物と言えども、とても歯が立つものではありませんでした。

やがて、塔の上から邪悪な断末魔が聞こえてきました。

若者は、ロトの勇者たちの勝利を確信しました。
「さて…」
 若者の手にはルビスさまからもらった「復活の玉」が握られていました。

「ルビスさまは言っていたな。この『復活の玉』を使うと、そこに込められた『時』が戻ってしまうと。
 もうこの世界での役目も終えたようだし、いっそ、これを使ってみるか…」

若者は、ルビスさまから使ってはいけないと言われていた「復活の玉」を使ってしまいました。
 すると中から、まっ白の煙が出てきました。

「これは!」
 煙の中に、愛しいローラ姫の姿が映りました。
「ああ、ローラ姫!わたしは、戻ってきたんだ」
 若者は、喜びました。

復活の玉から出てきた煙は次第に薄れていき、それが消えた時には若者の姿も消え去っていました。

聞くところによると、ローレシアとサマルトリアの王子には若者の面影が、
 そして、ムーンブルクの王女には、ローラ姫の面影が、確かに残っていたと言われています。

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