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ベンチャーで初めて組織づくりをする人へ

ベンチャーで一人目の人事担当者になったり、人事周りの再建を任された場合に “一体何から取りかかれば良いの!?” となるケースが多いように感じます。私自身もベンチャーで一人目人事担当、一人目管理担当を経験しましたが、知人から “人事や組織づくりをどうしたら良いかわからない” と個別に相談を受けることが増えてきたので、自分の体験談を言語化して一度残してみようと思いました。最近だと "採用がうまくいかない" 、"入社してもらったら上手くフィットしなかった" 、という課題を耳にするので、その辺りも解消できれば良いな、と思っています。

以下に記載する内容はあくまで私個人が実務でゼロから考え抜いた施策の一覧なので、大企業で長く人事を歩まれてきた方から見ると異端かもしれませんが、実際のベンチャーの実務ではこんな感じなのか、と感覚を掴んで頂けたら良いのかなと思います。

<この記事を読むのに適した方>
・会社経営をしているが、人事に何を期待すれば良いか整理できていない人
・なんとなく人事担当をしているが、業務範囲が明確にわかっていない人
・人事担当になりたてで、もっと人事領域のレベルを上げていきたい人

今回は目次を兼ねて施策の概要を整理して一覧にしつつ、個別の内容についてはニーズがあれば今後適宜詳細な記事を書いていこうと思っています。

0. 組織づくりの全体像ってどんな感じ?

組織づくりを任された場合、やるべきことは多岐に渡ります。これから概要を一つ一つ説明したいと思いますが、まずは全体像を一度把握しましょう。下図は私がこれまで経験してきた組織づくりの一例ですが、「沢山やらないといけないんだな・・」ということが分かるかと思います。組織目標の設計から人事制度、心理的安全性の確保から人物像の設定、社外認知の向上など、やらなければいけない課題は山積みでしょう。一気に捌くことは大変なので、一つ一つ根気強くやっつけていきましょう。

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1. まずは、会社の組織課題をまとめる


会社設立からすぐ人事周りが整っていることは稀なので、だいたい最初は会社で起きている課題を整理するところからスタートすることが多いです。課題は一箇所の資料(Google docs等)に纏めて関係者が情報にアクセスしやすいように準備しつつ、経営陣や社員にヒアリングして整理していきましょう。整理された情報については、担当者側で1ヶ月・3ヶ月・半年毎と定期的にアップデートをしていくと良いと思います。ベンチャーの場合、数ヶ月も経てば一度決めた話が過去の話になるケースが多いので、随時最新情報をキャッチアップして、アップデートしていくのが正解と思っています。

<課題をまとめる際に必要な観点>
・経営陣の目指している組織像と、メンバーが抱く理想の組織像がズレていないか?
・経営陣の目指している組織像は言語化されているか?
・経営陣の目指している組織像は浸透しているか?
・会社のミッション、ビジョン、バリューは浸透しているか?
・何でも発言したいと思える「心理的安全性」は確保されているか?
・採用基準は明確になっているか?
・採用基準に沿った採用とオンボーディングはできているか?
・外部環境と社内状況で未整備の制度はないか?(リモート、
副業、残業、休暇、手当、ダイバーシティ、育児・介護、コンプライアンスの考え方)

以下は、私の場合はこんな感じで纏めてましたというサンプルです。ご参考までに。

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2. 会社が目指す組織目標をまとめる

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今後人事制度や採用基準など設計していくために必要な要素で、会社が中長期でどういう組織を目指しているのかを整理していきます。既に存在していればミッションやビジョン、長期の事業目標などを分かりやすく一覧化・整理していきましょう。特に、社長を含めた経営陣が目指しているGOALの解像度を高めていくことが必要です。あなたが人事担当者であれば、経営陣が何を考えているのかをとことん壁打ちして聞き出しましょう。大抵の場合、みっちり腹を割って話合わないと本音が聞き出せないケースが多いので注意が必要です(経営者はほとんどのケースで組織の事を考えるのが劣後するためしっかり考える時間を取らないと考え切れないことが多いです)

よくあるケースとして、抽象度の高いキーワードやキーフレーズが出てくるので、そこはコンサルティングの基本の「なぜ」を何度も聞き、経営陣の頭の中を徹底的に深堀りしていく必要があるので気を付けましょう。

<組織目標をまとめる際に必要な要素>
・5年後、10年後の理想の組織像についてイメージが湧いているか?
・組織目標がミッションやビジョンを実現するための逆算やマイルストーンとなっているか?
・組織目標と課題がどの程度ズレているか正しく把握できているか?

逆に、あなたが経営者や経営者に近い責任者の場合、抽象度の高い発言(それっぽく聞こえるけど良く聞くと分からないみたいな発言)がないか、社員・スタッフの皆さんが正しく理解できているのかを適宜確認しましょう。会話する中で「あぁ、そういうことだったんですね!」「今までモヤッとしてたんですが、やっと理解できました」みたいなケースが多いので気を付けましょう。

3. バリューをつくる

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組織目標を解像度高く理解できていれば、あとはその具体的な行動基準や判断基準を纏め、それをバリューとして言語化・浸透させていく作業です。詳細な策定プロセスはここでは触れませんが、どのような手順を踏めば良いのか概要だけ記載しておきます。

<バリューをつくる目的>
①業務に対する取り組む姿勢、採用や評価など様々に判断を迫られる場面において社員、スタッフ個々人が共通の判断基準で動けるようにする。例えば、AかBか判断に悩むとき、都度判断せず、どちらを選択すれば良いか全員が予め共通認識を持てていることが大切。
②社員、スタッフ同士の認識ズレや背景ズレを減らし、コミュニケーションロスを改善してお互いに信頼して気持ち良く仕事ができるようにする
<バリューをつくる上での留意点>
・策定がGoalではなく、浸透・体現された状態までイメージして決める
・組織状態に合わせて作るため、適宜updateを加えていく前提で決める
・バリューを決めることで沿わない考え方が社内に一部出てきてしまうかもしれないが、理想の組織目標から逆算して勇気を持って取捨選択する(なのでできるだけ早く決めておく方が望ましい)
・数が多いと覚えきれず、バリューの浸透が弱まるので3個を目安に絞る
・行動の尺度が測りやすく、称賛しやすいものにする
・覚えやすく、口に出して使いたくなってしまうものにする
・最初から人事制度に組み込む前提でつくる
“自社らしさ” のあるユニークなものがあるとなお良い

策定プロセスについては会社毎に様々と思いますが、参考までに以下のような手順が挙げられます。

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4. 人事制度をつくる

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人事だけでなく、経営陣や一緒に働くメンバーにとって最も重要な制度設計です。制度設計系は奥が深い領域でなかなか難しいですが、一度決めたら終わり、というものではないので、仮に失敗しても諦めず何度も何度もアップデートしていけば良いと思います。

人事制度を構成する基本的な要素
4-1 評価制度 (評価を行う基準や方法の設定)
4-2 等級制度(処遇・役割・権限等と連動する序列や格付けの設定)
4-3 報酬制度(給与・賞与・手当・SO等の支給方法の設定)

・ 4-1 評価制度

評価制度を考える為の論点は以下の通りです。具体的に挙げてみると結構難題が多いので、最初は苦労するかもしれません。

<評価制度を考える上での論点(一例)>
・目標設定はOKRか、予算か?
・目標設定の期間はどうするか?(◯か月・半年に1回にする?)
・目標設定の振り返りの頻度はどうするか?
・コンピテンシー評価はするか、しないか?
・成果評価とコンピテンシー評価の割合はどうするか?
・バリュー評価はするか、しないか?
・給与、賞与の最終決定者は誰か?
・給与、賞与の決め方はどうする?
・新卒の給与の決め方はどうする?
・斜め評価や360度評価は導入するか、しないか?
・給与、賞与のフィードバックは誰が行うか?
・成果で未達が続いた場合の処遇はどうする?
・成果が出ない社員の退職コミュニケーションはどうする?

評価制度に関連して、社員・スタッフが使用する目標管理シートの作成(ツール導入して解決する場合が多い)、評価から振り返りまでのプロセス説明資料や評価基準の開示・説明資料の作成などが挙げられますので準備していきましょう。

・4-2 等級制度

等級制度を考える為の論点は以下の通りです。制度設計で一番頭を使う部分で、導入時の説明も大変ですが、一度導入して運用が軌道に乗ればその後の運用は(大きく変更しない限り)そこまで大変ではないかもしれません。一番初めに考える人が大変な仕事のひとつです。等級制度を考える場合は等級表も合わせて整備するようにしましょう。

<等級制度を考える上での論点(一例)>
・会社としてどういう人材を一番大切にしたいか明確になっているか?
・等級の幅はどうする?
・職種毎に等級は変える、変えない?(例えば専門職の等級要件定義など)
・等級ごとの報酬体系は設定する、設定しない?
・どうすれば等級が上がるのか明確になっているか?
・等級が上がるために会社のサポートが得られるようになっているか?

等級制度に関連して、等級に関する説明資料の作成、等級と報酬が連動している場合はその説明資料の作成、具体的にどうすれば等級が上がり・下がる可能性があるのかの説明資料の作成、が挙げられます。

・4-3 報酬制度

報酬制度を考える為の論点は以下の通りです。給与周りの設計で、社員・スタッフの生活に直接関わる内容なので、導入時も改廃時も説明が難航しやすい制度になります。

<報酬制度を考える上での論点(一例)>
・誰にどのように報酬を支払いたいか会社として明確になっているか?
・残業手当はどうする?(固定残業時間は何時間にする?)
・裁量労働制は適用するか、しないか?
・賞与は支給するか、しないか?
・マネジメント職など役割手当は支給するか、しないか?
・専門職の手当は支給するか、しないか?
・その他住宅手当等の手当は支給するか、しないか?
・ストックオプションは支給するか、しないか?その方法は?

5. 採用基準を決める

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バリュー、人事制度まで完成したら、次は採用基準を決めていきます。ここまで来ればどういう人材を採用すべきかが明確になっていると思いますので、決定するのは難しくないと思います。

逆に、採用基準から決めようとすると何から決めれば良いかが不明確な場合が多いので、難易度が高くなります。ベンチャー経営者から「どういう人を採用すれば良いのか分からない」「一度採用してみたけど上手くフィットしなかった」という相談を受けますが、大抵は採用基準から決めようとするから問題が起きているのではないかと考えます。そういった場合はミッション、ビジョン、組織と事業目標、バリュー、人事制度について先にじっくり考えてみたほうが良いと思います。

<採用基準を決める上で大切なこと>
・バリューから具体的な考え方、行動例がイメージできていて、そのイメージのシチュエーションやケースを聞いて見極めができるか
・価値観がミッションやビジョン、人事制度の設計上で会社が大事にしているポリシーに合っているか
・働き方やキャリアについて、会社のポリシーと合っているか

6. 働き方を決めて言語化する

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1〜5までが人事・組織づくり担当者として主要な役割になりますが、それ以外にも決めないといけないことは沢山あります。6〜10でそれぞれ簡単に説明していきますが、その一つが働き方関連です。⑥以下については重要性として①〜⑤に劣りますが、はじめての組織づくりにおいては明文化しておいた方がベターです。

<働き方関連で決めておきたいこと>
・裁量労働の適用はする?
・フレックスタイムの導入はする?
・リモートワークはする?
・リモートワークする場合の出社頻度はどうする?
・副業に関する考え方はどうする?

7. 称賛の仕組みをつくる

社員が活躍した場合に、その功績を称える機会を設けておくと該当した社員
のモチベーションを高めることができます。

<称賛の仕組みで考えたいこと>
・称賛する場を設けるかどうか、例えば表彰制度など
・表彰制度を作る場合は、手当や一時賞与を支給するか否か
・称賛する仕組みを作るかどうか、例えば感謝の手紙を贈る、ピアボーナスを社員同士で贈り合うなど

8. コミュニケーションの仕組みをつくる

社内におけるコミュニケーションや相互理解の仕組みも考えます。コミュニケーションの設計だけでなく、なにか社内で問題が生じていないかを把握するために組織状態の計測ツールの導入も検討します。

<コミュニケーションの仕組みで考えたいこと>
・新入社員用のオンボーディングの仕組み、プロセスをどうするか?
・新卒社員のメンター、斜めメンターを用意するか?
・飲み会やランチなど、社員同士のオフコミュニケーションをどうするか?補助は出すか、出さないか?
・組織状態を把握する計測の仕組みを入れるかどうか?
・オフサイトミーティングなどで相互理解を促す仕組みを取り入れるか?

9. 抜擢、登用、配置の仕組みをつくる


年齢が若い、社歴が浅いといった場合でも優秀な社員であれば重要な役割・ポジションで任せる機会を設けるのかどうか、予め決めておくと議論がスムーズです。同様に、上司と部下で相性が悪く成果が出ていない社員の配置換えを検討する等も事前に考慮しておくとベターです。

<抜擢、登用、配置の仕組みで考えたいこと>
・重要なポジション、役割について社内公募(挙手制等)を設けるかどうか
・経営陣や人事チームで、社内のキーマンとなる人材にアテを付けておき、育成や昇給、適切な業務が割り振られているか等のチェックを行うかどうか
・上司と部下の相性の悪さが生じていないか、組織の歪みが起きていないか等を人事で把握する機会を設けるかどうか(定期的な人事1on1等)

10. 育成の仕組みをつくる

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新卒や中途の成長を促す教育の仕組みについても考えておくとベターです。採用してそのまま自走し成果を出す社員が採れれば最高ですが、必ずしもそうなるとは限らないので、新卒社員の育成や中途社員のスキルアップの仕組みは用意しておくと良いでしょう。

<社員育成の仕組みで考えたいこと>
・社外での研修を実施するか?
・外部の研修やセミナー参加を促すか?その補助は出すか?
・社内で研修する仕組みを作るか?
・入社後のOJTやメンターの仕組みを作るか?
・定期的に社員のキャリアを聞き支援する機会を設けるか?
・特定の資格に対して手当を設けるか?

11. 社外認知の仕組みをつくる

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採用とも絡む部分ですが、社内でどういった施策を行っているのか、社外に発信することも重要です。コーポレートサイトの立ち上げやその定期的な情報発信など、社内活動を社外の人材に適切に伝えていく活動も忘れずに行いましょう。

最後に:組織づくりで社員の笑顔とやる気を引き出す


ここまで組織づくりを担当される人事・人事責任者の方向けに情報を纏めてみましたが、いかがでしたでしょうか。組織づくりをする上で課題の調査から企画立案だけでなく、制度・施策導入やその改廃に当たっての社員への説明、制度・施策導入後の振り返りまで考えるとかなり大変な仕事だと分かると思います。更に人事の役割はこれだけでなく、採用や労務など、やるべきことが多岐に渡っています。今回は組織づくりをメインに業務を整理してみましたが、担当される方にとってここまで載せた情報で取り組むべきことが明確になり、お役に立てば幸いです。

組織づくりは大変な職務ですが、社員の笑顔を引き出したり、社員のやる気アップに繋がる大切な役割なので、その責務の大変さを噛み締めつつ(笑)、やり抜いた先に大きな成長と成果が待っていますので、担当された方にはぜひ頑張って欲しいです。

※設計の細かな部分で分からないこと、人事制度など企画設計を進めたいがどうして良いのか分からないので助けて欲しい、といった悩み事がありましたら、DMでご連絡いただければ設計の支援やお仕事のご相談も承りますので、お気軽にご連絡ください。

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