企業の生産性も高める「幸福学」
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1_はじめに
以前、米国のギャラップ社による幸福に関する研究をお伝えしましたが、
(ウェル・ビーイング~幸福度を高めるポイント)
今回は日本における幸福学の研究についてお伝えします。
さまざまな方面での研究がありますが、幸福学をマネジメントに取り入れることによる、従業員・企業にもたらすメリットが分かってきました。このコラムでは “幸福学と企業“ にフォーカスしたいと思います。
2_幸福学とは
ウェルビーイングという概念が、世界中で定着しつつあります。持病などの有無や職種に関わらず、個人がおかれている「身体的・精神的・社会的」状態がどれも健康的であることが、より良い人生を生き抜くために目指すことだといわれています。
幸福学は、ウェルビーイングが浸透するなかで重要視されている学問です。幸せとは何か?という疑問に、スピリチュアルや宗教的概念ではなく、サイエンスとしてデータをとり、研究を重ね、幸福の要素や個人の幸福がもたらす社会への影響などを追求する学問です。
幸福学の研究は、リーダーシップやマネジメント分野で高く評価され、支持されています。幸福度が高い社員が多い企業は、業績がアップするなど、これからの時代を生き抜くために必至となる考え方といえるでしょう。
3_幸せの4因子
幸福学の第一人者である、前野隆司氏(慶應義塾大学教授)によると、幸せと経営マネジメントの関係について “幸せな社員は創造性が高い・幸せな社員はパフォーマンスが高い・幸せな社員は鬱になりにくい・幸せな社員は組織を動かす・幸せな人は利他的である“ などを挙げています。
そして、この「幸せ」は次の4つの因子で構成されているとのことです。
「自己実現と成長」
やってみようという気持ち、自己への肯定的な態度
「つながりと感謝」
ありがとうという気持ち、他人に対するポジティブな態度
「楽観性」
なんとかなるという気持ち、制約的ではない態度
「マイペース」
ありのままで良いという気持ち、自己を確立し他人と比べない態度
(参考:佐伯政男,蓮沼理佳,前野隆司『主観的well-beingとその心理的要因の関係』慶應義塾大学)
「幸せ」を因子別に図でみてみましょう。自分はどのあたりに幸福度が分布しているか考えてみると良いでしょう。
立場に関わらず、相手や自分の状態を把握することも「幸福度」を意識するために必要な振り返りです。
難しい時代におけるマネジメントでは、幸福度の高さこそ業績に長期的影響を与えることを念頭に置くことが大切です。作業工程や人員配置のみならず “人の心をいかに動かすか“ がマネジメントスキルの一翼を担っていくでしょう。
4_幸福学と経営(または組織マネジメント)の結びつき
かつての大量生産中心の社会構造から時代は移り、現在はオリジナリティのあるユーザーインターフェースに優れたサービスが、消費者の心を掴むようになりました。消費者心理や利用者層の多様化が進む一方で、提供する側がこれまでの企業姿勢のままでは市場拡大は見込めないでしょう。
良質なサービスは、提供する側が消費者の使用場面を想像する必要があります。相手の立場に立って思考を巡らすには、まず自身が幸福であることが前提。企業の未来は、従業員の幸福度次第といっても良いでしょう。
幸福度と業績の関係をみてみましょう。
・幸福度の高い従業員の創造性は3倍
・幸福度の高い従業員の生産性は1.3倍
・幸福度の高い従業員は欠勤率、離職率が低い
上記が国内外の研究により明らかにされています。さまざまな研究からわかったことは、給与や地位などの労働環境以上に「やりがい」や「エンゲージメント」といった自発的な意欲が業績アップにつながるということです。
5_俯瞰的視点がもたらす効果
どのような組織が、従業員の自発的意欲を引き出すことができるのでしょうか。意欲向上には多くの因子がありますが、その1つに「俯瞰(ふかん)」が挙げられます。
これまであまり使われない言葉でしたが、近年になって、物事のスタートからラストまでを眺めることが仕事満足度や自己実現につながるということが分かってきました。ビジネスの場やメンタルフルネスなどで頻繁に使われるようになった言葉です。
ものの見方が俯瞰的であることは、次のような場面でポジティブな捉え方が可能になります。
・美術作品にわずかな汚れがあれば、そこだけに注目してしまい作品自体を否定してしまう
・頑張ってきたけれど最後のミスが全てを台無しにしてしまったように思う
など、日頃からとってしまいがちな思考行動です。これは“ネガティブバイアス“という人間の性質でもあります。生き延びるために備わっている大切な本能的反応です。
もともと人間は、自然界で危険から身を守りながら狩猟生活を営んできました。静かな暗い山道で一瞬でも物音がしたら、そのことに注意を向けなければ猛獣に襲われ命の危険に晒されます。万が一に備え、悪い方向に物事を想定する能力でもあるのです。
しかし、ビジネスでは、常にネガティブバイアスをかけて物事を捉える必要はなく、視点を変えることで道が拓けていく場合が多いでしょう。企業として生き残るには、さまざまな方向から全体を眺めることが必要です。
これらの場面で、俯瞰的な見方をすると
・意外な欠点があったけれど、全体的にはとても素晴らしい作品だった
・ミスは誰にでも起こる、プロジェクト全体としてはとても充実したものだった
などといった感想を持つことが可能。物事の印象がポジティブに変わることで次回に活かそうという意欲が生まれます。誰にでも今すぐできるフォーカスチェンジです。
特に、人間関係では俯瞰的視点が、幸福度に直結するといっても過言ではないでしょう。相手の言動一つで付き合いをやめてしまうことは大変もったいないことです。その人が持つ雰囲気や良いところを見ることができれば、人間関係の在り方は広がりビジネスチャンスも広がるでしょう。
マネジメントにおいて、欠点にフォーカスしてしまうと従業員は萎縮してしまいミスを怖がるようになってしまいます。リスクを恐れて奇抜な発想を具現化できなくなってしまい、本人の自己肯定感も低くなれば悪循環に。本人が自らフォーカスチェンジできるようリードすることが必要です。
6_フォーカスチェンジの例
たとえば、以下のAからBのように捉え方を変えることをフォーカスチェンジといいます。
A“失敗してしまった、何もかも無駄だった”
「自分はダメな人間だ、人と会うのがつらい」「仕事をやめたい」などの思考が働き、悪循環に陥ります。身体的・精神的・社会的に不健康な状態です。
B“失敗したけれど、仲間がいて幸せだ”
「失敗が全てではない」「解決策を一緒に考えてくれる人がいる」「次は頑張ろう」などの思考が働き、好循環がうまれます。身体的・精神的・社会的に健康な状態です。
本人のフォーカスチェンジを促すには、リーダー側もミスのフォローと併せて「全体的に良かった」と伝えることが大切です。このように、状況をポジティブに捉えることにリーダー自身の幸福度が上がり、メンバーのレジリンス力も身についていきます。結果として、業績向上に繋がっていくことが期待できるのです。
7_まとめ
ますます個性が尊重されるようになり、人間関係にも企業形態にも多様性が当然のように求められます。全体的に見てどうであったかを分析できることが、解決策・選択肢を増やすことにつながるでしょう。
「幸せ」とは、金銭や地位を得ることでは手に入れることのできない、人間が人間らしくあるために求める領域であることがわかりました。どれだけハード面が整備されていようとも、人間の幸福は、人と関わり培っていくもので、自分1人では得ることのできない概念なのでしょう。
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