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届かない手紙

あなたに手紙を書いてポストに入れる。

元気にしてる? 大丈夫? 

届かない言葉を毎日つづる。

ベランダにチューリップを植えたんだよ。
少し暖かくなってきたね。
お仕事どう? 忙しい?

思い浮かぶ言葉を次々と書き込んでは手を止め、深呼吸する。

毎日次の手紙を入れるためにポストを開いては、積み重なっていく手紙を見つめる。

閉じられた手紙たち。
もう読まれない言葉たち。
静かに重なり合う言葉たち。
大切な言葉たち。

ごめんね、きっと傷つけたね。
ごめんね、もっと大切にできたはずなのに。

たくさんのありがとうも伝えたい。

ポストの鍵はあなたも持ってるから、いつか覗きに来てくれるかな。

それともあなたはもう鍵を捨てたのかな。

二人で手を繋いで行ったあのきれいな湖に、あなたは鍵を静かに捨てたのかもしれないね。そんな寂しいことをあなた一人にさせてごめんね。

手紙を書きすぎて、ポストにもう入らなくなるのはいつだろう。私が書かなくなるときが先なのかな。どっちかな。

ときどきね、とても話したくなるんだよ。
いろんな話がしたいな。
いろんなことを聞きたいし、いろんなことを教えてほしい。

今日もあなたへの手紙を書く。ひとりぼっちの時間。あなたを思い出す時間。少しずつ淡くなっていく時間。

もう少しだけ。

そう思いながらどれだけ経ったのかな。

たまにはね、届かないなら書いてもいいよね。

大好きって書いてもいいよね。


#短編小説 #掌編小説 #手紙 #鍵 #恋



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