見出し画像

結婚の条件

「毎日私のこと、可愛いって言ってくれる?」

それがあなたから結婚を申し込まれたときの私の返答だった。

可愛いって言われ続けたい。

私にとってはとても重要なことで、それは私が幸せでいられる言葉だから、結婚相手には毎日ずっと言ってもらいたいの。

「うん、言うよ」
「ほんと?」
「うん」
「ずっと?」
「そうだね、ずっと、毎日言うよ」
「約束?」
「約束する」
「必ずだよ?」
「うん、必ず」

あなたのその言葉を聞いて、私は安心してあなたの胸に飛び込んだ。

結婚したその日から、あなたは約束通り毎日私に可愛いと言ってくれた。起きた瞬間、仕事に行く前、夕食の席で、一日のどこかで私に必ず可愛いをくれる。私は可愛いと言われるたびに可愛くなっていき、近所でも評判の可愛い奥さんと言われるようになった。私の人生は幸せに満ちていた。

それから一年経っても、あなたは毎日可愛いをくれた。あの日の約束は守られ続けた。

さらにもう一年経ち、コスモスが揺れる秋のある日、私たちの間には赤ちゃんが生まれた。女の子だ。この子は本当に小さくて、とても可愛かった。あなたはこの子を見て可愛いと言った。私もこの子を可愛いと思った。

だけどこの子は可愛いすぎた。助産師さんが見惚れてしまって仕事ができなくなるほど可愛いかった。産後一時間、二時間と時間が経つにつれて、この子はますます可愛さを増していく。あなたは目を細め、この子を見つめ可愛い可愛いと連呼する。

ふと不吉な予感がした。

この子は私よりはるかに可愛い。

もしあなたが可愛いを私に言ってくれなくなったら、約束が守られなくなったら、どうしたらいいんだろう。もう結婚生活は続けられない。だってそれが結婚の条件だったから。

出産でバタバタしていた今日はまだ、あなたからの可愛いをもらっていない。今日が終わるまであと3時間。壁にかかっている時計を見ると、針がいつもより速く動いている気がする。

この子の小さな手をそっと握りながらあなたを見たら、あなたはこの子を本当に愛おしそうに見つめていた。



お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨