お家でお花見
「お花見、今年はゆっくりできないね」
私があなたにそう呟いた。4月のはじめ、今年はお天気が安定していて桜のシーズンは長そうだけど二人で手を繋いでたくさんの桜を見にいくのは難しい。窓の外を見ると遠くのほうに淡いピンクが広がっている。毎年あの橋の向こうの公園はお花見の人で賑わっているんだけどね。
寂しそうな私の声にあなたはゆっくり微笑んでこう言った。
「じゃあ家のなかで花見しようよ」
「家のなかで?」
「そう。家のなかで」
「どうやって?」
「君は絵が上手だろ。桜の花を白い画用紙にたくさん描いてよ。それを二人で眺めながら紅茶でも飲まない? 僕は君の描く桜で花見ができたら心がとっても癒されそうだよ」
そっか。それも楽しそうだね。あなたが私の絵で幸せな気持ちになってくれるなら、私もうれしいな。
私は桜の花を描くことにした。まず桜を一つ。
「どう?」
「うん。とってもかわいいね」
二人でふふふと見つめ合った。
「もっとたくさん描いてよ」
「そうだね。1つだと少ないよね。だって満開の桜のお花見だもんね」
そう言っていくつも桜を描き足した。
「なんだかワクワクしてきた」
うれしそうなあなたを見て私も楽しくなってきた。
あなたは続けてこう言った。
「そういえば、この前、会社の帰り道に桜の向こうに菜の花がたくさん咲いてたんだ。ピンクと黄色のコントラストがきれいだったよ。菜の花もどうかな?」
「うん、わかった。じゃあ菜の花も描くね」
「きれい」
二人の声が重なって、またふふふって笑った。
「アネモネ・・・アネモネも描いてほしい」
「コスモスとか、あ、バラもいいな」
「ヒマワリも好きだよ」
そんなふうにあなたが次々といろんなお花の名前を言い出して、おかしくなった。だって季節がめちゃくちゃじゃない。桜とヒマワリっておかしいじゃない。春と夏が入り混じっちゃうよ。
だけど楽しそうだよね。たくさんのお花を描いて、ぜんぶのお花でお花見しようか。
「じゃあたくさん描くから、紅茶の準備お願いね」
あなたはうれしそうに頷いて、キッチンに向かった。
あなたの笑顔が見たい。一緒にお花見がしたい。
ほら、こんなにがんばったよ。
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