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こんな夜は。

足りなくて埋まらない。

だから私は花を二輪買って、花瓶に挿した。

オレンジのガーベラ。仲良く並ぶ二輪の花が私の心をやわらかくする。

まるで恋人同士のようなガーベラたち。

しばらくテーブルに頬杖をついて、ガーベラをじっと眺めていたら、ちょっとした悪戯心が浮かんできた。

あなたたちの愛を確かめようか。

親指と人差し指をゆっくりガーベラに近づけて、片方のガーベラの花びらを強く弾いてみた。

弾かれたガーベラはグラリと揺れ、恋人のガーベラに体を倒した。それから二人で振動を伝えあって、抱きあうように絡まりあう。

最後にはぴったりと寄り添って離れないまま静かになった。

お互いが大切な存在なんだろうね。

しあわせなんだね。

ひとりぼっちは寂しいから二輪買ったんだよ。寂しいのは嫌だからね。


だけどその夜、私はガーベラの一輪をそっと花瓶から抜き取った。それからもう一つ花瓶を持ってきて、そこに挿した。

恋人の二人が別々になる。

キッチンに一輪。リビングの向こうに一輪。離れ離れにされた恋人たちが切なげに咲いている。

それでも、いいじゃない。

愛するあなたが見える場所で生きられるっていいじゃない。

しあわせな二人に意地悪をした。

そんなひとりぼっちの夜。



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