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愛の記憶

時を重ね、言葉を重ね、愛を重ね、幻に抱かれた。

乱れた息を残しながら、そのままあなたの胸に倒れ込んだ。

ドクドクという心臓の音が聞こえる。この瞬間のあなたの胸の上が好きで、私はじっと動かない。その音を聞きながら、二人の息遣いが重なりあって溶けていくのを感じる。

心と体は1ヶ月ぶりにまた潤いを湛えた。

少ししたら、あなたは私を抱きながら体を起こし、寝かせてくれた。真っ直ぐな瞳が私を上から捕らえる。それから私の首元に顔をうずめてきた。あなたは笑みを漏らしたのか小さな息が首にかかり、私はわずかに身をよじった。

「髪が短いと、すぐにうなじに触れられるんだな」

そう言って私の首筋に唇を滑らせる。そのなめらかな感触にかすかな息を漏らしたら、また少し甘い空気が二人を包んだ。その中で、私はやっとこの言葉を口にする。

「もう私たち、終わりにしよう」

あなたの唇の動きが止まる。この部屋の中のすべての音が消え、静寂が二人を覆う。

あなたは息を止めたまま、ゆっくりと唇を離し私を見つめ、一呼吸した。

「どうして?」

その瞳は驚きを発し、困惑を伝え、寂しさをこぼした。どんな感情も隠せないあなたが好きで、その素直な瞳を強く抱きしめたくなる。

雨の音が聞こえる。

でもまた聞こえない音が聞こえているだけだろうか。

あなたは何も答えない私の短い髪をそっと撫で、私の瞳を見つめながら、ゆっくりとまた動き始めた。

時を重ね、言葉を重ね、愛を重ね、愛の正体を知る。

徐々に開いていく私の唇に水滴が一つ落ちてくる。それはしょっぱくて悲しくて、愛おしい味。また一つ、また一つと私の唇を濡らす。

私の目からもそれと同じものが流れていく。でも私はそれを拭うことができない。だってあなたと繋いだ手を放したくないから。

白い鳥が水面でバタバタしていた姿が瞼に浮かんだ。あの鳥は何にもがいていたんだろう。飛び立つでもなく静かに佇むでもなく。遥かに広がる美しい夕焼けの空に飛び込む勇気はなかったのだろうか。

愛してる?

高まる欲情とともに愛が溢れてきてまたそれを聞きたくなったけど、喉元で止めた。

私、やっと気付いたみたい。

幻だと思っていたあなたの愛は本物だったんだね。あなたのまっすぐな瞳と言葉に嘘はなかった。信じた瞳は真実だった。あなたの全身から私の中に、勢いを増して流れ込んでくる愛を感じながら、理性が壊されるほどのこの瞬間を心の奥深くに刻む。

だけどね、愛は一つがいいんだよ。

時を重ね、言葉を重ね、愛を重ね、記憶を閉じる。

ホテルを出たら雨は降ってなかった。

風が吹いてきて、首元を通り抜ける。短い髪がふわりと揺れた。ついこの前までは痛いほど冷たい風だったのに、優しい暖かさを感じる。もう春が近いんだね。

彼はもう泣かないだろう。

そして私ももう泣かない。

シーツをぐちゃぐちゃにするほど湿らせた二人分の涙が私たちの愛を全部押し流した。記憶の奥のずっと深い場所へと。

夜の街は人が多いね。

私が紛れていく。

彼が紛れていく。





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