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後ろ姿

終電に飛び込んだ。息が切れた。

改札の外で私が見えなくなるまで手を振ってくれた須藤さんの姿を思い出す。 「俺が送るよ」って須藤さんが私の横に立って言ったとき、あなたは「わかりました」と言った。

あなたは終電で帰らないといけない私の目の前で他の女性に飲みに行きましょうと声をかけた。私が傷つくなんて全然思ってないんだよね。

あなたと須藤さんに今日のお礼のラインを送る。すぐに返事をくれたのは須藤さんで、あなたは既読もつかない。また飲みに行こうと須藤さんは書いていた。

電車でスマホを開きながら、涙が出そうになるのを堪える。

何も気付いてくれない、何も伝えられない、苦しい思いをかかえながら、あなたのことを思い出す。

他の誰も望んでいない。軽く腕を組んでくる人や、俺は君が髪をくくってる方が好きだなって言ってくれる人、そんな人は私の周りにいるけれど、私が私を見て欲しいのはあなただけ。

やっとあなたの横に座った私は何か話したくて話しかけるけど、興味なさげなあなたへの話題をうまく探せない。

今度こんなことしましょうとか、あんなのもいいですねとか、あなたはいつも仕事の話しかしない。私には仕事の顔しか見せない。

須藤さんと一緒に離れた私の後ろ姿を少しは見てくれた?

須藤さんと数回やりとりした後で、やっとあなたから返信が来た。スタンプが1つ。こんなスタンプ1つでまた涙が出そうになった。

何かを捨てる勇気もなくてズルくて悲しい私。夫からもラインが来る。

もう心を空っぽにしたい。

649文字

#短編小説 #超短編小説 #恋 #仕事 #スタンプ #ライン #終電

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