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#33 深く、深く

中山さんがホテルの部屋のライトを少し暗くしてくれた。

やわらかな明かりが私たちを包む。

緊張してうまく中山さんを見つめられない私の頬に、中山さんはキスをくれて、そっと髪を撫でてくれた。何度も優しく髪を撫でられるうちに、緊張が少しずつほぐれていく。大好きな中山さんに全部の愛を伝えたい。そんな気持ちがあふれてくる。

「中山さん・・・大好きです」

そう伝えると中山さんは私を強く抱きしめてくれた。

細く見えていた中山さんの腕は力強くて、私を軽々と抱きよせる。ベッドに片腕をつき、もう一方の腕で私の背中を支える。私を見つめる彼の目はいつものように穏やかで優しかった。

やっと中山さんのすべてに愛されるんだ。

唇が触れる瞬間にそっと目を閉じる。いつもとは違う深いキス。手を繋ぎながら何度も確かめあうようなキスをして、中山さんの唇と私の唇のあたたかさがしっとりとまざりあう。

中山さんが片方の手をほどいて、私の頬を包み込む。彼の指が頬に触れ、首に触れ、肩に触れる。

彼の息が耳にかかると私のすべての意識がその耳に集まる。彼の唇が私の首筋に触れると、私のあらゆる感覚が首筋に集中する。彼の柔らかな唇に心も体も絡めとられ、繋いだ手の力が強くなったり弱くなったり。中山さんの動き一つ一つに淡く揺れる波が押し寄せる。

中山さんが私の体をゆっくり辿る。私のあまい吐息が彼の熱い吐息と何度も重なりあう。中山さんは深くなっていく私の体のすべてを愛してくれる。そんな彼を確かめたくて、そっとうっすらと目を開けた。天井の鏡が中山さんの後ろ姿を映し出す。引き締まった筋肉が動く。肩が動き、腕が動き、背中が動く。その美しさに心がうずいた。

中山さんの愛をもっと感じたい。また目を閉じて彼のすべての動きに感性を研ぎ澄ませて迎え入れる。こらえていた声が漏れ、中山さんにどう思われたかと思うと体の奥が熱くなる。けれど体が、心が溺れていくにつれて訪れては遠ざかる恥じらいの花びらがひとひらずつ剥がれ落ちていく。

私の愛が部屋に響く。

何もかも忘れて彼だけを感じていたい。中山さんにも私だけを感じてほしい。

愛してる。

不意に頭の片隅で奥さんの美しい裸体が揺れた。奥さんはどんな表情を浮かべて彼を受け入れるのだろうか。中山さんは私を彼女よりも愛しいと思ってくれるだろうか。どう動けば、どう応えれば彼女を超えられるんだろうとこんな幸せな時間にも狂おしい嫉妬を抱きながら、中山さんを深く、深く感じる。

部屋の空気が熱を帯び、鼓動が重なりあう。

このまま二人の時間が現実世界から切り離されればいいのに。

叶わぬ願いを抱きながら彼の汗ばんだ背中に両手を回す。

もっと愛して。


赤いピアスが大きく揺れた。


1106文字

#短編小説 #連載小説 #中山さん #初めての夜 #愛 #吐息

中山さんはシリーズ化していて、マガジンに整理しているのでよかったら読んでみてください。同じトップ画像で投稿されています。

続きはこちらです。

第1作目はこちらです。ここからずっと2話、3話へと続くようなリンクを貼りました。それぞれ超短編としても楽しんでいただける気もしますが、よかったら「中山さん」と「さやか」の恋を追ってみてください。

『中山さん』シリーズ以外にもいろいろ書いています。よかったら覗いてみてください。



お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨