加速する鼓動
「土曜の夜の20:00の回の一番後ろの席に座ってます。来てくれないかもしれないけど、待ってます」
たぶん最後になるメッセージを私はあなたのラインに送った。
きっと来てくれないのは分かってる。私じゃ、あなたの横には並べない。たぶん一人でスクリーンを眺めるんだろう。ドアが閉まって場内が暗くなったら、私は泣き始める。まだストーリーも始まらない瞬間に私は泣き始める。来てもらえなかったあなたを思って泣くんだろう。
そばにいさせてほしかった。ずっとあなたの横で笑っていたかった。あなたの優しさにホッとしながら手を繋いでいたかったよ。
でもダメだったんだよね。
何もかもダメだった。
はじめからダメだった。
私はあなたにふさわしくなかった。
上映10分前に場内に入って、少しほのぐらい階段を歩いてあがる。
あなたが綺麗だねってほめてくれたベージュのワンピースを着て、少しずつのぼっていく。
一番後ろの席に何組かのカップルが座っていたけど、私の席の横には誰も座ってなかった。
分かってるよ。
これはたぶん、私のただのけじめ。
来てくれないのは分かってるから一人だけの夜。
うれしそうに見つめ合うカップルの前をそっと通って奥の席に座る。少し手が冷たくなってきて、気持ちがつらくなってくる。
来てくれないと分かっていながら、もしかしたらというわずかな可能性にかけて胸がうずく。
予告が流れ始め、私はじっとスクリーンを見つめる。
人がまばらに入ってくるのを目の端で捉える。
時間がいつもよりとても遅く流れるような錯覚を感じながら、寂しさが体の奥からあがってきた。
分かってるよ。
「いままでありがとう」って言って笑って終わりにしなきゃいけないって。
私たちの間には、もう何も始まることはない。
だけど、心が引き裂かれそうなんだ。終わりにできない。つらくて苦しい。最後のほんのわずかな可能性があるなら、どうしても挑みたくなるじゃない。崩れ落ちるのは分かってるけど、それでも、それでも。
完全に場内が暗くなった瞬間に、押しとどめていた涙が一気に流れ始めた。前をまっすぐに見つめる私の目からはたくさんの涙が流れ続ける。
ぼやける視界の先に、だれかが入ってきた。
このまま私は最後まで一人で泣き続けるんだろうか。
それともあなたの横でうれしい涙を流せるんだろうか。
心臓の鼓動が加速する。
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