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X'masプレゼント

「メリークリスマス!」

明るい元気な声とともに私の目の前にスッとさしだされた大きな手のひらには、小さな松ぼっくりが乗っていた。いつも仕事帰りに通りかかるカフェの前での出来事だ。松ぼっくりには白い雪の綿と赤い実がくっついている。かわいい。思わず止まってじっと見てしまった。

顔をあげると、真っ赤な服を着たサンタさんが私を見てニコニコ笑っている。ふくよかなサンタさんじゃなくて細くてとっても背の高いサンタさん。まっしろなあごひげをくっつけてメガネをかけている。ウォーリーみたいだなって心のなかで思ってしまった。

「どうぞ」

さっきより落ち着いた声で彼はそう言った。

どうしよう。もらおうかな。ちょっとためらったけど、せっかくだから受け取ることにして手をさしだすと、彼は松ぼっくりをコロンと私の手のひらに転がしてくれた。

「ありがとう」

知らない男性だけど、サンタさんだとなんだか安心で、ふわっと笑って答えられた。そしたら彼も優しい目で微笑んでくれた。

「メリークリスマス」

もう一度そう言ってカフェのなかに入っていく彼の後ろ姿を目で追った。最後の1つの松ぼっくりだったのかな。

「メリークリスマス」

私も心のなかで小さくつぶやいてから歩きだした。

今日はクリスマス。街中がキラキラ光っている。子供も大人もみんなニコニコしているね。デパートのショーウィンドウには何人ものサンタさんが並べられている。プレゼントもたくさんある。

雑貨屋さんに立ち寄ると、クリスマスグッズのセールがもう始まっていた。天使のオーナメントとかサンタのスノードームとか、かわいいのがいっぱいだ。どれか買おうかなって眺めていると、斜め向こうの棚に置かれている小さなボックス型の透明のケースが目に入った。

さっきもらった松ぼっくりにぴったりのサイズじゃないかな。

近づいて、手に持っていた松ぼっくりと見比べてみたら、ちょうど良さそうだった。

それを買って、雑貨屋さんを後にした。

お家に帰ったら、このケースに松ぼっくりを飾ってあげよう。玄関の小さなツリーの横に並べようかな。ウォーリーサンタがくれたクリスマスプレゼント。やっぱりプレゼントはうれしくて心があったかくなる。帰る足取りもウキウキしてきたよ。

あれから3年。

うちのリビングにはとても背の高いクリスマスツリーが飾られている。ツリーにはたくさんの飾りがつけられていて、そのなかにはあのときの松ぼっくりがリボンをつけて吊られている。ライトもチカチカと灯っている。

そろそろあなたが帰るころだね。

私だと届かないツリーの一番上にあなたが飾ったお星さまと時計を見比べながら、コンロのシチューに火をつけた。

ねぇ、クリスマスプレゼントは用意したよ。かわいい小さな白い手袋。あなたの手にはもちろんだけど、私の手にも入らない小さな小さな手袋だよ。

このプレゼントを渡したら、あなたはどんな笑顔をくれるだろう。

その笑顔が私へのクリスマスプレゼント。

玄関ドアが開く音がする。慌てて火を止めて、濡れた手をタオルで拭いて、玄関に走っていく。あ、いけない。走っちゃダメだ。

早くあなたからのクリスマスプレゼントがほしいけどね。


#短編小説 #掌編小説 #プレゼント #クリスマス

僕はあのとき、君がカフェの前を通りかかるのをずっと待ってた。あの松ぼっくりは君のためだけに用意したんだ。渡したときにうれしそうに笑ってくれた君の笑顔は最高のクリスマスプレゼントだったよ。内緒だけどね。



お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨