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魔女っ娘ハルカ⑭(小説)

〜休日前夜〜

「準備はいい?」

「うん、だけど本当に俺も行けるの?」

「たぶん…」

「たぶん…?!」

「初めてやるからね。おそらく一緒に行くのは魂だけになるけど…」

「身体はウチからは出ないんだね?」

「無理よ。だって重いもん」

「そうか…」

「じゃあ行くよ〜しっかり掴まってて!」

「はい!お願いします〜」

俺はハルカに抱きついて都内を飛び出た。
………………………………………………………………………………

ワープ完了。

〜京都・安井金比羅宮〜

時刻は深夜十二時を回ったところ…
俺達は神社の中に降り立った。

「ふぅ〜…無事に成功したみたいね。」

「ドラクエのルーラみたいだな…ねぇ、次はハワイとか行きたい。」

「遊びじゃないのよ。それは、また今度ね」

二人で真っ暗な境内を歩く。

「わ…何あれ…?」

「あれは、縁切り石。大きい霊石に願いの札を貼って御祈りしてるの…」

「縁切り…そうゆう願掛けもあるんだね…」

「ここに祀られている方は、その昔に色々とあってね…悪霊扱いされているけど、本当は…」

ハルカが話をしていると突然、目の前の霊石が大きく揺れだした。

(ガガガガ……)

「ヒロ、今回は私一人で頑張ってみる。だから、少し離れていて!」

「心配だよ、だって、ハルカいつも危ういじゃないか!」

「あ…それは、ごめんなさい。でも、今日はヒロに何かあったらマズイの…もし何かあって魂が亡くなったら、そのまま……」

「そうゆう事か…」

「絶対に頑張るから…信じて見守ってて!」

「わかったよ…後ろで見てるからね!」

ハルカにそう告げ、俺は灯籠の陰に身を潜めた。

沢山の札を貼った石が割れて、中から一人の男が這い出してきた。

「……誰だ。この俺に敵意を向ける奴は…」

底低い地鳴りのような声で魔物のような男はハルカを威嚇してくる。

「それは私です、不躾ですが、貴方様に折り行ってお話が御座います。」

「お前のような下等は知らん。立ち去れ」

「帰りません、その杖を渡して頂けるまでは…」

魔物がギロリとハルカを睨みつける。

「下等の身分で、この俺に物を乞うだと…」

「畏れ多くも貴方様は一度、天皇になられた身。ですが、今その杖は貴方を傍若無人の御姿へと変えてしまっております。貴方には必要のない代物に御座います。どうか、それを私目にお渡し下さいませ…」

魔物は杖をマジマジと眺める。
「これのせいで俺が傍若無人だと…」

「お願いです、どうかお渡し下さい…」

「ふ…腐れた物乞い無勢が。そんなに欲しいのなら俺から奪い取ってみろ!」

魔物はそう言うと、背中から羽根を広げ宙に飛び上がった。


崇徳院

魔物と化した古の天皇・崇徳院は上空から飛来し、何度もハルカを足蹴にした。

「この乞食者め!喰らえ、喰らえ!」

幾度も身体を足蹴にされるハルカ。
だが、ハルカは何も言わずに耐えている。

「俺に盾突こうなど下民のお前が許されるとでも思っているのか!死に晒せ、この薄汚い畜生女が!」

ハルカは魔物にされるがまま、手で頭をかばったりすることもせずに、ただ受け入れている。

「ハルカ……」
俺はすぐにでも飛び出して、ハルカを庇ってやりたかった。
でも、彼女の決意したその表情や姿を見て俺は耐え忍んだ。

「なんとか言え、この糞女めが!」

すると、ハルカは口火を切ったように喋りだした。

「ならば、申し上げます。崇徳院様、貴方は情けない男に御座います。」

「なんだと…」
魔物は一度動きを止め、ハルカを凝視した。

「私目には想像も及ばないような苦渋を舐めた事もお有りでしょう。実の親に見放され、地位は奪われ、国を想う真心さえも踏みにじられた、その心中察するに余りあります。」

「知ったような口を聞くな!」
魔物はハルカに怒鳴る。

「ですが、貴方は弱い。その弱き心が御自身の境遇を負の連鎖へと導かれたのではないでしょうか?」

「黙れ…黙れ!」
魔物は戦慄く。

「黙りません。貴方は子孫のなされてきた事を御存知でしょうか?」

「子孫だと…そんな者知った事ではない!」

「この国は過去に戦争に負けました。他の国から死の爆弾を撃ち込まれたのです。その時の陛下様は、この国の民を労い自らの責任と称して矢面にお立ちに成ったのです。全ては自分のせいだと民を庇ったのです。」

「そんな者は、英雄気取りの出しゃばり男だ!戦争などは負けたら終いだ!」

「そうかも知れません。ですが、それに比べ貴方はどうでしょう。不幸なのは親のせい、辛いのは他の貴族のせい、受け入れられないのは朝廷のせいと、さも御自分に非が無いように振る舞われ、周りの人を傷つけていませんでしたか?」

「知らぬ!知らぬ!知らぬわー!」

「分かっていたはずです。大切な方が貴方のことを見守っていてくれたことを…それなのに、貴方はいつも自分、自分、自分!恥を知りなさい!天皇ともあろう御方が!」

「おのれ…よくも侮辱しおったの…許すまじ」

魔物は発狂し、天に向かって杖をかざした。

「ガャルガガー!…グガグガー!…」

その叫び声に呼応するかのように、突如として豪雨が降り出し、雷鎚を呼び出した。


「死に晒せー!死をもって償えー!」

魔物は悪天候の中、酔狂し暴れ狂い出した。

ヤツが叫べは雨が矢のように降り、高笑いすれば雷鎚が落ち、踊り狂えば突風が吹き荒れた。

「クタバレ!クタバレ!朽ち果てろ!」

ハルカは身動ぎもせずに耐えていたが、何度も突風に襲いかかられ、その身体は吹き飛ばされた。

「ハルカ!」

俺は転がってくるハルカに駆け寄り、その身を抱えようとした。

「ヒロ!来ちゃだめ!」

ハルカは俺を静止し、魔物に向き直る。

「崇徳院様…この私が気に入らないのなら、どうぞ好きにして下さい。私はこの身がどうなろうと構いません。」

「開き直りおって…鼻摘まみの厄介者が…」

「私には私を想ってくれる大切な人がいます。だから、アナタに何をされようが恐くないのです。」

「そこにいる役立たずか?笑わせる!」

「彼はいつも私を気遣ってくれる、いつも寄り添ってくれる、役立たずなんかじゃないわ。私にとってとても大切な人なの。」

「こざかしい…」

「アナタにもいたはずよ…大切なひとが。」

「うるさい!その減らず口を雷鎚で焼き塞いでやるわ!」

魔物は杖を大きく振り上げる。
その瞬間…

「おやめになって…」

振り返ると、そこには昔の田舎風な作業着を着た女性が立っていた。

「そなたは、阿波内侍…」
魔物の荒ぶる動きが止まった。

阿波内侍という尼さん

「崇徳院さま、もうおよしになられて。貴方のそんなとこ見るの…私、悲しい」

「じゃ…じゃが、この下民が生意気にもワシに対して苦言を訂してきたのでな。ちと、懲らしめてやろうと思っただけじゃよ…」
魔物は女性の登場に動揺している。

「崇徳院さま、もう貴方を卑下する貴族達は居ませんのよ。貴方は充分にお役目を果たされたではありませんか。」
阿波内侍は諭すように語りかける。

「しかし、小奴めはこの杖を奪おうとしておる!これは大事な力の証、渡すわけにはいかん。」
崇徳院は頑固に誇示する。

「もう必要ございませんよ、貴方には私が居るじゃありませんか。私よりも力を誇示する方が大事と申されるのですか?私、悲しい」
阿波内侍は泣き真似をする。

「そ、そんなわけない!そ…そなたの方が大事じゃ。しかし……」
崇徳院は悩む。

「【日本国の大魔縁となり、皇を取って民とし、民を皇となさん】貴方こんなに素晴らしい事をおっしゃっていたではないですか。」
と、阿波内侍。

「まぁ…そうだが…」
と、崇徳院。

「きっとその御二人は、何か訳あってその杖を必要とされているんだと思いますよ。悪い扱いはされない方々かとお見受けします。」
阿波内侍は味方だ!

「本当か?………お前がそう言うなら…」
崇徳院は杖を阿波内侍に渡した。

「初めてお目にかかります。私、この地で尼をしておりました阿波内侍と申す者です。」

ハルカは慌てて身なりを整え挨拶をした。
「は!…はじめまして!わたくし…ハルカっていいます!」

「可愛らしいお方ですこと…それなのに、こんなに酷い目にあわされて…」
阿波内侍は崇徳院をチラッと睨んだ。

崇徳院は気まずそうにしている。

「いえ、こちらが勝手に来てしまい、遠慮なしに失礼をしてしまいましたので…ごめんなさい…」
ハルカは頭を下げる。

「そちらの方は…?」
阿波内侍が俺の方を見る。

「お初にお目にかかります。自分はヒロという純男です。この度は、彼女に千載一遇の機会を与えていただき誠に感謝しております。これで、きっと彼女は救われる…そう、信じております。ありがとうございます!」
俺は阿波内侍にお礼を告げた。

「ふふ…なんだか素敵な御二人ですこと。私達も負けていられないわね。ねっ、崇徳院様?」
阿波内侍は崇徳院にウィンクをした。
崇徳院は照れた。

「あ…あの〜これ…」
ハルカは自分の首元からリボンを外した。

「これ…私にとってはとても大事な御守のような物なんです。でも、崇徳院様の杖をお預かりしてしまうので、代わりといってはなんですが…受け取っては頂けないでしょうか…」
ハルカは黒いリボンを差し出した。

「貴女はそれで良いの?」

「はい、私にはもっと大切な御守が一緒に居てくれますから。ねっ、ヒロ。」

「お…おっ、うん。もちろんだ!」
俺は照れた。

「あらあら、ごちそうさま。では、大切に預からせていただきますね。」
ハルカと阿波内侍はリボンと杖を交換した。

「それでは、お帰り気をつけて下さいね。こちらのことは気にせず、大いに人生を謳歌するのですよ。御二人の御多幸を祈っております。」
阿波内侍は俺達に手を合わせてくれた。

「ありがとうございます…」
俺達も手を合わせた。

「それでは、失礼します。崇徳院様もお幸せに…w」
ハルカは崇徳院に手を振る。

「あ、あぁ…気をつけて行け…」
崇徳院は仏頂面で答える。

「またね…」
俺はハルカにしがみつき、移動魔術ルーラでウチへと帰った。

続く。。

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