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あの時の涙があるから

これは小娘の高校時代のある友達の話。
彼女の名前は華凜。

華凜とは高校3年生で同じクラスになった。1年生から彼女の存在は知っていて、英語がとてつもなくできて、海外文化に詳しく、キラキラしたオーラのある子だ。

小娘は1年生の時から、密かに彼女に憧れを抱き、絶対に友達になりたいと思っていた。

そしてチャンスが到来。
3年生で同じクラスになった。

そんな華凜に小娘が感化されたエピソード。

涙のスピーチコンテスト

彼女の英語力は半端ない。
発音も表現も、高校の先生に負けないぐらい豊かで、小娘にとっては本当に憧れだった。

だが、彼女のすごいところは、それに付け加えて、達観した思考力にある。

毎年行われるスピーチコンテストだが、原稿から個人で作らねばならない。

これまでの経験を綴ったり、その時に何を考えたかなど、主観を伝えるようなスピーチ原稿が多い中、彼女のスピーチはあるテーマについて、私たちの考える一般論に問いかけるような内容だった。

彼女のスピーチは合計で2回聞いた。
1回目は、2年生の時。小娘自身も出場者として参加したからだ。2回目は、華凜の応援者として、スピーチコンテストの聴衆側で参加した。

1回目のスピーチコンテスト。彼女は大きく深呼吸をして、気持ちを整えてから、ゆっくりと言葉を一つ一つ丁寧に紡いでいった。

彼女のお題は、セルフラブ(自分自身を認めてあげる事、愛する事)だった。当時流行っていた LADY GAGA の Born This Way の歌詞を引用しながら、ありのままの自分を認めてあげることの大切さを訴えていた。

たくさん練習したことが、彼女の表現力に表れ、スムーズに次々と言葉が出てくる。しかし3分の2辺りまで来た時に、急に彼女の表情が曇り始め、言葉が出なくなってしまった。台詞が飛んでしまい、完全にスピーチが止まってしまったのだ。

その後、彼女はなんとか台詞を思い出し、残りのスピーチを終えるも、彼女の表情は曇ったままだった。

彼女は惜しくも準優勝という結果だった。

その結果に、彼女は涙を浮かべ、会場で悔し涙を流した。応援で来ていた級友が、彼女の肩を支えて会場を後にする光景に、小娘は自分に対して恥ずかしさを覚えた。

英語が好きだから、少しでも自分のスキルアップのためにと、なんとなく出場したスピーチコンテスト。その会場には、自分の結果に対して一喜一憂できるぐらい、真剣に取り組んだライバルたちがいた。自分の甘さを感じると共に、華凜の芯の強さに心打たれた。

1年後、彼女はスピーチコンテストの会場にやってきた。小娘は、彼女の応援者として学内選考の会場に足を運んだ。

1年越しに彼女は原稿を書き直し、全く新しいテーマで選考に挑んだ。あの時流した悔し涙を晴らす、素晴らしいパフォーマンスだった。結果は見事優勝。県のスピーチコンテストに学校代表として選出された。

あの悔し涙を流した彼女の晴れやかな笑顔を隣で見る事ができて、「私も頑張ろう。彼女のようにこだわりを持って、努力を重ねよう。」と心に誓った。

涙の大学入試

華凜も私も国立大学を第一志望として、2月の下旬まで、一生懸命勉強をした。

年明けにセンター試験を受けて、リサーチを提出した後は、学校は自由登校となり、クラス全員が顔を合わせる日は少なくなった。しかし、それでも数日間は登校日というのが設けられ、崩れた生活リズムを整えるような役割をしてくれていた。

ある登校日、華凜の姿はなく、小娘は少し心配をしていた。

受験した私立の中で一番行きたいと言っていた大学の合格発表後の登校日だったため、もしかしたらと思っていた。

その日の帰りのホームルームで、当時の担任が、私たちを叱咤激励するかのような話を始めた。

「もっと大学にこだわりを持て。どっか合格すればいいか。というような甘い考えでは、大学受験は乗り越えられない。受験する全ての大学に合格するんだという強い気持ちを持って、受験に挑め。」

「昨日の夜、ある生徒が泣きながら電話をしてきた。そいつは、その大学が第一志望ではなかったが、本気でその大学に行きたいと思って勉強をしていた。結果は『補欠合格』だった。不合格じゃない、補欠合格なんだよ。お前らにそこまでのこだわりが持ててるか?『あー、ダメだった。次頑張ればいいか。』そんな軽い気持ちで、残りのたった1ヶ月さえも本気になれない人は、この先も何に対しても本気になれない。もっとそいつみたいに、一回一回を大切にしてこだわりを持って残りの受験に挑め。」

その話を聞いた時に、先生が話しているのは華凜のことだ。と一瞬で分かった。スピーチコンテストのときもそうだった。彼女は一回に命をかけて本気で取り組む。

結局彼女が補欠から繰り上がることはなかった。しかし、その涙を流した経験が、彼女を強くし、逞しさを与えた。人生自分の思ったように行くことばかりではないが、その中で彼女は何度も立ち上がり、自分の信じる道を歩んでいる。

今でも彼女とは交友があり、定期的に会っては近況報告をしている。その度に、彼女が前に進んで、いろんな経験をしていることを知るたびに、彼女の強さに圧倒される。

彼女のような踏まれても踏まれても、すぐに立ち上がるタンポポのような、根気強い人間になりたい。


写真は、軽井沢の白糸の滝📷
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