Web小説発掘記 その222 Haphazard Fantasy ~エイルの不思議な冒険~ 作者 加藤大樹様

本編URL

https://kakuyomu.jp/works/16817330650090906289

前書き

この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。
※こちらは『第一章』までを読んでの感想、レビューとなります。

あらすじ

 愛と勇気に育まれた少年、エイル・ノルデンは幸せな日々を過ごしていた。
 ある日、十一歳の誕生日を迎えた彼は、父親と共に狩りに出かける。しかしその帰りに、エイルは不慮の事故に遭ってしまう。それが、少年の過酷な運命の幕開けだった――。
 少年よ、理不尽に抗い続けろ。

ストーリーと見所

物語が始まり、主人公のエイルは父親と一緒に初めての狩りに出る。
その後穴に落ち、なんかやべー生き物に殺されまくる。

こいつはいい意味でとんでもねぇや!!

いい意味で小説というか創作というか物語の原初の面白さを思い起こさせてくれる小説。
とはいっても冒頭のあれで誤解させないように語っておくが、別段荒唐無稽な物語が展開されていくわけではない。

いや、確かに理不尽だったりいきなり感があるのは否めないが……。そんなことは大した問題ではない。

実際のところ物語としてはかなり丁寧に語られる。

特に冒頭の主人公とその周囲に関してはかなりゆっくりとした展開であり、だからこそその後に彼に訪れる悲劇に対してより心が動かされやすいような下地となっている。

一章の本番としてはやはり穴に落ちてからだろう。
謎のやべぇ生き物に殺されかけ……というかほぼ殺されたらそいつに回復魔法をかけられ、そのまま何度もいたぶられる。

そこで主人公の力が覚醒しそいつを倒したところで、助けに読んでおいた友人と再会し穴の奥へと進んでいく……。

といった流れになっている。
確かに無理矢理感こそ拭えないが、この物語はそれが魅力の一つ。最序盤を除いてほぼ常に何かが起こっている状態なので、読んでいて全く退屈することがない。

次から次へと危機は訪れるし、その後にあるとある敵との戦闘に関しても有利不利が(読者目線では)何度も入れ替わり、お互いの手の内を尽くしたような戦いを楽しむことができる。

これこそまさに冒険だといわんばかりに叩きつけられるストーリーは、正直細かい部分で言えばちょっと頭に「?」を浮かべたくなるような部分こそあるものの、それを補って余りあるほどの力と勢いに溢れた小説。

個人的に特筆したい部分としては、一章のラスト近く。

それまでの次から次へと巻き起こるどったんばったん大騒ぎの物語から一転して、主人公と友人が穴から外へと出て月や星々の光に祝福されるようなそのシーンは、作者さんの文章力が余すことなく発揮されたとても印象に残る場面だった。

それに加えて何となくそうではないかと思ってはいたが、まさかのBL要素も解禁。

キャラクター

エイル・ノルデン

物語の主人公。

いい意味で年相応の少年的な性格をしており、キャラクターを非常に掴みやすい。

あらすじにある通り理不尽な目にあって、何やら覚醒する。

主人公的な要素がいっぱいでいいねぇ!とか思ったのも束の間、後から来た友人の影に隠れてしまったのは少しばかり残念。
とはいっても能動的に行動の指針を決めたりと、その辺りに関してはかなり頑張って主人公をしている。

まぁ、物語はまだ始まったばかりなので長い目で彼の成長を見ていくとしよう。

ヴェルダン

主人公の友人にして、一章のもう一人の主人公。

一章の後半からかなり目立ち始める。
この辺りどう思うかは人によるといったところか。

主人公に比べて勇敢で、力も強い。
戦闘では非常に役に立つ頼れる男。

しかもなんだかんだ言いながら友情にも熱い。

総評

評価点

思いもよらない展開の連続。いい意味で先が読めないストーリーは非常に魅力的。

物語全体に力があるので、次々と続きを読み進めたくなるパワーを持っている。
キャラクターに関しても現状でのメイン二人に関してはいいキャラをしている。

年相応の少年らしさと、BL的な距離の近さがいい具合にマッチしており、そちらの方向性が好きな人ならばより一層物語の深みに入り込めることだろう。

問題点

個人的にはやはり、一章の後半でもう少し主人公に活躍してほしかったところである。

それに加えて後半の戦闘シーンはやや長めで、一応はお互いの策略が交錯したりと飽きさせないような努力はあるものの、少しばかり冗長に感じてしまった。

全体を通して確かにイベントは常に起こっているのだが、一章の時点で物語の方向性が見えないのも少しばかり気になるところ。

最終評価 54点(Web小説としては充分な良作)

一先ず一章に関しては、強敵の戦いや未知の探検など、冒険の楽しさを充分に楽しむことができる良作小説。

それに加えてBL要素もあるので、その辺りは人を選ぶかもしれないが、逆に言えば好みの人ならばより味わい深いものになることは間違いない。

作者さんの文章力はかなりのもので、キャラクターの心理描写も秀逸。

少年達の好奇心を始めとした様々な心情が細かく描かれた場面の数々は、かなり盛り上がるものとなっている。
特に上にも書いたが、戦闘が終わってからの穴から脱出したシーンは秀逸なので、是非読んでいただきたいところ。

所要時間は『第一章』までで凡そ30分ほど。


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