Web小説発掘記 その232 カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作者 哀原正十様

本編URL

https://kakuyomu.jp/works/16817330658739909192

前書き

この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。
※こちらは『エピローグ』までを読んでの感想、レビューとなります。
※甘口記事です。

あらすじ

楽園編

天使――それは男にとって憧れを通り越して何かよく分からない概念と化した存在。

別に翼が生えている必要もない。輪っかを浮かべている必要もない。ただ魅力的な容姿と性格をしていればそれで天使だ。CMAのヒロインならばそれで天使だ――。


第3次世界大戦末期。精神を病んだ軍人の天之玄咲はCMA――1999年発売のポケットボーイ専用ゲーム【CARD&MAGIC ACADEMIA】の重度廃人だった。
地獄のような現実に耐えかねて、その度に狂気をCMAで抑える日々。
そんな玄咲の人生はある日一発の核弾頭によって唐突な終焉を迎える。
死の寸前までCMAをプレイし続けた男は地獄に落ちることを確信しながら爆発に呑み込まれ――。

そして気が付いたらCMAの主人公に転生していた。

カードとそれを読み込み発動するリード・デバイスが起こす奇跡――カード魔法。
そのカード魔法を使って戦う魔符士を育成するラグナロク学園に玄咲もまた主人公として入学する。

少しおかしくなったテンションでストーリー、そしてヒロイン――天使のゲーム知識を活用した手堅い攻略を目指す玄咲。
だが、転生から数秒後に起こしたある事件によりストーリーは初っ端から大脱線してしまい、絶妙に役に立たないゲーム知識に翻弄され盛大に空回りした挙句、玄咲はヒロインから嫌われてしまう。

失意の中、しかし玄咲はヒロインではないがヒロイン以上に可愛い天使のような見た目のモブキャラの少女と隣の席になり、なぜか玄咲に好意的なその少女に段々と惹かれていき――。

そしてある時、ついに悟る。

「彼女こそが、俺のこの世界での天使だったんだ!」



地獄編

夢は壊れた。
天使は羽をもがれた。
全て俺が間違っていた。
何もかも全て俺のせいだ。

「この世界は楽園なんかじゃない」

だから、
だから。
だから――

「地獄に堕ちろ」



ラブコメ編

最大の危機は去った。あとは明日を迎えるだけ。敵を蹂躙するだけ。
だが、その前にやらなければならないことがある。

「シャル、シャワーを浴びてくるんだ」

「な、なんで、かな」

「血を洗い落とすためだ」

ストーリーと見所

ゲーム世界転生……的な物語ではあるのだが、なかなかどうして他の作品とはかなり趣が異なった構成をしている。

ジャンルとしてはダークファンタジーに近いだろうか。最初の場面からかなりインパクトのある描写が続いて、物語の中に深く引きずり込んでくれる。

物語の特徴としては、主人公達が活躍する舞台がカードゲームの世界ということ。
この辺りは少し複雑なのだが、カードゲームをする電子ゲームの世界というのが正しいだろうか。
(後にまた異なる事実が明かされるのだが、それに関してはネタバレになるので伏せておく)

そして主人公はそのゲームをひたすらにやり込んだプレイヤー……であればよくある話なのだが、そこに彼が第三次世界大戦を生き抜いた軍人であり、殺しの才能を持つ男というエッセンスがプラスされることで物語自体が強烈な個性を持つことに成功している。

一見すると楽しそうだが、世界観はかなりダーク。
一章の時点では人間側はかなり悪者っぽい空気が出ているのだが、世界観の描写はエピソードが挟まれることで人間の醜悪さを上手く表現しており、その辺りの説得力が非常に高い。

特筆する点の一つとしてあげられるのは、キャラクターの解像度の高さ。
特に主人公は明確な異常者として書かれており、しかし所謂安っぽいサイコパス的な人柄ではない。

狂ってしまった、もしくは最初から狂っていた人物でありながらそれが異常であることを自覚し、何とか人の側に立とうとしている苦悩を読み取ることができる。

それ以外の人物も、ヒロインから所謂ざまぁ対象の男まで性格だけではなく生い立ちや行動理念までしっかりと定められているため、自然とその世界の中で息づいたものとなっている。

そのキャラクター、特に主人公の歪な性格が物語に上手く作用しており、特にその辺りはヒロインとの関係を進めたり停滞させたりと物語の動きを上手くコントロールできている。

またゲームの世界なので主人公が知識でなんとかしようとするが、そこにいる人物達は生きているので思ったようにいかなかったりと、ちょっとした障害も多い。

戦闘シーンに関してもかなり力が入っており、カードの効果や元のゲームでの使われ方などが解説されていたりと、世界観の構築に余念がないものとなっている。

カードバトルが題材ということもあって、多少のあるあるネタやちょっとした小ネタがあるのも楽しい要素。

バトルに関しては主人公は知識に加えて元軍人としての強さがあるためかかなり非道で残酷な戦い方をすることが多い。その辺りのダークな雰囲気は、刺さる人には特に刺さる要素となるだろう。

それらの世界観を語るための文章力も相当なもので、特に文章による表現力や語彙力が凄まじい。

主人公の心情に合わせたような凄まじい言葉の羅列は、その圧倒的な世界観を余すことなく表現できているといってもいいだろう。

キャラクター

天之玄咲

物語の主人公。

殺しの才能を持った元軍人で、死亡したのをきっかけに舞台となる世界へと飛ばされた。

生前からそのゲームの大ファンだった彼は、知識を使って物事を解決しようとするが相手が生きている人間なのでどうにも上手くいかない。その辺りも物語の面白さに繋がっている。

彼の人物像はかなり上手く作られており、所謂自然と狂っていることがちゃんと表現できている。

そして本人がそれを自覚しつつ、普通の人間であろうとしているような部分もあり、キャラクターとしてかなり深みがあって魅力的に書かれている。

厳密には恐らく狂っているのではなく壊れているというのが正しいのだろう。
戦闘能力は非常に高く、殆ど苦戦はしないがかなり無茶をする。そのため流血することも多々あり、活躍に見応えがある。

シャルナ・エルフィン

ヒロイン。

色々と訳ありな種族で、エピローグまでの物語は彼女と出会いそして護っていくというのが話の中心となっている。

儚げな雰囲気が上手く出せており、今後の活躍や動向が気になるような人物となっている。

総評

評価点

完成された世界観のダークファンタジー。特に世界観や人物の描写がしっかりとしており、それ故に登場人物達の行動や心情に説得力が生まれている。

主人公が元軍人という設定も含めて、人間の醜悪さが自然でありながら強烈に描かれているのも面白い特徴の一つ。

上にも書いたが世界観や人物描写に関しては相当なレベル。特にキャラクターは、一人一人が相当なインパクトを持ちつつもちゃんと物語を破綻させず組み込まれており、だからこそ続きを読みたくなる魅力にあふれている。

問題点

甘口なのでなし!

最終評価 XX点(甘口は点数はないのだ)

どの部分をとってもハイレベルな、ライトノベル的なダークファンタジー。
カードゲーム要素も組み込まれつつ、血が飛び散る激しい戦いやそのダークな世界観。

そしてそんな世界だからこそ輝く主人公達の魅力が余すことなく発揮された非常に優れた秀作小説。

物語としては暗いだけではなく、ちょっとしたコメディ描写もあったりして緩急も付いているので読みやすい。特に主人公のキャラクターが若干天然気味なのも、親しみを感じさせる要素となっている。

ライトノベル的なファンタジー、もしくはカードゲームが好きな人、ダークファンタジー好きにも勧められる作品。

所要時間は『エピローグ』までで凡そ2時間30分ほど。

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