Web小説発掘記 その261 アールス~地獄に最も近い戦場~ 作者 田上 祐司様
本編URL
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前書き
この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。
※こちらは記事を書いた時点での最新話である『第39話』までを読んでの感想、レビューとなります。
あらすじ
隣国デュッセルと戦争中の国、ペイル共和国。この国に生きた俺は軍人として戦地へと向かった弟を連れ戻すべく後を追いかけ軍人になった。
だが前線に送られ、目にしたのはおびただしい死体と迷路のように地面を這う塹壕。
毎日のように人が死ぬクソッタレな戦場の中で、俺は果たして弟を連れ戻すことができるのだろうか?
ストーリーと見所
架空の国々の戦争を舞台とした物語。
戦いの様式は現代よりも些か古め、武器は銃だし航空機などの存在もあるのだが、所謂近代的ではない。
フルオートの武器が物珍しいといったレベルの文明での戦いとなっている。
その中で、主人公はいつ終わるともわからない戦争に繰り出していった弟を探すために、本人も戦場へと身を投じることとなる。
物語が始まると、ちょっとした説明の後にすぐに場面は戦場に。そこで同僚達とちょっと洒落た会話を交わして、可愛い女の子の部下ができて……。
その後はすぐに、地獄の連続だ。
戦っても戦っても終わらない。空からは爆弾や毒ガスが降り注ぎ、眼前では仲間が死んでいく。
同じ人間同士で銃を向け合い、顔も知らないような上官に恨み言を言いながら、家族が待っている敵兵を撃ち殺す。
泥臭く醜い戦場の様子が、全く途切れることなく語られ続ける。
あまりにも汚くて、目を背けたくなるような光景は、しかし見慣れてくればなんとも美しい輝きを放っているようにすら思えてくる。
それはその中で語られる幾つかのドラマであったり、そういうものが、そんな絶望的な世界だからこそ余計に光り輝いて見えるのではないだろうか。
戦場での儚く、錯覚と呼んでも問題ないような些細な物語。
砲弾の一撃で消し飛んでしまうようなそのストーリーは、鮮烈で強く心に焼き付くようなものとなっている。
で、もうちょっと具体的に本編のお話をするのならライトノベルっぽい雰囲気の戦争ドラマ。
戦場のシーンが物語の大半を占め、その中で生まれる葛藤や僅かな友情、そしてそれが壊れたり壊れなかったりするのが作品の肝となっている。
文体は割と軽めで、次々と読み進めることができる。主人公は多少人より優れた部分はあるものの、決して英雄であったり最強であったりするわけではない。
読みやすさとは裏腹に内容はかなりハードであり、戦いが終わることも終わる気配もなく、主人公達は延々と続く地獄の真っ只中を行進し続ける羽目になっていく。
ライトな文体で語られるには不釣り合いといわんばかりの重い内容だが、そこには確かなドラマが幾つも込められている。
キャラクター
煙草屋
物語の主人公。
煙草屋というのはあだ名。
戦場の真っ只中にいるが、所謂特殊な能力は持っていない。
作中の描写を見るに、兵士としては優秀だがあくまでも一発の銃弾で一人の敵を殺すことしかできない兵士。
戦地にいった弟と再会するために戦っており、そういった理由からか捕虜にした敵兵が家族について言及すると強く同情してしまう。
それに加えて仲間思いでお人好しな部分もあったりと、荒い口調とは裏腹に好感の持てる人物。
アヌック
ヒロイン?……多分。
主人公の同僚で同じ分隊の仲間。
口の悪い女性だが、細かな部分で主人公に対して絆を感じさせるような対応をしてくれたりと、作中の清涼剤。
なんか妙に可愛い。
総評
評価点
ライトで読みやすい文体で語られる、ハードな戦争ドラマ。
戦場を舞台とした人間ドラマが色濃く描かれており、登場人物達は個性的で魅力に溢れている。
それ故に彼等が最終的にどうなるのか、戦場という地獄からどのような形で解放されるのかが非常に気になる作品となっている。
問題点
最序盤のハードルは結構高い。
殆ど戦争のシーンから始まり、それが延々と続く。
戦闘シーンから始まるRPGとでも言えばいいのか、15話辺りで物語に火が入るまでは方向性もわからず、地に足がついていないのでどうにも読んでいて感情移入しにくい。
最終評価 55点(Web小説としては充分な良作)
戦場を舞台にした、ハードなドラマが魅力的な小説。
作品を通して落ち着ける場面が少なく、その分そこにドラマがこれでもかというほど詰め込まれている。
キャラクターも戦場ということもあってか落ち着いて話しているシーンこそ少ないものの、ちょっとした仕草や言葉からその人間性を感じさせるようになっている。
読みやすくドラマは面白い、是非読んでみてほしい作品。
所要時間は記事を書いた時点での『第39話』までで凡そ40分ほど。
極めて個人的な感想
アヌック可愛いよアヌック。
序盤こそ少し面食らったものの、読めば読むほどに惹き込まれるお話。
戦争ものではよくあるお話だが、それらを丁寧に書いてくれているのでそれだけドラマ部分が鮮明に描き出されている。
各キャラクターも物語を読んでいくと愛着が湧いてきて、最新話付近の展開はなかなか衝撃的。
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