Web小説発掘記 その199 終焉の謳い手〜破壊の騎士と旋律の戦姫〜 作者 柚月 ひなた様

本編URL

https://kakuyomu.jp/works/16817330662008261469

前書き

この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。
※こちらは『第一部 第二章 忍び寄る闇と誓い』までを読んでの感想、レビューになります。

あらすじ

惑星アルカディア。
この星は創世の時代、創造の女神が創ったと言われている。
世界樹が生み出すマナにより自然も資源も豊かで、魔術とマナ機関が発達した世界。
理想郷——そう名付けられたこの星。しかし現状は理想郷とは程遠い状況にあった。
絶えず起こる争いと魔獣の出現、マナ欠乏症。
混沌とする世界で、エターク王国の騎士ルーカスは記憶喪失の詠唱士(コラール)イリアと出会う。
この出会いこそ世界の真実へと至る鍵。
救済と終焉の物語が今、幕を開ける。

ストーリーと見所

骨太でしっかりと構築された世界観と、バトル+男女の恋愛要素がメインとなるダーク寄りのファンタジー小説。

衝撃的なプロローグから始まり、そこから主人公視点へと物語が移行していく。それなりに長い物語で、一部一章に関してはほぼプロローグのような内容となっている。

内容としては独自の能力である破壊の力を持った主人公が、記憶喪失の女性と出会う。その女性は主人公と過去に関わりがあって……。

と言った感じ。ジャンルは女性向けで、キャラクター同士のやり取りや繋がりに重きが置かれているのも特徴の一つ。

会話劇に力が入れられており、主人公やヒロインを中心とした人間関係が展開していく。

物語の途中に用語辞典が用意されているなど、世界観の設定はかなりのもの。
それらを用いて構築される物語は、作中世界の広がりを感じさせるような要素が多くワクワクさせられる。

全体的な傾向としてはバトルと恋愛に比重が置かれており、戦闘においては主人公やその他のキャラクターの格好いいシーン、そして日常パートではそんな彼等とヒロインの可愛らしくコミカルなやり取りを楽しむことができる。

ヒロインも一章で戦う力を見せたこともあり、今後は主人公との共闘が増えたりすることもあるのかも知れない。

文章も実に読みやすく、すらすらと頭に入ってくる。状況の描写が濃いが、それが読んでいて邪魔にならないのは素直に凄いところ。

とまぁ、褒める部分はいっぱいあるのだが全く問題がない……と言うか自分の中でも賛否わかれる点が多数ある。

取り敢えずはキャラクターの多さ。まずプロローグからして6人ぐらい出てくるので「……なんか多くない?」とか思いながら読むことになってしまった。

そして一章でも怒涛の如くキャラクターが登場する。主人公やヒロインを中心とした人物相関図にがかなりがっちりと作られているのだろう。

次々と知り合いが出てくるのだが印象に残る人物は少ない。
と言うか一章は人が次々出てくるだけで終わっているので物語全体の印象が薄い。

ただ彼等が登場しているからと言って別に読みにくくなったりはしていない。

恐らくそれは作中での登場人物達のキャラクターの立ち位置がしっかりしているからだろう。

なので人物としては把握しやすい。地味にこれは凄いことなので、一概に子物語の悪い点とは言えない。
もう少し話を読み進めれば、また印象が変わってくる可能性はある。

把握しやすいがキャラクターとして彼等が(少なくとも二章時点で)物語の面白さに寄与しているかと言われると「うーん……」と言ったところ。

今後の活躍に期待。

キャラクター

ルーカス・フォン・グランベル

主人公。貴族で少佐でイケメン。

救国の英雄とも呼ばれており、常に冷静なのだがヒロインの前でだけは取り乱す一面も見せる。

基本的に物語は彼の視点で語られるので、戦場での活躍や周囲の仲間達にヒロインとの仲の揶揄われるような場面など様々な顔を見ることができる。

キャラクターとしては非の打ち所がないイケメンと言ったところだろうか。
ヒロインとのやり取りは和ませられるような部分も多く、物語の一つの肝ともなっている。

イリア・ラディウス

ヒロイン。記憶喪失の女性。

謎が多い人物。
主人公は彼女のことを知っていて、彼女は主人公を忘れていると言った状況。

そんな二人の擦れ違い的なやり取りや、そこに秘められた謎を追うのもこの物語の面白さの一つ。

総評

評価点

非常に読みやすい文章は魅力的。

描写がしっかりとしているのに殆ど引っかかりがなく、すらすらと読み進めることができる。

その文章力は登場人物の多さや、設定の濃さに対していい方向に作用しており、読んでいてその辺りの要素にネガティブな印象を抱きにくい。

世界観や彼等の使う魔法なども練り込まれており、特に魔法などは登場人物の印象付ける要素の一つとなっている。

またキャラクターに関してはかなり特徴がつけられており、主人公とヒロイン以外にも魅力的に描かれている。

そのためメインとなる二人以外にもお気に入りを見つけることができれば、その辺りを起点として楽しむこともできる。

問題点

キャラクターの心情描写が少し薄め。
なので戦闘シーンなどに関してはやっていることの派手さの割には少しばかり淡々とした印象を受ける。

またキャラクターが多いので、二章までの時点では登場人物が増えてちょっと戦ってお茶会や食事をして……だけで話があまり進んでいない。

10万文字以上掛けてそれは、些か進みが遅いと言わざるを得ない。

ただしここに関しては、恐らくは作者さんが見せたい部分の一つにキャラクター同士の関係性や会話劇などがあると思われるので、一概に悪い点とも言い切れない。

最終評価 54点(Web小説としては充分な良作)

とにかく読みやすいことが一番の特徴。

登場人物こそ多いが把握はそれほど難しくはないし、今後物語が続けば彼等の人物像も明確になっていくことだろう。

主人公とヒロインのやり取りや、美しい世界観など作品としての見所も多い。

意味深なシーンが随所に挟まれたり、謎の敵の襲来など読んでいて続きが気になる要素があちこちに散りばめられているのも物語を楽しむうえでは重要な要素の一つ。

バトルと恋愛を高いレベルで描くことができているので、ジャンルとしては女性向けに近いが、男性でも楽しく読める要素は多い。

恋愛、ファンタジー好きなら是非、読んでおいて損はない作品だろう。

所要時間は『第一部 第二章 忍び寄る闇と誓い』までで凡そ1時間ほど。

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