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連載小説 奪われし者の強き刃    第2章41話 「代償の支払い 男の本音」

『百鬼夜行』が本題に入ったことにより、穏やかだった空気が張り詰めた空気へと一変した。

 百鬼夜行:
 「今回、あるじ様が私を使ったのは18時から夜3時までの9時間。1秒使用につき寿命は1,800秒。つまり30分削られるから合計58,320,000秒、わかりやすく換算すると1.8年。約2年ね。」

 悠:
 「2年か。安いもんだよ。出し惜しみして何万、何十万という人の一生を奪うくらいなら俺の2年なんて。」

 百鬼夜行:
 「後悔はない?」

 悠:
 「後悔?まさか、むしろ感謝しているよ。『百鬼夜行』のおかげで安倍晴明にも勝てたし、みんなを守ることができた。これ以上にない成果だよ。力を貸してくれてありがとう『百鬼夜行』。」

悠は『百鬼夜行』に向かって微笑んだ。『百鬼夜行』は悠の嘘偽りのない微笑みに涙をこぼした。昔、右も左もわからないまま無理やり非人道的な訓練をさせられ、感情を失っていた子供の成長に。忌み嫌われるはずの自身の力に嘘偽りのない言葉で感謝を述べられたことに。
『百鬼夜行』は涙をぬぐい悠に向かって右手をかざした。すると、悠の体から手のひらサイズの人魂が2つ出てきた。

 百鬼夜行:
 「これが今回の代償のあるじ様の寿命よ。ひとつで1年。」

『百鬼夜行』はその人魂を口に含み飲み込んだ。

 悠:
 「終わったのか?何ら変わりはないが。」

 百鬼夜行:
 「えぇ、終了よ。目覚めても後遺症はないと思うわ。」

 悠:
 「そうか。」

すると、暗かった周辺がだんだんと明るくなっていった。

 百鬼夜行:
 「そろそろ時間ね。楽しいお話ありがとうね、楽しかったわ。」

 悠:
 「あぁ、こっちこそありがとな。いつでも会いに来い。また話そう。」

 百鬼夜行:
 「でも、私はあるじ様の寿命を吸うから師団のみんなからは嫌われているかもしれないし。」

 悠:
 「あいつらはそんなこという奴らじゃないよ。それに、俺がもっとお話がしたいんだ。だめか?」

 百鬼夜行:
 「ずるいわね。そんなこと言われたら断れないじゃない。わかったわ。近いうちに会いに行くわね。」

 悠:
 「あぁ、待ってるよ。」

悠と『百鬼夜行』は握手を交わし、そのタイミングで悠は目を覚ました。

 悠:
 「ってことがあってね。だから2年の寿命がとられた。まぁでも、体に異常はないし2年だけで済んでよかったよ。」

 氷室:
 「経緯もわかったし体に異常がないのもわかった。だがな、なんでそんな自分の命がどうでもいいみたいなことが言えるんだよ。一度きりの人生だぞもっと大事にしろよ。」

氷室は涙が出るのを必死に抑え、悠をまっすぐに見つめながら言った。

 悠:
 「別に俺も死ぬのが怖くないわけじゃないんだよ。普通に怖いし、死にたくない。」

 氷室:
 「じゃあなんで。」

 悠:
 「死ぬ以上にみんなを失うの方が怖いからだよ。こんな俺のことを認めてくれて俺の拠り所になってくれているみんなを失うのが怖いんだ。みんなを失ったら俺はまた一人になる。そうなるのが怖いから俺は命を懸けて戦ってるんだよ。みんなを守るという大義名分を盾にして自分のわがままのために戦ってるんだ。失望した?」

 悠:
 「俺のことはどう思ってくれてもかまわない。嫌ってくれてもかまわない。ちゃんと戦うから。」

 悠:
 「お願い・・一人に・・・しないで。」

悠は下を向き大粒の涙を流した。氷室は一瞬、言葉が詰まったが

 氷室:
 「当たり前だろうが。」

 悠:
 「え?」

氷室は下を向いていた悠の頬を掴み、顔を自分の方に向けて

 氷室:
 「『一人にしないで』?『失望した』?あほか!お前を一人にするつもりも失望する必要もねぇよ!どんな理由であれお前が市民のために戦ってきたのは事実だ。俺たちがお前と一緒にいるのはお前が強いからじゃねぇ、お前と一緒にいたいからだ。これは師団員全員が思ってる。それに、お前と同じくらい俺たちもお前を失うのが怖いんだ。だから、もっと俺たちを頼ってくれ。自分の命を大事にしてくれ。大事なお前の壊れる姿は見たくないんだ。」

氷室の言葉に悠は涙が止まらなくなり、氷室の胸の中で号泣した。

 氷室:
 「俺たちはまだ互いに知らないことが多い。これからはもっと互いのことを理解していこうな。」

すると、屋上の扉から多くの師団員がなだれ込んで来て、彩音を筆頭に師団員みんなで悠に抱き着いた。

 悠:
 「みんな・・。」

 彩音:
 「師団長、よかったです。大怪我して帰ってきて、目を覚ましたかと思えば部屋からいなくなって。」

 新田:
 「本当に心配しました。」

団員みな、涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。悠は指で彩音の涙をぬぐって

 悠:
 「みんな・・ただいま。」

 師団員全員:
 「おかえりなさい!」

 氷室:
 「まぁ、みんな言いたいことはいっぱいあると思うがまずは腹ごしらえだ。悠は半年なにも食ってないんだ、腹減ったろ。」

 悠:
 「うん、そうだね。まずはみんなでご飯食べようか。話はそれからにしよう。」

その後、師団員全員で食堂に向かった。その日のご飯は悠の好物がたくさんあり、今までで一番豪勢であった。

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