ブートレグを集めるべきではない3つの理由

ブートレグは集めるべきではない。
決して何があっても「公式では未発表のレアトラック!」などという甘い文句に飛びついてはいけない。
一度飛びついてしまえばそれが最後、底なし沼、借金地獄、自己破産、自殺未遂、一家離散、ホームレスの六重苦...。
後ろ五つが誇張表現であることは良識のある方であればお分かりとして、実際ブート収集は苦行にも等しい行為なのである。
ここで知らない方のために補足しておくが、ここで言う「ブートレグ」とは、所謂「海賊版」とは厳密に異なる。
「どっちも著作権法を無視してるから同じやろがい!」と言いたくなるだろうが、この二つの用語はブートマニアの間ではそれぞれ別の使われ方をしている。
「海賊版」とは、「第三者が公式盤と似せて作ったもの」であり、
「ブートレグ」とは、「第三者が公式では発表されていないミュージシャンの音源を元に作ったCD・LP」という意味であることにおいて異なっている。
簡単に言えば「海賊版」が「消費者が誤って購入することを期待するもの」であるとすれば、「ブートレグ」は「消費者が公式盤ではないことを理解した上で購入する」ものなのだ。
それでもなお「どっちも著作権法を無視してるから同じやろがい!」と言われるのであれば閉口するしかない。
さて、そんなブートレグ、なぜ集めてはいけないのか。ここでは大きく三つに分けて理由を説明していこうと思う。

そもそも推奨される行為ではない

第一にこれは良識的な問題だ。
如何に「公式では未発表のライブ!」などの文句がファンにとって魅力的に感じられようが、ミュージシャンの意思を無視し、レコード会社の意思を無視し、そして著作権法を無視していることには違いないのである。
例えば、ブートを集めるファンにとって特に人気が高い物は、もちろん音質が良い&パフォーマンスが良い物であることは間違いないが、それと同じくらいライブやスタジオにおいての「ミステイク」物は人気である。
特に「ミステイク」ほどミュージシャンにとって、レコード会社にとって消したいものはない。
ライブ・スタジオで如何にミスをしようが、公式発表によって何千何万の衆目に触れられることが予想される以上、質の悪いパフォーマンスを世に出させてはいけないのだ。
そこには演奏者としての矜持を越えて、「質の悪いものを氾濫させてはいけない」というレコード会社・ミュージシャン共通の目的が存在する。
以上を踏まえ、もしもミュージシャン自身の意向を尊重し、ミュージシャン本人が認めたものだけを聴くことが、真のファンとしてあるべき姿勢なのだとしよう。
するとブートを集めるファンは「ファン失格」ということになってしまう。
本当にそうだと言えるだろうか?
確かにミュージシャンの意思を尊重することもファンとしては重要な姿勢だ。しかし実際それ以上に好んでいるのだとすれば、そのミュージシャンが「風呂に入っている時も、風呂に入って先に湯船に入るのか、あるいは先に体を洗うのか、体を洗うとするなら何処から洗うのか、足か手か頭か股間なのか」、そんなことまで気になってしまうのは当然である。
一度でもその人が作り出す音楽に魅せられてしまった経験がある人であれば、「骨までしゃぶり尽くしたい!」と思われたことはきっと何度もあるだろう。
ブートレグとはそんなファンとして真っ当な願望に応えるものなのである。
卑怯、なんとも卑怯。であるからして手を出さない方がいい。
本当に良識を備えるファンなのであれば、如何に忍耐を求められようが公式発表の朗報を待つべきだ。ブートレグ、ダメ、ゼッタイ。

お金がかかる

ブートレグにはお金が掛かる。それはもうエライことに。
理由はさらに分けて二つある。

①数が膨大

ブートレグが発表されるだけのミュージシャンともあれば、それに伴うだけの知名度と活躍があると思われる。
例えばビートルズの場合。彼らの実質的な活動期間は8年と短く、その一方で実に濃厚な活躍を果たしてきたことは今や周知の事実である。彼らはブートレグであれば、一番の宝庫であると言えるライブ活動を中途で断念してしまったことで知られているが、それにも関わらず彼らのブートレグ数は憶測であるが軽く1000枚は越える。
そこには単に知名度などの問題を越えた、先ほど述べた「しゃぶり尽くしたい!」という願望に呼応している部分があると思う。
また活動期間がそれなりに長く、またライブ活動を頻繁に行なっていたからこそ、「ブートがパンク状態」になってしまったケースも無論存在する。
それはローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリン、ジャズであればマイルス・デイヴィスなどである。
彼らはその活動期間の長大さによって、音源が膨大に溢れる状態になっている。
これらへの消費者としての対処法は簡単だ。つまりは「欲しい時期の音源だけを集める」しかない。10年、20年、それ以上と活動しているミュージシャンであれば、「嫌いなわけではないが優先順位から落ちる時期」が必ず存在するはずだ。集める時期に優先順位を付けてしまえば、金銭的な問題は多少なりとも解決するはずである。
しかしこれも先述した通り、「全部聴きたい!」のがファンとしての通常の心理なのである。
なので「優先順位をつける」の対処法も、あくまでその場当たり的な対処法に過ぎない。ブートレグとは、ファンの心理としてはそういうものなのです。

② 多々買いを要求される

ブートレグは進化していくものである。
進化とは何か。1レベルで「ブート」、15レベルで「ブートレグ」、30レベル「ブートレッグ」に進化するとでも言うのだろうか。
当然そんなことはなくて、事実は「時代を経るごとに音質・収録時間その他諸々がバージョンアップされる」のである。
ところでブートレグと聞くと反射的に「音悪いんでしょ?」となる人は少なくないと思う。
確かに音は悪いものが多い、いや多かった
「ブートレグ=音が悪い」との図式は2000年代後半以降、もはや過去の産物となっている。
ブートレグの歴史はおおよそ70年代から始まり、80年代末からはCD時代に突入して2000年代以降は百花繚乱の大量生産時代に突入した訳だが、確かに70年から90年にかけての「古典」とも呼べるブート作品群には聴くに耐えないブツも多い。
もっともその当時はそれが当たり前であったから誰も怒らなかったし、「そういうものだ」と自然に受け入れていた。
ところが最も恐れるべき問題が起きる。2000年代以降、ビートルズやマイルス・デイヴィスなどのブートにおいて「枯渇」の問題が起きた。
石油燃料も森林資源も音源も、無限の資源ではない。ディガーすればディガーするほど当然減っていくし、最後には無くなるものだ。
この「出涸らし」の問題に対し、西新宿のヤカラたちはどんな対処を打ったのか。それこそが「バージョンアップ」であった(...と僕は見る)。
これからの時代は量より質だ!」という勝手文句は何とも都合が良さそうだが、少なくともこれが近年のマイルスブートやビートルズブートのスタンダードである。
なのでブートの世界は、「古参ほど損をする」大変シビアな世界なのだ。
さらに言うと、ブートで購入した商品が後々にもっと完璧な仕様でオフィシャルリリースされる可能性も十分あり得る。そうなればこそ正しく「多々買いを要求される」のである。
結論、やはりブートレグは集めるべきではない。

情報を精査する必要がある

ブート収集は、嘘を嘘であると見抜ける人でないと難しい。
何故なら業者が度々嘘をつくからだ。「オフィシャルレベルの音質バージョンアップ!」などの大嘘は可愛いもので、「既発の音源を新発掘の録音と偽る」など軽々しくやってのける。
収集者は常にリテラシーをもって行動することが求められる。
例えば後者の場合はトラックリストをまず確認し、既発盤で同じ仕様が無いかを確認する。しかし、それでも何かしら業者が偽っていたりした場合は、最大限の情報を駆使し真実を見極めるか、最終的には買って確かめる他ない。
それに加えて先述の「バージョンアップ」の問題も忘れてはならない。先述の通り、「ブートは進化していくもの」であるから、どんなに名高い名演でも古いバージョンを掴まされてしまうと、劣悪な音質で聴かざるを得ない。
例えオークションサイトで欲しい音源が見つかったとしても、踊躍してはならない。まずは「そのブートがいつ頃発表されたのか(古いバージョンではないか確認するため)」、「現行のバージョンやYouTubeなどで聴ける音源を確認する」などの作業が求められる。
さらにこれが一番厄介、「コピー盤」の問題もある。いわゆる「ブートのパイレート(海賊行為)」である。
「何だそりゃ?どっちも同じようなもんだろ」と思われた方、冒頭の説明を思い出して頂きたい。
「海賊版」とは「第三者が公式盤と似せて作ったもの」であり、
「ブートレグ」とは「第三者が公式では発表されていないミュージシャンの音源を元に作ったCD・LP」...という一節である。
つまり公式未発表をCD化したA社ブートがあるとして、全く無関係な業者がA社ブートのガワだけを真似て発売すること、これこそが「ブートのパイレート(海賊行為)」だ。
かなりカオスな話だが、事実フリマアプリの台頭によってこの種の悪どい手口が横行している。
そして(訴えられるのも怖いのでここでは名前を出さないが)この手口でコピー盤を販売している商店・通販サイトに限って、大々的に広告を打っているものだから検索サイト上位に表示される始末...そしてブート初心者が掴まされたことすら知らずに掴まされ続ける悲劇...救えない。
しかし実際、コピー盤に何か問題などあるのだろうか。
そもそもが非公式のブートレグ、ガワを借りているだけでコピー盤も同じではないか。
これに関しては間違いなく「問題あり!」と答える。
まず①コピー盤はダビングにダビングを重ねているので音が悪い
元がどんなにマスター級であっても、許容できないくらい劣化していることも多い。
続いて②質の悪いCDRを使用していることが多いので劣化が早い。
他ならぬ筆者も嘗てフリマアプリにて(!)、コピー盤販売サイトの別名義と思われるユーザーからCDRを摑まされたが、購入から2年と経っていないのにも関わらず再生不可の状態に陥っている。
これらに対して筆者は幾つかの精査基準を設けている。
まず通販サイトにおいては、
①「在庫切れになった様子がない」ことと、
②「不自然に相場より安い・高い」、
また、これはフリマ・オークションアプリにも共通している精査基準だが、
③「オリジナルから出ている盤と録音メディアが異なる(プレス盤→CDR等)」こと、
④「同じ盤を何度も大量出品する」、
以上が主な基準である。
①については、「常にコピーをCDR化できる状態にある」ということを意味していると思う。
ブートレグ屋といえども実店舗を持つ業者であれば常に在庫を抱えることはできないし、廃盤の概念もおおよその場合存在する。
しかし海賊版業者の場合、注文があればその度コピーを引っ張り出してきて、CDR化して発送すれば良いだけなので廃盤概念は存在し得ないのである。
②についてだが、コピー盤の価格を高く設定するか、安く設定するかは業者の姿勢によって分かれていると思う。
相場より安く売って安い額で沢山儲ける業者もあれば、相場より高く売って高い額で儲ける業者もある。
結論すると、メーカーオリジナル盤よりも2000円以上安く&高く売っている場合は総じて怪しんでいいと思う。
③については上に同じくメーカーオリジナル盤の仕様を知る必要があるものの、これに当てはまっていれば高確率でコピー盤と認定して良い。
④は①と殆ど同じ理由だ。もっとも、在庫放出等でオリジナル盤が大量出品されることもあるが、その際最も信頼が置けるのが、やはりCD実機の写真が載っている場合である。
オリジナル盤はCD(R)のレーベル部分にメーカーならではのピクチャーが施されているケースが多い。コピー盤の場合、大半は白塗りにタイトルだけ...など粗雑な作りが多いので一目で見分けがつく。
以上、この他にも無限に語り尽くせるが、これだけでもブート収集には如何に心労が掛かるか、分かっていただけたと思う。
やっぱりブートなど集めるもんじゃない。

まとめ

ここまで色々とブートレグの悪口を書き連ねたが、それは何もかも「ブートを収集したいけど何から始めたらいいんだろう...」と思われているだろう、そう、あなたに届けたいが為に制作した。
インターネットの台頭によるトレードの容易化・動画配信サイトの登場によって、ブートレグはいまや時代遅れである。それに伴い、これまで初心者にとって良きガイドともなっていた情報誌も廃刊し、古き良き個人ブログやBBSなどの廃止が相次いでいる。
もはや情報難民状態、良いと言おうにも悪いと言おうにも絶望的に情報を欠いている。今回は敢えて否定的な取り上げ方を選んでみたが、この5000文字余りの記事が少しでも「手を出そう」或いは「やめとこう...」と判断する材料になるのであれば幸いである。
さて、ここまで見てきた通り、ブートレグは非常にコストが要求される。それは良心にしろ、金銭的余裕にしろ、思わず知恵熱が出てしまいそうな検証にしろ、重くのしかかってくる。
しかし難行は楽行、面倒が掛かるために一層楽しい。登山家は頂上を目指すことだけが目的なのではなく、「登る」ことそれ自体に価値を見出すのではないか。
ブート収集も同じである。
苦労のあと、山頂から麓を見下ろした時の感動は何にも代え難いものがある。

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