見出し画像

キタダヒロヒコ詩歌集 2

うかうか林に踏み入ると
世界の冷淡さが懐かしい
白く硬い樹木 少しだけ水を含んだ葉
私の日常はまるで絵のように
背景のようになり
温和しくかがやきながら私を遠ざける

その日があったということは
いつまでも消えない光の粒だ
からだの奥のほうに
小指の先ほどの位置をたしかに占め
色もかたちもそれらしい
貴い石となる
そのひとつひとつが私を確かに記憶し
私もその記憶からのがれることはない

美しい気持ちはなんの先触れもないまま
とつぜん
思いがけず空を満たす
空がひとかたまりの炎となり
やがてひとしずくの翳りとなって
死ぬるまでの音楽
すべての
消えゆくものを
かなしく祝福する音のつらなり

私の…私たちの眠りを
眠りのなかに浮かぶ
私たちの…私の未来を
この最も美しいほろびの詩篇が
ほんのわずかだけ
彩ることをゆるせ


コメントやサポートをお待ちしています!


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集