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第11話 知られざ真実る

明智は北見の実家に行き、インターフォンを鳴らした。
「はい。どちら様ですか?」
「夜分に失礼します。明智 輝帥《きすい》です」

玄関が開き、「明智さん。お久しぶりね」
「はい。本当にお久しぶりです」

「まあ、中に入ってちょうだい。お話もあるでしょうから」

北見の母の一言で、何か知っているのだと直ぐに察した。
「おじさんは?」
「今日は夜勤なのよ。署が違うから分からないわよね」

「今日、伺ったのは北見の話で、何かお話があるのではないかと
思い、こちらに伺いました」
「ちょっと待っててね」

北見の母は二階に上がっていき、手に何かを持ってすぐに戻ってきた。
それは一冊の本だった。何度も何度も読まれたのか、色あせていた。

思考力の高い明智はすぐに理解した。これが鍵だと。
そして鍵を母親に預けたのは、何かしらの問題があり、
いざと言う時の為に、自分に残した遺品だと思った。

「あの子がね。事故に遭う数日前に、思い詰めた顏をして、
明智が来たら、これを渡して欲しいと頼まれたのよ。でも紘一が
逝ってから、その本に何かの意味があると思って何度も読んでみた
けど、何も分からなかったわ」

「そうでしたか。あれから三年もお待たせしてしまいました。
申し訳ありませんでした」

明智はあの頃の感情が蘇り、下眼瞼《したまぶた》に涙が貯まった。
北見の母親から本を受け取り、我慢していた涙が頬を伝った。

手渡された本にポツポツと涙が落ちた。

「何故この本を明智さんに託したのか分かる?」
「あれから三年もお待たせしましたが、今はわかります」

「私もお尋ねしたい事があります」
「何かしら?」

「北見に婚約者がいた事はご存じですか?」
「ええ、覚えてるわ」

「というと、お会いになったという事でしょうか?」
「ええ。一度だけだったけど、あの子が紹介したい人がいると
言って、ここに連れて来たわ」

「写真などは無いですよね?」
「無いわね。明智さんもお会いになったのでしょう?」

「署に連れてきたのですが、丁度間が悪く、
事件が起きたので後日改めて紹介するはずだったのですが……」

「そうだったのね。じゃあ詳しくは知らないのね」
「詳しくとは?」

「もう三年も経つから話してもいいわね。あの子が連れてきたのは
トリプルXだったのよ。見た目も女性で繊細でとても優しい子だったわ」

「トリプルXというと、症候群のトリプルXですか?」
「明智さんは本当に何でもご存じね」

「一応は知っていますが、あれは無数の症状がありますし、
仰る通り、見分けがつかない場合も多数あります」

「そうなのよ。何も恥じる事は無いと言ったけど、あの子は
手術を望んでね。紘一に相応しい女性になりたいと……」

静かな時が過ぎ、母親は震えるように、か細い声で尋ねてきた。

「あれは事故じゃないのね?」
「正直まだ分かりません」

「真相が分かったら教えてもらえるのかしら?」

警官の夫を持ち、紘一も警官だった。
言えない事もある事を知りながら
母親は敢えて尋ねた。

「おそらく世間には公表できない答えかもしれませんが、
秘密にして頂けるなら、必ずお教えします」

「ありがとうございます」と母親は涙をこぼした。

明智の非常に難しい立場を懸けて、教えてくれるその心に涙が落ちた。

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