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第19話 通り魔と通り魔

「第二回特別捜査本部会議を終了する。では解散」

「真田警視」
「黒川参事官、どうかしたの?」

「いえ」不機嫌そうな顏で、視線を落として答えた。
「言いたい事があるならハッキリ言いなさい」

「では言わせて頂きますが、所轄の刑事の情報だけを頼りにするのは
異例の事です。言いたくはありませんが、何かおありなのではないのですか?」

「私が明智刑事に好意を抱いているといいたげね。
私は月島警視から、明智刑事の事を甘くみるなと言われてきたわ。
彼は所轄の刑事だけど、能力は本部よりも遥かに高いと月島警視にも言われたわ
そして、彼の推理や洞察力は本物だと私は確信しただけよ」

「月島警視も……それは大変失礼しました。明智刑事はそれほどまでに有能なのに
何故、本部に来ないのでしょう?」

「月島警視は同期のようで彼をよく知っていたわ。野心家では無いようだと言って
いたけど、同行して確かに野心家では無い現場の刑事だと思ったわ」

「明智刑事……? いやいや、それはない」
「どうしたの? 何か分かることがあるなら教えて」

「いえ。私の早とちりです。お忘れください」
「……わかったわ。何か分かったら知らせてちょうだい」

会議が終わり、皆が出ていった頃、明智刑事は現れた。
参事官は、明智刑事に対して道を譲り、一礼して去って行った。

「何ですか? 参事官の態度は明らかに変ですが、何かありましたか?」
「明智刑事の事をさっき話してる時、よく分からないけど何かに気づいたみたい」

「そっちの収穫はどうだったの?」
「残念ながら……」
「そう。ではまずは模倣犯を逮捕しましょう。人員は予想地点から、円状に囲むように配置したわ。逃げ場は無い、着任早々いい報告ができそうだわ」

「あなたはどうする?」
「怪我人が出無さそうですし、本部が逮捕したほうがいいでしょう」

「明智刑事は不思議な人ね。普通は所轄の人は本部がくれば嫌がるものよ」

明智は一息飲み込んで言った。
「犯人の逮捕が目的でしょう? あれこれ命令されても私は私の道を進むだけです」

「でも本部ともめ事を起こしても得るものは何もないわ。聡明なあなたらしくないというか、何か問題があったようね? さっきの参事官といい、月島さんといい、何を隠してるの?」

「聡明な真田警視ならすぐに気づきますが、出来るだけ遅く気づいてほしいだけです。私は真田警視に対して好感が持てます。ですので出来るだけ遅く、出来れば永遠に気づいて欲しくはありませんが、そうはいきませんからね」

二人は笑顔を見せあった。

「本部。応答願います」
「こちら本部。どうしたの?」

「予想地点Aに現れました」
やはり深夜のコンビニを狙ったかと明智は心の中で思った。
真田は明智の目を見た。その瞳に対して明智は頷いた。

もしもに備えて、店員も警官と交代していた。
「犯人を逮捕しなさい」

真田の一声で外に隠れていた本部の人間も店内に入り、退路を塞いだ。

通り魔は焦りから狼狽した。それはただの仮面を被った人間にしか見えなかった。

取り押さえ、仮面を外した。20代の男が無駄にあがいていた。

「本部へ。犯人を逮捕しました。20代の男のようです」

「こちら本部。了解、連行しなさい。他の待機班は本部に戻りなさい」

真田は明智の横顔を見た。何故か悲しい目をしていた。
今にも泣きそうな程、悲しい目だった。そして一粒の涙が頬を伝った。

見られていた事に気づいて、涙を振り払った。
「……何故泣いていたの?」
「私は嘘が嫌いだから、率直に答えます。犯人の悲しみに触れたからです」

「?! 犯人が誰か知っているの?!」
「知ってます。でも誰かは言えません。犯人は最後の犯行後、自ら命を絶ちます」

「そこまで知っていて黙っていたの?」
明智は何も答えず、会議室から出て行く時、参事官と鉢合わせした。

「黒川参事官! 明智刑事を止めてください」
黒川は止める処か、道を譲った。
「どういうことなの?! 黒川参事官!」

「まさかと思って調べてきました。彼の父上は明智颯音《あけちはやと》です
そして叔父は明智一八《あけちかずや》です」

「警察庁長官が父親で、警視総監が叔父の……あの明智一族が何故ここにいるの?!」

「私たちは通り魔を逮捕した。事件は解決したわ」
「しかし、あれは模倣犯では?」

「明智刑事は犯人に会いに行ったわ。犯人は最後の犯行後、自殺すると言っていたわ。私たちは通り魔を逮捕した。これで終わりよ。本部へ戻る準備は任せるわ。私は少し出てくるからお願いね」

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