【超短編小説】 置き忘れたもの
「よくここが分かったな」
山下がベンチに座っていた。
「缶チューハイ飲みながら、夜に公園にいる奴なんてお前ぐらいだからな」
「お前も飲むか」と山下が酒を勧めてくる。
「悪いな、有難くいただく」
「ここに来るとさ、ムカついたことも消えていく気がするんだよ」
「どうだろう、俺はあんまり変わらないな」
「なあ、あのビルの灯りは、いつになったら消えると思う?」
「さあ、まだ働いてるんだろう。遅くまでご苦労様です」
すると、山下は神妙な顔をして呟いた。
「このままで良いんだろうか?」
「何が?」
「目的とか建前とか、正しさとかだらけで」
「まあ、それで秩序が保たれているからな」
「それだけか、それだけで俺らは生きているのか」
「うーん、何とも言い難いな」
「そうじゃないはずだろ、他にもあるはずなんだよ。どこかに置き忘れたものが」
山下はそう言うと、缶チューハイを強く握った。
俺達は置き忘れたのだろうか。
それは、どこに行ったんだろうか。
上を向くと、ビルの灯りはまだ消えずにいた(完)