【長編小説】 閉じこもりの日々に別れが来るまで #3
「どうして?」
私は少し間を置いてから、彼に尋ねていた。
「無駄じゃないですか、どれだけ立派になったって。人間はいつか死ぬ。父さんは事故死なんかじゃない。殺されたんだ」
「殺された?」
「正確には研究だけさせられていた。研究の成果は全部、組織の人間に奪われて爆発事故に巻き込まれた」
「なんで、それが分かったの?」
「父さんの携帯を見たから。これ以上は何も言えない。もう帰ってよ」
そう言って、彼は何も話さなくなった。
私は部屋の前から離れると1階まで降りて行った。
階段を降りると、お母さんがリビングに待っていた。
「先生、優は、何か言っていましたか?私には何も話してくれないんです。先生、どうか御願いです。息子を学校に行けるようにしてください。この通りです」
そう言うと、お母さんは深々と頭を下げた。
「お母さん、落ち着いてください。あまり事を急ぎ過ぎない方が良いと思います。ゆっくり考えていきましょう」
私は、まだ事の重大さに気が付いていなかった。
そう、この時までは。
2000年4月、彼は死んだ。(つづく)