【長編小説】 閉じこもりの日々に別れが来るまで #1
エピローグ
これから書く物語は私が彼に最初に出会った24年前の話である。
私はこの物語を書かずに胸の内に留めておくつもりであった。
しかし、当時17歳だった彼は予言をしていた。
「先生は、2023年に小説を書くよ」
これは私にとっての宿命であり、まだ、この物語の始まりに過ぎなかったのだ。
第1章 彼について
1999年12月末、彼は自分の部屋から忽然と姿を消した。
当時は世紀末で街中の人々はどこか浮足立っていた。
私は彼がいなくなった日、彼の携帯電話に幾度となく電話をかけたが繋がらず、結局のところ、彼の居場所を見つけることができなかった。
彼は、私が着任した高校の生徒だった。
私が担任を受け持ったクラスに彼の名前はあったものの、彼は、既に1年生の時から不登校であり、教室にその姿はなかった。
彼の家族構成は母親と年の離れた弟がいた。
父親は有名な科学者であったが、彼が中学生の時に事故によって他界していた。
私は彼の自宅に訪問し、母親と少しだけ話をして、帰り際に彼の部屋の扉の前に行き、声をかけることを繰り返していた。(つづく)
*この物語はフィクションです。実在の人物や団体とは一切関係ありません。