【超短編小説】 リセット
俺は横断歩道で車にはねられたはずだったが、
「リセット」という女の声がした。
気が付くと、いつもの交差点にいた。
母さんは5年前に亡くなった。
母子家庭だった俺は、母さんがある日、用事もないのにどこかに出掛けて行くことがあった。
ご飯は用意してあり、「夕方には帰るから」と言ったきり、どこに行くのか何も教えてはくれなかった。
母さんが亡くなって以後、不思議なことが起きた。
それは不慮の事故にあっても無傷で生きていたということだ。
しばらくして、俺は雨の日に雷に打たれた。
気絶をしていたのか、女の声がする。
頭はぼんやりとしていたが、母さんの声だった。
「あなたは3回も死にかける運命にあったの。だから、私はあなたの死を止めるためには未来に行かなければならなかったの。
寂しい思いをさせたのは悪かったわ。でも、あなたを守るにはこれしかなかったの」
「母さん?」
「あなたの生は私の死と同期する。あなたが生きれば私は死ぬの。そろそろ時間が来たわ」
「待ってくれよ、母さん」
「リセット」
「なんでだよ、なんで」
目が覚めると俺はベットの上にいた。
娘の死から、15年が経った。
孫は20歳になり、最近、事故にあったが命に別状はなかった。
ただ、「母さん」と何度も病室で繰り返していたようだった。
私は娘に会うために過去にタイムスリップをした。
「リセット」と言い残して(完)