見出し画像

「神様…もう少しだけ…」

「lemon sodaさん飲みに行きませんか?」

その日…
心地よい雰囲気の声で飲み会のお誘いを受けた。

4月から勤め先を変え、病院勤務から地域へ飛び込んだ。
私が所属するのは、障害児が通う小さな事業所である。
看護師、保育士、リハビリ、児童指導員など様々な資格を持った人材が集まって、子ども達を支援している。

新参者の私を誘ってきたくれたのは、年下の同僚の看護師さんだった。彼女はとても可愛らしく、華やかで、愛嬌もバツグン。子どもが大好きで、仕事も熱心なので、事業所でも一目置かれている。

彼女からのお誘いは、好きだった女の子に映画に行こうと言われた中2男子の心境で、そっけない素ぶりをしながらソワソワ…ワクワク…と心は取り乱していた。

私自身、アルコールが割と強めの体質だと思う。そしてそれを味わって飲む事も大好きなのだ。ビールも焼酎もワインも日本酒もいける。

しかしだ…

子育て中の母が、「夜呑み会に行く」ためには何かと段取りが必要である。夫へ報告し、子ども達の世話をお願いし、同居している義理の両親へも配慮する。いつもなら断るのだが、
「面倒だけど俄然やってやろうじゃない。」
なんて…その日の私には勢いがあった。

私がこんな風に自分を奮い立たせて飲み会に行くのは珍しい事だった。

以前は、「職場の飲み会」というものに壁を作っていた。送別会くらいしか積極的に参加しなかった。結婚前も結婚後も子育て中も…。

大人数の中でワイワイしたりするのが実は苦手だ。悪口や信憑性のない噂話になっていくと自分がどこに身を置いていいか分からなくなるし、変に場を盛り上げようと話し過ぎて一人反省会に陥ってしまう。大人数の場合なら、幹事的な役割となり、隅っこでお金の勘定やタイムキーパーをしながら、人間観察をして、1人で好きに呑むくらいが精神的に穏やかでいられる。しかし…大して楽しめないのも事実。

転職してからは、それも少し変わっている。同じく高い志を持つ数人で、じっくり建設的な会話をしながら呑んでみたいとずっと思っていた。

看護師の彼女から聴いた参加メンバーは、新卒の保育士さん、これから新しく管理者となる男性保育士さん、そして私。

まさに、私が呑んでみたかったメンバーだった。

彼らには確かな熱量と冷静に現場を見つめる力があった。
会議中の彼らの発言や、現場での子供への接し方には見習う事も多かったのだ。

急だったが、無事に夫との調整がついた。
そして、LINEでその旨を参加メンバーに報告し、時間と場所を決めた。

19時。
カウンターに腰掛ける。
飲み物を頼む前から話が止まらない。今後の事業所のあり方や人間関係など…
夢中で話していると、店員さんから…「あの…飲みの物とか食べ物…どうします?あんまり盛り上がってるから声かけ難くくて。」と、苦笑された。

「あはは!そういえばそうだったね!」と参加メンバー全員で大笑いした。

店員さんも親切に配慮してくれる素敵な方だった。

中ジョッキが運ばれてくる。

乾杯!

ビールの泡のように
泡沫の…
あっという間の…
子どもと帰宅を約束した時間になってしまった…

心地よい。ほろ酔いは夢の中に誘う…。

「神様…もう少しだけ…」
ああ。シンデレラもこんな気持ちだっただろうか…

と心から思えた呑み会だった。こんな心地よい気分で飲んだのは何年振りだろうか…。

翌日はひどい頭痛で起きた。
二日酔いってヤツだ。

あれ?そんなに呑んだか…?
弱くなったものだ。

体は衰えていくくらいがちょうど良いかも…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?