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囲炉裏考

富士山が映えすぎるコンビニ。
ほんの2、3日前にもニュースになった。
コンビニの屋根にぽっかりと富士山が乗っかる写真を撮りたい人が、そのコンビニ前に殺到して車道にあふれる。
危険だし車両通行を妨げる。
住人の方たちは困惑。
対策として、その道路に黒い幕が張られた。
撮影スポットからの風景を見えなくして写真を撮影できないようにした。

思いつきのバス旅行で富士河口湖町に行ったことがある。
富士山を見て、かぼちゃぼうとうを食べ、河口湖畔を散策し、シャインマスカットを食べに行ってフルーツを爆買いするバスツアーだった。
ランチの料理屋に向かう途中でそのコンビニ近くを通ったのだ。
まだ黒い幕は張られてなかったし、絶好のお天気ではなかった。
が、突然現れたインバウンド客の多さに、車窓からではあるがとても驚いた。

昼食はほうとうと炉端焼きということで、ツアー客は8人ずつのグループに分けられた。
初対面のメンバーで囲炉裏を囲む。

炉端焼きの食材は、ひとつのお皿に一種類ずつ8人分が盛られて、どんどん私達の横に置かれた。
私と友人はお皿を持って、みんなにいろんな食材の串を配った。
その間に親子でツアーに参加の小学生ママがお茶を8人分いれてくれた。

私たちより年上のおしゃれご夫婦は板の間に座るのが辛いのか小さな椅子を借りていらした。
美人奥さんが
「お任せしてごめんなさいね。」
とおっしゃった。
ご主人がこっそりビールを頼んだのが気に入らないらしく、派手にお小言を言って私たちを笑わせた。
私たちの囲炉裏は和やかだった。

もうひと組の男女は食材を前にして、
これは遠火、これは近火でさっと炙るなど、焼く順番や焼き具合を男性が指図して女性に焼かせている。
焼きにこだわりの男だ。
自分で焼け。

私はしっかり焼きたいのは鴨肉とエビくらいで、ほかに何のこだわりもないので、すべての串を炉にくべて焼きに焼いた。
炭火で焼くので顔が熱い。
美人奥さんが、
「まあ、みんな顔が真っ赤よ。」
と言ったので、こだわりの男を除くみんなは顔を見合わせて笑った。

ほうとうの鍋が私たちの横にドン、と置かれたが、美人奥さんがお店の人に、お鍋こちらに持ってきてくださらない?と頼んで、8人分をよそってくれた。
ご主人がそれをみんなに回した。

油断して友人と喋っていた私の焼きおにぎりは、片面見事に焦げた。
こだわりの男に倣って火加減にこだわるべきだった。

食後、バスに戻る前に友人が言った。
「美人奥さんとご主人、夫婦じゃないね。」
私はてっきり夫婦だと思っていた。
夫婦じゃないと思う理由を友人が語るが、私にはわからない。
どっちでもいいけど。
私の目なんて節穴だわ。
目の前のおにぎり焦がしたしね。
友人は続けて語る。

「それにしてもさ、
 あのパパ動かなかったよね。
 焼きにうるさくなかった?
 そのわりに娘に全部やらせてさ。
 会話にも入ってこなかったね。」

え?

「でもさ、おにぎりが焦げて、まっくろやーんって爆笑してた時、めっちゃ私らの方を見てたんだよ。」

うん、それは知ってる。
こだわりの男に見られていたのには気付いていた。

友情とは友が情けないと書く。
友よ、なぜあのふたりが親子に見えるのか。
あれは父娘じゃない。
どう見てもカップルやろ。
でも同じポイントを見ていたので友情は固い。

次の目的地でこだわりの男と娘じゃない女性が手を繋いでいて、私はほら、と友人をつついた。
河口湖畔ではあいにくの天候だったが、美人奥さんが教えてくれた美味しい和菓子屋で、おみやげを買った。
それぞれに和菓子を買う美人奥さんとご主人がいた。
でも私には夫婦にしか見えない。

目が節穴の私と友人は、
富士山をまったく拝めなかった。
私ら何しに河口湖?
カップル考察?

先日のニュースで、富士山コンビニの前の黒い幕が人為的に破られたと報道されていた。
対策としてより強度のある幕に張り替えるらしい。
幕が壁になる前にオーバーツーリズムが落ち着くのを願う。
懲りない私たちは、また行きたいねと、バスツアーのサイトを眺めている。
囲炉裏はあってもなくてもどっちでもいい。







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