見出し画像

私物ハンター

夏季休暇で実家に帰ってきた。
ひと月に一度は遠距離帰省していて、もはや二拠点生活みたいなもの。
実家には、実家用の衣類や化粧品を置いているので、バッグ一つの身軽な帰省客だ。

ごった返す東京駅ホームで新幹線コーヒーを買う。
それにしても暑い。
グランスタやホームの混み具合のわりに、車内は満席というほどではなかった。ひかりはいいな。

到着駅の改札には、家族のお迎えに来ているじいじやばあばと見受けられるかたがたくさんいて、それは懐かしい夏休みの風景だった。
父も母もこんな顔で、小さかった息子らと私を待っていたんだなと思う。

実家に着いて、父と母の顔を見てから2階の部屋に上がる。
2階は灼熱地獄。

私の部屋として好きに使っているが、母の洋服もたくさん収納してあるその部屋で、母がクローゼットや衣装ケースの整理をした様子が伺える。
空っぽの衣装ケースがひとつ、ぽつんと置いてあった。
断捨離したのかな?
母は買うだけ買って着用しない服が多すぎる。

クーラーをつけて、クローゼットを開けた。
ハンガーにかかった母の服がずらりと並んでいる。
そのシーズンの気分によって、母は服を1軍と2軍に分ける。
何年も2軍の服は2階の部屋のクローゼット待機で、1階の母の部屋でレギュラーになれない。
認知障害のある母だが、洋服の管理はとても丁寧だ。
それは昔からの習慣で感心する。
クローゼットの端っこには私の秋冬実家服も少し。
月イチ実家帰省を始めて1年半が過ぎ、私の実家服はオールシーズン揃った。


暑いから早いとこ着替えよう。
私は自分の衣類を収納している引き出しを開けた。

あららー。
すっからかんの空っぽ。
ないないない。
先月着ていた夏の服にパジャマ、とにかく着替えの服がない。

母が服を移動させたとしか考えられない。
私の服だけどこに持っていってしまったのだろう?
母に聞いてもわからない。
記憶が定着していなくて、すっかり忘れているからだ。
しかし、
「お母さん、私の服、お母さんのところに混ざってない?」
と聞けば、快く1階の母の部屋のタンスを探してくれる。

「アンタのパジャマ、見たような気がするわ。」

しばらく探したら、母のタンスから私のパジャマが見つかった。
ついでに私のインナーとソックスとミニタオルも。
これ私のやねんと言ったら母が笑う。
「なーんでも自分のものと思って突っ込んでるわ。」


あと見つけるべきは黒のシャツとリネンのパンツ。
白Tとスカート。
どこにあるんだろう?
母の部屋のタンスにもクローゼットにもなかった。

2階に戻ってもう一度探す。
私の着替えは一体どこ?

2階の和室の押し入れを開けたら、なぜか寝具と一緒に、私の服がきちんと畳んで置いてあった。

実は先月も同じようなことがあり、私は自分の服を探しまわったのだった。
裸族になるとこだった。
そのときは母の部屋の棚にあった。

母は「なーんでも自分のもの」と言ったが、私だって「なーんでも自分のもの」と言わんばかりに母の2軍服を勝手に拝借して着ることがある。
デパートのみで買い物してきた人の服なのでモノは良い。
私の拝借には絶対気づく母。

「それ、私のやん。
 まあええわ、あげるわ。」

と母は太っ腹だ。
あげるわ、と言われても実家服にするだけなので、もらった服は実家に置きっぱなしだ。
母はまた片付けて、あちこち移動させると推測している。

9月に帰省したら、私の実家服はどこに片付けられているだろう?
次こそ狙いを定めて一発でハントしたい。










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?