見出し画像

友情のクオリティ

一緒に子育てしてきた友人がいる。
子どもを通じて知り合ったが、ママ友のカテゴリーでは語り尽くせない縁を感じて26年のお付き合いだ。
子どもらはみんな大人になった。

私たちはふたりで一泊旅行をした。
大宮駅から特急スペーシアに乗り、
鬼怒川温泉に行った。

私たちは出発直後から調子に乗ってよく食べた。
まずは鬼怒川温泉駅すぐの町中華で餃子とビール。
知らない町の昼ビールの喜びよ。

バッグを宿に置いて、吊り橋に行こうかと歩いている途中でカフェがあった。
コーヒー飲みたいねとカフェに入った。
コーヒーだけってわけがない。
クロッフルを注文した。
フルーツと生クリームとアイスがたっぷり盛りつけてある。
一皿をふたりで分けてもいいくらいだ。
鬼怒川温泉クオリティすごいねと言いつつひとり一皿完食。
お腹いっぱい。
餃子の前に電車の中でお団子も食べたな。
そのカフェでずーっと喋っていたら日が暮れてきたので宿に帰る。

温泉に入って、夕食。
ビールで乾杯していたら、女将さんが現れた。
「埼玉からでいらっしゃいますね。
どのようなご旅行ですか?」
と聞かれた。
家族抜きの子育て終了記念旅行ですねと答えた。
女将も子育てしてきたそうだ。
「手はかからなくなりますが、まだまだ見守ってあげてくださいね。」
とありがたきアドバイス。
そうだと思う。
子が大人になっても実は子育てに終わりなし。

夕食は器も盛り付けも美しく、次から次へと美味しい料理が続く。
ビールも進む。

もうお腹いっぱい。
浴衣の帯を緩めてもダメだ。
友人が
「立ってピョンと跳んでみて。お腹にスキマができてもっと食べれるから。」
と言う。
跳んでみたけど体が浮いたとは思えない。
スキマもできない。
それほどに重い。

最後の釜飯は残念ながら残した。
ビールは乾杯だけの友人が、ピョンと跳ぶことなく私の釜飯を食べてくれた。


部屋に戻って布団に寝転がった。
年々分厚くなるこのボディだが、仰向けに寝たらお腹はへっこんで平らになるはずだった。
ところがそのときばかりは。

「ねえ大変、見て!」

彼女はその場で崩れ落ちた。
妊婦かと思ったそうだ。
笑いすぎる友人を見て私も可笑しかったが、苦しくて声も出ない。
私のお腹だけが揺れている。

私たちは妊婦の時に知り合った。
私たちは切迫早産で入院していた。
私たちは一日違いで長男を出産した。

偶然4か月健診で再会し、
偶然家が近所だとわかった。
偶然夫の転勤で埼玉に住んでいた。

ふたりとも実家は遠くてワンオペ育児だった。
だいぶ若見せだ。
当時ワンオペなんて言葉はなかった。

偶然下の子も同じ学年で同じ月に生まれた。
悩みも多かった私の子育ては彼女なしには語れない。

あれほどの出っ腹を抱えていたのに、
翌朝の朝食はたっぷり美味しくいただいた。
女将に見送られ吊り橋にも行った。
またもいい感じのカフェがあり、
鬼怒川温泉クオリティに感動しながらランチも完食。
これが中年女の底力の源なのか。

一緒に食事して、私がお腹いっぱいと言うたびに、彼女は私の妊婦のようなお腹を思い出して笑うのだ。
いつまでも覚えていてほしい。
悲しいことや嫌なことがあったときは、
あの日の私の出っ腹を思い出し、
一瞬でも笑ってほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?