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【読書感想文】『椰子・椰子』

摩訶不思議で、どこかエモい


【基本情報】

  • 作者:川上弘美

  • 出版年:平成13年5月1日発行

  • 出版社:新潮文庫(株式会社新潮社)

  • ページ数:132ページ

【あらすじ】

主婦の「私」の視点で綴られる四季折々の
そしてちょっと摩訶不思議な日常。

もぐらと写真を撮ったり
中くらいの災難に見舞われたり
町内の縄文人街を訪れたり
裏妻と喧嘩したりなど

一癖もある動物や人間との出来事が描かれる。

【感想】

川上弘美先生の作品は
どこか幻想的でエモさを感じさせます。

実を言うと、川上弘美先生の作品自体
読んだ作品は少ないです。

これまでに読んだのが
デビュー作の『神様』
代表作『センセイの鞄』
短編集だと本作と『おめでとう』くらい。

本作にはもぐらや野鳥といった動物達が
沢山出てきますが(どれもクセが強いです)

デビュー作の『神様』にも熊が出てくるので
動物に何かこだわりがあるのかなぁ
思いました。

世界観自体は
摩訶不思議で、かつエモい。
そして自由で何でもあり。

現実にはあり得ないファンタジーな出来事が
日常茶飯事で起こります。
まるでシュルレアリスムな世界。

キャラクターも様々で

  • 野鳥兄弟のジャン&ルイ

  • 気分屋な友人・山本アユミミ

  • 会社のコピー機裏に住み着く4歳の女の子

  • 町内会副会長をつとめる殿様

  • ことわざを必ず入れて話すワタナベシンイチ氏

など一癖も二癖もある登場人物が出てきます。

今の生活に疲れていて、肩を抜いて
非日常の世界に浸りたい方にオススメ。

物語自体も短いので
本が苦手な方でもサクッと読めますし
ちょっとした非日常を味わえます。

【印象に残ったキャラクター】

私(わたし)

本作の主人公。
物語は「私」目線で
「私」が遭遇した出来事が描かれます。

夫と子供達がいる主婦ですが
一方で恋人(!)もいます(しかも複数)。

作中の描写によると冬眠ができる体質らしく
『いいなぁ』とちょっと羨ましく思いました。

ジャン&ルイ

「私」の住まいのベランダに住み着いた
野鳥の兄弟。名前はフランス名なのが謎(笑)。

住み着いた当初は丁寧な口調だったのに
だんだん「~でっせ」と砕けた口調に
変化していくところが面白い。

ルイ君は外見に似合わず、結構慎重派な性格。

彼らには他に
「野鳥荘」というアパートを経営している
いとこがいます。

山本アユミミ

「私」の友人。名前が可愛い。

眠くなって駅のホームで堂々と居眠りするし
気まぐれで仕事をサボって旅に出るし
友人の「私」にあれこれ注目をつけるしなど

かなり神経が図太くて、本能に忠実(笑)。

本人曰く三年前から
身長が三センチ、体重が一キロと
縮んでいるらしい?とのこと。

ぺたぺたさん

べとべとさんならぬ「ぺたぺたさん」。

「私」がコンビニで遭遇した男の人で
いつも裸足でぺたぺたぺたぺたと
音を立てながら歩く人懐こい性格。

「私」はぺたぺたさんに一目惚れして
しばらく一緒に暮らす内に結婚まで考えますが

ぺたぺたさんは最後
別の女性についていってしまったので
「私」の恋は儚く終わります…

【印象に残ったシーン】

『椰子・椰子』は
印象的なシーンやキャラクター、場所が
いくつも出てきます。

今回は、私的に特に印象に残ったものを
挙げていきます。

ビートルズ仕様ロイヤル公衆便所

新しくできたビートルズ仕様ロイヤル公衆便所というのに入ってみる。
構造は普通の公衆便所であるが、個室のひとつひとつが通常の三倍ほどもあり、つくりかけの棚には、あんパンをはじめとする菓子類が置いてある。

『椰子・椰子』p49~p50

ビートルズ仕様ロイヤル公衆便所…
どんなトイレなのか凄く気になります。

作中では
ポール・マッカートニー仕様の個室と
リンゴ・スター仕様の個室が出てきます。

ポール仕様の個室は
紺を基調とするこぢんまりとしたシックな部屋

リンゴ仕様の個室は
金の幾何学模様が赤地に乱舞する華やかな部屋だそう。

ジョン・レノン仕様や
ジョージ・ハリソン仕様は
どんな部屋なのでしょうね。

裏祭&裏妻

裏祭に行く。
裏のほうで開かれる祭である。参加者はみな、裏用の様子をしている。裏行李をかかえているひともいるし、裏妻を連れているひともいた。
よくできた裏妻で、態度も裏づくしであるうえに、顔まできちんと裏がえっている。

『椰子・椰子』P82

裏祭…って、一体どんなお祭り?

裏妻は触ってみると

痺れるような感触がある。痺れがおさまると、どんどん裏的な気分になっていった。
たいした裏妻である。

『椰子・椰子』P82

蜘蛛の子を散らすっ

歩いていると、どこからか、
「蜘蛛の子を散らすっ」という声がする。
怒鳴りつけるような声である。あわてて、
「承知っ」と答えると、もう一度、
「蜘蛛の子を散らすっ」と声は繰り返して、静まった。
家に帰ると、玄関のあたりに霧がいっぱいにたちこめていて、かばんから鍵を取り出すとますます濃くなった。
扉が見えないほど濃くなってしまったので、途方に暮れていると、ふたたび、
「蜘蛛の子を散らすっ」という例の声がして、霧はあっという間に晴れた。

『椰子・椰子』P103

「蜘蛛の子を散らすっ」という言葉が
クセになります。

一体何者だったのでしょうね。

ぺたぺたさんとの別れ

月の明るい夜だった。わたしは店のゴミ箱の横にうずくまった。ゴミ箱は硬くてひんやりしていて、夏の夜のすいか畑みたいな匂いがした。ぺたぺたさんを思って、わたしは少し泣いた。
泣きやんでから、はだしのまま、夜道へ踏み出した。アスファルトは昼間の熱をまだ残している。一人で、ぺたぺたと、部屋まで歩いて帰った。

『椰子・椰子』P73

夜のコンビニで「ぺたぺたさん」
出会った「私」。

ぺたぺたさんに一目惚れした「私」は
しばらく彼と一緒に暮らし
結婚まで考えるようになりますが

ぺたぺたさんは最後

「ものすごくきゃしゃなミュールをはいてて、
必ず鮭のり弁当とトマトジュースを買う女の子」

ついていってしまい

「私」との関係はあっさり終わります。

月が照らす夏の夜
ぺたぺたさんとの思い出を回想しながら

ぺたぺたと家まで裸足で帰る
「私」の恋の終わりが切ないです。

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