無能な働き者がプロジェクトを失敗させるまで

1つのプロジェクトが失敗する一部始終を見たので書きます。

Aさんは40代男性の係長で2~3人の係員をまとめる役目を担っています。係全体でプロジェクトを任され、それを細かくタスク化しそれを班員に割り振って仕事を進めます。
Aさんは昨年から担当していたプロジェクトを失敗させてしまい、多額の損失を出しました。それまで良好な関係にあったお得意のお客様に決して小さくない経済的な損失を発生させてしまったことで「二度と彼に担当させないでほしい」と指名のクレームを受け、Aさんは責任人事異動となりました。
そのこともあって、Aさんは異動先で新たに任されたプロジェクトにあらゆることに非常に注意を払っていきました。

本人は一生懸命やっているつもりなのですが、明らかにAさんの能力は十分でありませんでした。本人の知識ではカバーできないような問題についても、生半可な知識で意見や確認の指示を係員と専門業者に出すようになり、しばしそれらは見当違いなものもありました。最初は真摯にひとつひとつ対応していた専門業者の方も段々と態度を硬化させるようになりました。

すべての証明書の書類の根拠を提出する指示を出されたことがありました。証明書の根拠となるバックデータの提出はよくあることなので業者はそのあたりを熟知していて、証明書と同時に提出したところ、Aさんはこのバックデータの根拠を提出するように求めました。つまり、証明書の根拠の根拠を示すように指示しました。
専門業者もさすがにその資料はないこと、あったとしても今度はそれを証明する根拠は絶対に無いことを述べ、その資料の必要性を確認しましたが、Aさんは頑として聞かず、最終的に専門業者は証明書の1からの作り直しを命じられました。

1年を過ぎる頃には係員と専門業者のAさんへの関係はかなり悪くなり、業者の方も細かいことを言われないためにAさんではなく係員へ連絡をするようになりました。当然、Aさんは自分に何故直接連絡が来なくなったのか分からず苛立ち、全員を集めて係員と専門業者を問い詰めました。
係員にとってAさんは直属の上司なのではっきりと意見を述べることができませんでした。専門業者も顧客に対して失礼なことをいうことができず遠慮した形となり、結果として双方はただ叱責を受けて終了しました。最早、そのプロジェクトでは専門業者も係員も触らぬ神にたたりなしという感じで、ただ言われたことを右から左へやるようになりました。

プロジェクトの進行は芳しくなく、期日と納期を考慮すると既にギリギリでしたが、依然確認作業をやめようとしませんでした。それどころか、仕様書や契約書までを取り寄せて確認し、打ち合わせを頻繁に行うようになりました。この時期になると専門業者も係員ももう何も言うこと無く、Aさんが確認するのをただ手伝い、見ているだけになりました。係には諦めにも似た空気が流れていました。
結果としてはなにもかも間に合わず期日までに納品できず、この2回目のプロジェクトも失敗と判断されました。専門業者は取引の停止を申し入れてきました。また顧客は原因の説明と経済的な損失の補填を求めてきています。上層部は今回の結果を鑑みて、係内の連携がとれていないと判断し、再度係間の異動を検討しています。

よくこういった問題を取り上げる記事では「コミュニケーションを・・・」「人としてのつきあいを・・・」というまとめで終わっているものが多いのですが、全く参考にならないなと感じています。
あの手が有効なのは人の話を聞くことができさらにそれを自分の行動に反映することができる、多くの場合行動力と経験のある優秀な人材だけであって、多くの人には当てはまらない可能性が高いと思います。また簡単には解決できないような問題が本件にはあるように感じます。

たとえば、年功序列の評価制度で能力のないものに役職を任せるとどうなるか、役割分担の明確化がないとどうなるかを今回の失敗は如実に示していると思いました。

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