金沢戦の備忘録-2周目-

前回対戦

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スタメン

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岡山の右サイド攻撃の意図を考える

 前節の鹿児島戦からスタメンを3人変更してきた岡山。仲間→三村喜山→武田はそれぞれコンディションの問題らしく、増田→後藤はどうやら戦術的な意図らしかった(⇒戦術的意図に関しては後で推察)。3人ともスタメンで出るのは久しぶり(⇒後藤に至っては公式戦の出場そのものが約1年ぶり)なので、早い時間帯でゲームの流れに乗らせたいところである。
 そういうわけで、岡山にとってはチームの総合力が問われる正念場。金沢にとっても引き分け以下ならわずかに残っている6位以内の可能性が完全消滅してしまう正念場。両者にとっての正念場となった第40節。もっともこの時期のゲームに正念場じゃないゲームの方が少ないのだけど。

    前半の立ち上がりは岡山が右サイドから攻めようとする形を見せることが多かった。ロングボールから前線のヨンジェが右サイド奥に流れて攻撃の深さを作り、一度起点となったところから右SH(関戸)や右SB(増谷)が上がってきてそこから人数をかけて崩していこうとする。立ち上がりの右サイドからの攻撃で良く見られたのが、大外でボールを受ける選手を作り、その選手の内側からさらに選手が走り込もうとする形。岡山は、走り込んできた選手を使っての中央への折り返しを狙おうとしていた。

    岡山がこういうことをやろうとしたのは、金沢の特徴的な非保持の振る舞いから。自陣での金沢の非保持時は純粋なマンマークになるので、相手にサイドで高い位置を取られるとSHも最終ラインと同じ高さに取り込まれ、442をベースとした形がいつの間にか6バック(≒622気味)になってしまう傾向がある。そうなると、バイタル中央のスペースをCH2枚(藤村・大橋)で見ないといけなくなるので、岡山は(きちんとしたポジションを取れれば)セカンドボールの回収もしやすくなり、押し込む形を作れるようになる。そうなれば、ヨンジェと赤嶺がゴール前で勝負できる形も多く増やせるようになるだろうというのが有馬監督の算段だったのではないだろうか。

    右サイドからの攻撃で赤嶺、ヨンジェとシュートチャンスを得ることができていた立ち上がり10分の岡山。上々の立ち上がりのように思われたが、先にスコアを動かしたのは金沢。9:20、一森のリスタートのセカンドボールを回収すると、山根が岡山CHの背後を取ってドリブルで前進、廣木を中央に引き付けて、右サイドでフリーになった金子のクロスに垣田が合わせて先制(下動画0:27から)。

     トランジションからの山根のドリブルを止められずに失点してしまった形となった岡山だが、ゾーン2(≒ミドルゾーン)でのボール非保持には、特に金沢ボールになった時のトランジションで開始から危うさがあった。CHの上田と武田がどちらも高いポジションを取ってしまってカバーリングの形ができていない現象が見られており、金沢はそのCHの背後のスペースを山根であったり中に絞ったSH(加藤・金子)であったりが狙おうとしていた。金沢のスカウティングというよりは、喜山→武田による岡山の中盤守備の不安要素と、4222気味に中央に人数をかけやすい金沢の攻撃の特徴が噛み合ったことで生まれた形であったと言える。

代役とボール保持のトラブルと

 10分辺りから、岡山はバックラインからのボール保持を増やしての前進を図ろうとする回数が増える。スコアが動いたことによるものなのか、10分経過したからなのかは良く分からない。岡山が最終ラインでボール保持している時の金沢のボール非保持は、まずは442でセット。前から人数を噛み合わせてプレスに行くというよりは、第一ライン2枚(垣田・山根)は自分たちの背後にボールを通されないように、CH2枚(藤村・大橋)と連係して中央を塞いでサイドにボールを誘導岡山がサイドに展開すれば、それぞれマンマークで付いていた選手たちが食い付いて前を向かせないようにしていた。

    CB(後藤・ジョンウォン)からボールを運べない岡山は、CH1枚が最終ラインに下りて、最終ライン3枚+CH1枚の形で金沢の第一ライン脇のスペースからボールを前進させようとする。前述のように金沢は前から人数を合わせてきていないので、岡山としては3対2の数的優位を使って金沢第一ラインを突破⇒カバーに向かう第二ライン(主に藤村・大橋のところ)を動かしてマンマークで守る金沢のズレを産み出して、武田が中央でシュートまで持っていった20:10のシーンのような形のようにバイタル中央のスペースを使いたいところであった。

    しかしこの形でボールを前進できたシーンはほとんど見られなかった。岡山のボール保持は左右両サイドに異なるトラブルを抱えていたためである。      まず左サイドでは、CBのジョンウォンが何度か金沢の第一ライン脇のスペースから縦パスを付けようとする形は見られた。ポジションの関係上、この縦パスを受けるのは左SHの三村であることが多く、マンマークに来る右SB(小島)を引き付けてできたスペースから前進させたいところだったが、縦パスが入った後の三村の動きが効果的でなく、大外で廣木とポジションが重なったり、背後を取る動きが少なかったりしていた
    次に右サイドでは、CBの後藤から運ぶ形自体が少なく、本来もう少し高いポジションを取りたい増谷と関戸が下がってボールを受けようとするので、結果としてマンマークに来る金沢の人数を増やして密集で突破できない状態になってしまっていた。

     金沢のマンマーク戦術に手詰まりになった岡山の最終手段はヨンジェや赤嶺目掛けての放り込みやハイクロスとなるのだが、準備万端の金沢CB(山本・石尾)は余裕を持って対応していた。ヨンジェが山本を剥がして強引に行くシーンも無いわけではなかったが、単発の形ではなかなかチャンスまで持って行くことは難しい。岡山は時間の経過とともに、無理に前線に入れた後のセカンドボールを金沢に拾われる回数が増えるようになっていった。

 30分を過ぎると金沢がセカンドボールを回収してからの保持からそのまま敵陣に運ぶ回数が増えるようになる。敵陣でボール保持している時の金沢は、SH(加藤・金子)を中にポジショニングさせた4222の布陣から、SB(沼田・小島)を起点に中央にパスを入れてからの落としをダイレクトで岡山最終ラインの背後に送るようなボールだったり、垣田のサイドに流れる動きを利用しての加藤や金子の抜け出しだったりを見せていた。

 自陣でセットしている時の岡山は、CH2枚(上田・武田)とCB2枚(後藤・ジョンウォン)の役割がそれぞれ不明確であることが多かった。後藤の起用で最終ラインを高く設定し、より高い位置でセカンドボールを回収したい有馬監督の意図とは裏腹に、CHのところは前述のようにボールへのアタック&カバーリングできるポジションを取れていないことが多く、CBのところは連携不足からかどちらも飛び込んだり、逆に下がってしまったりしていることが多かった。そんな岡山のCH-CB間にできたスペースを利用していたのが山根。金沢の他の選手は狭いスペースで受けるとワンタッチで叩いて動き出す形が多かった中、山根は狭いスペースで受けても自らドリブルで運ぶことで金沢の攻撃のアクセントになっていた。
 前半ATには金沢が自陣トランジションからの山根のドリブル⇒垣田が背後を取って決定機もこれは一森がセーブ。0-1で前半を折り返す。

飛んで火に入る秋の岡山

 後半に入ってもゲームは前半と変わらず、「ボール保持⇒前進を狙う岡山」と「マンマークで各個撃退からのトランジションを狙う金沢」という構図。後半立ち上がりの岡山は、CHが2枚とも高いポジションを取り、SB(廣木・増谷)が1枚最終ラインに残る形の325のような形でボール保持を行っていた。前半よりも明確に横幅を取らせることで金沢を下げさせて、再びセカンドボールを回収できるようにしようとする意図があったと推測。また赤嶺が下りてくる回数を増やして上田や武田からのボールを引き出そうとしていた赤嶺が下りてのポストプレーと、前線のポジショニングを整理したことで前半より高い位置までは運べるようになった岡山だが、サイドに出した先でマンマークを剥がせずに詰まってしまう展開はあまり変わらず。特に左大外で受ける三村や廣木は金沢のマンマークにかなり苦戦していた。

    後半になっての金沢は、第一ラインを前半よりも下げて守っていた。これはリードを守りきるためというよりは、前半以上に岡山のCH(上田・武田)へのチェックを強める狙いと、岡山を金沢陣内に引き込んでのトランジション⇒カウンターで追加点を取りに行く狙いで実行されたものだと思われる。岡山がマンマークを剥がせていないからこそできる狙いである。藤村・大橋はより岡山のCHに当たりに行くようになっていて、垣田・山根の2枚もプレスバックを最優先。岡山のCB(後藤・ジョンウォン)は放置してもOKという感じであった。

    実際に後半になっても具体的なチャンスに結び付けられていたのは金沢の方であった。岡山はCHが上がることで中盤のフィルターがさらに薄くなり、金沢はゾーン2で引っ掛けてのトランジション⇒カウンターで岡山のゴール前に迫る形を作れていた。このままではまずい岡山は61分に三村→山本。この交代でボール保持時は山本・赤嶺・ヨンジェの前線3枚、関戸がインサイドに入る433気味のシステムに変更する。なお非保持時は、山本が左SHに入る442となっていた。

    岡山の選手交代、システム変更がいきなり奏功した。。。ということはなく、ゲームの流れは依然として金沢であった。むしろ岡山の守備が前から行きたいのか、一度ラインを下げるのかがハッキリしない局面が目立つようになり、金沢がボール保持から前進する形が増えるようになる。63:55には沼田を起点に、加藤の斜めの動きを利用した山根がライン間で受ける形からドリブル、垣田が背後を取って一森と1対1の場面を作るもこれは一森がファインセーブ。岡山は68分に後藤→椋原。なんとそのまま椋原がCBに入る形となった。金沢も69分に山根→杉浦と最初のカードを切る。

最後にモノを言ったは開き直り

    椋原を投入した70分辺りから、岡山は前線のヨンジェや山本を金沢の最終ラインの背後に走らせるロングボールを増やすようになる。椋原がボールを持っての2,3回目のプレーでヨンジェを右サイド奥に走らせていたように、中盤からサイドに展開して、という70分までの形ではなく、どんどん前に送り込めという開き直り。主にボール保持をしていた岡山の優先順位の変化から、ゲームは徐々にオープンな状態になっていく。

    先にオープンな状態の恩恵を受けかけたのは金沢。75:25、自陣からのクリア気味のボールに垣田が右サイドから抜け出して折り返し、杉浦、加藤と詰めに入るが一森のセーブで難を逃れた岡山。追加点を取れそうで取れない金沢は77分に金子→大石。ドリブラーを増やして止めを刺しに行く。

    しかし次にスコアを動かしたのは岡山。80:05、左サイド奥を狙ったジョンウォンのロングボールを山本のマーカーであった小島がクリアミス、逃さずに抜け出した山本が小島を剥がして折り返し、中央で一瞬フリーになった赤嶺が詰めて1-1。開き直っての放り込みでできたワンチャンスを逃さずに決めた赤嶺の勝負強さと、マンマーク相手にチャンスを作るにはマーカーを剥がすのが一番大事だという当たり前のことをしっかりやった山本のドリブルは見事だった(下動画2:10から)。

    スコアをタイにした岡山は、84分に関戸→喜山。本来は使いたくなかっただろうが、追加点を取りに行くには仕方ない。実際にこの交代後、岡山はゾーン2より前のエリアでセカンドボールを回収できるようになった。マンマークを続けてきた金沢の疲労もあって、ようやくサイドを押し下げる形からバイタル中央のスペースを使える形が増えてきた岡山であったが、もう一点奪うにはいかんせん時間が遅かったか。上田の直接FKや中央で受けてからの右足シュートなど見せ場はあったものの、白井のセーブもあってこれ以上スコアは動かず、1-1で終了。まさに両者痛み分けと言って良い結果となってしまった。

雑感

・ゲーム内容としては80分まではほとんど金沢のゲーム。対象の相手を1対1で責任を持って対応するマンマーク守備は球際の強さもあって岡山を苦しめ、シンプルながらもサイドに流れるFWと中央に絞ったSHの連動がしっかり構成された4222によるトランジション攻撃は、この日の岡山と比較してもはるかに多くの具体的なチャンスに結びつけていた。

・しかし結果は1-1。そして実際のシュート数はなんと岡山よりも少ない(Football LABより、岡山11本-金沢9本)。シュートは打てば良いものでもないが、このゲームならばもう少し本数は増やしたいというのが本音だろう。金沢としては小島のミスからの失点よりも追加点を取れなかった方がフォーカスされることになりそうである。

・仲間と喜山をコンディション不良でスタメンから外すことになった岡山。ラスト1/3の崩しの部分を大きく担っていた仲間、中盤でのフィルター役、そしてシンプルな捌き役として機能していた喜山の2人がピッチにいないことで苦戦は予想されていたが、(彼らのいたように)やろうとする形を実行しようとしていたのもあって、思った以上に彼らのいなかった穴は大きかったことを実感するゲームとなってしまった。チームとしてやるべき形がしっかりしているのは良いことなのだけれど。

・特に喜山がスタメンで使えなかったのは痛く、喜山と比べると中央からポジションを動きすぎてしまう武田と上田のバランスがボール保持・非保持に関わらず終始改善されず、結果として上田の負担が増えてしまったのがゲームの流れを金沢に渡してしまった大きな要因だったように思う。武田が久しぶりのスタメンで入れ込んでいた部分はあるかもしれない。何とか前と絡んでチャンスを作ろうとする姿勢は伺えただけに。

・そんな中でも最後方からゲームの流れを変えるんだ!と言わんばかりのキャプテンマークを巻いた一森のパフォーマンスは鬼気迫るモノがあった。間違いなく最低限の結果を持ち帰ることができたMOMである。


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