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若者よ圧力に対抗せよ~J2第8節 ファジアーノ岡山VS京都サンガ~

スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

ファインゴールと持たせる守備

 京都が石櫃のセットプレーで岡山ゴールを脅かす形からスタートした前半、前節からメンバーを大きく変えてきた京都がボールを保持する時間が長くなった。最前線にいる野田へのロングボールは控えめに、バイスを中心にした3バックとアンカーの庄司を起点に地上戦でボールを運んでいこうとする京都に対して、岡山は立ち上がりからイヨンジェと山本の2枚だけでなくSH(上門・関戸)もポジションを上げてプレスを行う姿勢を見せる。

 岡山の敵陣での守備の狙いは、ボールを持ちたいチームに対して行ういつもの「前からポジションを噛み合わせる」形。アンカーの庄司が3バックからボールを引き取りにポジションを下げれば上田がマークに向かうし、京都のWBが低いポジショニングを取れば、それに対してSB(椋原・野口)が付いていくことでコースを限定させる。特に岡山が先制する時間帯までは、京都はなかなかビルドアップの出口を見つけることができておらず、比較的高い位置からの守備が(特に岡山の右サイドで)上手くできていたように見えた。

 一方で岡山がボールを持ったとき、京都は2トップ+中盤3枚の計5枚でCB+ポープから上田に通るパスコースを限定することを優先。横幅を取るSBへのパスに対しても、WBができるだけ高い位置で捕まえようとしていた。そのため岡山は、繋いでいくというよりもイヨンジェと山本を相手のサイドCB(安藤・麻田)にぶつける形で起点を作ろうとしていた。
また京都の中盤3枚と最終ラインは比較的ライン間でスペースが生まれやすく、それを見てSHの上門と関戸は中盤3枚の背後を含む周囲にポジショニングすることが多かった。SHが中寄りのポジションを取るので、前線が起点になった後のセカンドボールを拾いやすくなる効果も狙ってのことだろう。

 岡山は14分に上田のロブから山本が頭でフリック、ライン間から抜け出した上門の惜しいシュートという狙いとする一つの形でチャンスを作ると、19分にはポープの京都の第一ラインと中盤を越える縦パスから得点が生まれる。縦パスを中央で受けた上門がターンしてそのまま持ち運ぶと、中野のプレスバックがそのままイヨンジェへのスルーパスに繋がり、落ち着いて若原の股を通すシュートで先制に成功。
前述した京都の中盤3枚と最終ラインの間でスペースが生まれやすい相手の非保持時の問題を、ポープが起点となる形から見事に生かしたファインゴールだった。

 失点後(飲水タイムを挟んでから)の京都は、自陣でのボール保持段階からWBを両サイドとも高く上げるポジショニングをするようになる。右サイドの石櫃はオーバーラップからのクロスを上がる形を狙い、左サイドの荒木はカットインからのシュートを狙っていく。このWBにIH(中野・金久保)や前線でフリーマン気味に動く中川が関わる形で、サイドからの崩しを狙っていく京都であった。

 岡山は京都のサイドへのケアに対して、SHとSBのユニットで対応するのが主な形。簡単に言えば、SBが相手WBにマッチアップしている状態からSHが援軍に向かって相手の自由を奪うという形。京都がWBを高く上げることによって、岡山はSHを相手の3バック+1アンカーのビルドアップを咎めに行かせることがやりづらくなっていった。人数の噛み合わせがなくなったことと岡山の第一ラインはまだ前から捕まえに行きたがっていたこともあって、第一ラインと中盤の中でスペースが生まれやすくなり、京都のビルドアップ隊はボールを動かしやすくなっていた。時間を与えられたバイスから何度か石櫃に向けての長距離のサイドチェンジパスが何度か通っていた。

 前から取りに行くのが難しくなった岡山は、30分を過ぎた少し後から守り方を微修正。高い位置で取りに行く形をいったん収めて、4-4-2でセットする形である程度京都に「持たせてもいい」守り方に変更。中央を閉じて京都にサイドに出させる、サイドに出たところで全体をスライドして再び京都に下げさせて、ブロックの外でボールを回させる分には構わないというスタンスであった。
 IHがボールを受けようとすると上田や白井がチェックに向かって前を向かせず、野田へのボールに対しては今季初先発のチェジョンウォンと濱田のCBコンビで上手く対処。右サイドの関戸と椋原のラインでは椋原が荒木にほぼ完勝。岡山にスライドを強いてズレを作る形をなかなか作れない京都は、岡山が守り方を変えた後はサイドに展開してもそこからスピードを上げて攻めることが上手くできなくなっていた。

狙い撃たれた左サイド

 前半、特に残り15分を上手く守って1点リードで折り返した岡山だったが、後半早い時間帯に追いつかれる。49分、石櫃の右CKから安藤が頭で合わせて1-1。安藤のマーカーだった椋原がマークを外してしまったのが直接的な要因として挙げられるが、問題はそのCKを与えてしまった左サイドの守備だったのではないかと思う。(それにしてもなんで野田が石櫃のスパイクを磨いているのか)

 岡山の左サイド守備のメインとなる上門と野口のラインは明らかに急造感を露呈しており、チームとしては比較的上手く守れていた前半残り15分でも、石櫃との間合いが上手く取れずにクロスを上げさせてしまっていたり、ボールホルダーに単騎で突っ込んでしまっていたりと不安定な状態を京都に見せてしまっていた。もっとも野口は公式戦でスタートから左SBでプレーするのがこの試合が初めて。奮闘はしていたが、対人での間合いの詰め方やポジショニングに不安があったのは致し方ない。

 後半立ち上がりの京都は岡山の左サイドに狙いを定めて攻撃を行っていた。中川がサイドに流れることで岡山の左サイドに人数をかける形を増やし、そこからのスピードアップで上門-野口のラインを混乱させる。得点のきっかけになったのもバイス→石櫃へのサイドチェンジから、岡山の左サイドに中野、中川と人数をかけて岡山のスライドが間に合わないうちに石櫃が大外でフリーになって上げたクロスからであった。

 良い形で攻める京都に対して、岡山はボール保持時間を長くするよりはとりあえず前線に当てる狙いのロングボールが増やす展開が目立つ後半。イヨンジェや山本がサイド奥に流れて起点になりたいところだが、その動きに対してはバイスが付いていくことで跳ね返すようになっていた。
両者ともに足が止まってくる60分過ぎから京都は60分に中川→ウタカ、岡山も65分に上田→斎藤とそれぞれ交代カードを切り始める。結局5名を交代させた両チーム。満を持して切り札登場感のある京都の交代に対して、岡山の交代は主力を少しでも休ませていかないとどうしようもないという苦悩感がどうしても伝わる。

 飲水タイムを経過して70分くらいになると、岡山はCHを経由したボール保持の傾向を見せ始める。選手交代から守備のバランスが崩れた京都が中盤にスペースを与えるようになったことで、岡山は中央を経由してボールを敵陣に運ぶことができるようになっていた。
上門が中央で受けてからのキープ→ドリブルで運ぶ形や、途中出場の斎藤や松木が右サイドをかけ上がるプレー、フル出場でも上下動を惜しまない白井や関戸のランニングは終盤オープンな展開になっていたゲームに刺さるものになりかけていた。しかしどの形も最前線の清水や赤嶺がゴールを割るには至らず。試合は1-1の引き分けに終わった。

総括

・サイドに展開してのWBを切り札とした攻撃、前5枚でコースを塞ぎ後ろ5枚で跳ね返すという役割分担しての守備という全体の大枠はあったものの、この試合を見る限りでは前線の野田、中盤の庄司、サイドの石櫃、最終ラインのバイスというJ2ではトップレベルの選手たちによって「仕組みではなく選手で攻める、守る」感が強かった京都。メンバーを大きく入れ替えていたのが影響したのか、あまり連係しての攻撃は見られなかったものの、大駒たちに小技の効く中川や中野などがサイドに流れて絡んでいく形が多く見られた時間帯には大きなチャンスが生まれていた。満を持してのウタカ投入のはずが、その交代から京都は流れを手放してしまった印象が強い。
ウタカをベンチに置ける選手層は厚そうでターンオーバーを多くしても戦えそうだが、この試合を見ていても最終ラインの強度を保てて、大きくサイドを変えられる展開力を含めても、CBのバイスだけは外せなさそう。

・主力と目算していたはずの戦力(特に中盤から後ろ)に負傷離脱が相次ぐ中、この試合では野口、チェジョンウォンがスタメン、途中出場で松木、ユヨンヒョンと、若いメンバーを少しずつ使い始めている岡山。チェジョンウォンは昨季からかなり落ち着きを見せるようになっており、ボールを持った時もバタつかずしっかりマーキングも行えていた。また野口や松木もゲームに入れなくて消極的なミスというのはかなり減っており、岡山にとっては苦しいやりくりの中で若いメンバーの成長を感じるゲームであった。

・この試合はかなりシュートは打たれた(公式で京都は19本、DAZN集計ではなんと25本)が、その割には非保持時はそれなりに安定していたのではなかったのではないか。CBとCHを中心に中央を簡単に割らせることなく、縦横のコンパクトをかなり意識して守れていたように思う。前述のように、経験の少ないメンバーがいながらしっかり共通の守備意識をもって90分間を戦いきれたことは大きな収穫だろう。

・この試合のポープ→上門→イヨンジェの形がそうであったように、今季の得点は縦に入れた形から「バッチリハマった」的な得点が多く、どうしてもそのイメージに引っ張られてもう少し動かした方がいい時にも縦に進めて無理な速攻の傾向が強くなってしまうのかなという印象。あまり結果がついてきていない焦りもあるのかもしれない。現状ではボールを落ち着けられる、縦横のバランスを上手く付けられる選手が上田しかいない(⇒喜山やパウリーニョ、田中の不在)難しさを痛感させられる。
ボールを保持したときの、横や後ろに動かしつつじっくり進めていくときと早めに縦にボールを入れるときのタイミングの問題は、主力メンバーが帰ってきてからの持ち越し課題になりそうな気がしてきた。そんな中で濱田のボール保持がずいぶん様になってきているのは朗報かもしれない。

試合情報・ハイライト

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