展開に引きずられるな~J2第7節 愛媛FC VS ファジアーノ岡山~

スタメン

両チームのスタメンはこちら。

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奥行きを使えず、手詰まりを起こす

 川井氏が退任して、地元の有力者だったらしい和泉氏が就任した今季の愛媛であったが、結果が芳しくないことから和泉氏は辞任。この試合から内部昇格という形で實好氏が指揮を執ることになった愛媛。これまでの分析が意味のないものになってしまう可能性があるという意味では、対戦相手の岡山としては、このタイミングでの監督交代はちょっと面倒くさいかもしれない。

 和泉氏のときの愛媛は、川井氏時代の杵柄のようなボール保持を見せる部分もないわけではなかったが、基本的にはダイレクト志向の強いチームであった。このチームの一番特徴的だったのは、ボールを持たないときの振る舞いとして、かなりマンツーマン気味に敵陣で守備を行おうとする姿勢がうかがえるチームであったということだろう。ただ、後方のカバーリングが間に合わずにスペースを相手に明け渡すことが多く、また終盤になって体力切れのような状態になってしまうことも多かったので、収支としてはかなりのマイナスであった。

 閑話休題。ここからは本題の試合について見ていく。準備期間もほとんどなかったであろう實好監督は、まず基本フォーメーションを変えてきた。中盤は田中をアンカーに、インサイドに川村と岩井が入る1-4-1-4-1。岡山対策というよりは、中盤でテクニカルな選手が多い自分たちの特徴を汲んだフォーメーション変更なのかなと思う。おそらくこのフォーメーション変更がなされた時点で、試合前の岡山の愛媛分析はほとんど意味のないものになっていた気がする。ボールを持ってどうこうというよりも中盤でのぶつかり合いが多かった立ち上がりの5分ほどは岡山がやや優勢だったが、その立ち上がりを過ぎて岡山がボールを持つという構図がハッキリし始めると、試合の流れは徐々に膠着、岡山にとってはあまり芳しくない展開に流れていくこととなる。これは岡山がボールを持つときも、持たないときも同様であった。

 まずは前半の岡山のボールを持ったときの振る舞い、愛媛のボールを持たないときの振る舞いについて見ていく。この試合の岡山は、最前線に齊藤、トップ下(⇒というよりは縦関係2トップの下がり目)に上門を配置し、右SHに宮崎、左SHに木村が入る前の4枚の組み合わせとなっていた。結論から言うとこの組み合わせは左の木村以外全く上手くいかなかったわけだが、前の選手の問題については後述する。

 後方からボールを運んでいこうとする岡山は、いつも通りの濱田-井上のCB、白井-喜山のCHの4枚を中心にボールを動かしていく。これに対して愛媛は、4-5-1のブロックを形成し、岡山のCB-CH間でのボール保持にはそこまで強いプレッシャーをかけては来なかった。その代わりに最終ラインの4枚はCBの池田と西岡を中心にかなり高めに設定、中盤5枚との距離をかなり中央よりにコンパクトにしようとする形であった。狙いとしては、岡山がミドルゾーンで縦パスを入れようとしたところを密集を生かしたプレッシャーでカット、そこからカウンターに繋げていくということなんだろうと思う。

 そんな愛媛の守備に対して後方でボールを持つときの岡山は、CB-CH間で内側~中央へのパスを伺いつつボールを動かし、SBの下口(試合直前に徳元が体調不良となり急遽スタメン)と河野を大外のビルドアップの出口にして前進を図る・・・とできればまだ良かったのだが、前の4枚の動きが乏しいために愛媛の4-5-1のブロック、特に第二ラインと最終ラインを押し下げることができず、後ろの選手のボールの出し所が無くなって仕方なく前に蹴ってしまったり、無理矢理縦にボールを入れてしまったりというシーンが散見されることとなった。岡山のCB-CH間でのボール保持が手詰まりになって、SBの下口や河野が下がってボールを受けに動くと、愛媛のSHの近藤や小暮が素早くプレッシャーに行くことで、大外をビルドアップの出口にするということもなかなか難しい展開となってしまった。

 先ほど「前の4枚の動きが乏しい」とチラッと書いたが、この点は岡山がボールを持って前進していくことにおいて、チラッとではない非常に大きな問題点となっていた。この試合では、最前線の齊藤がこれまでの試合のように頻繁に下りてボールを受けることがあまりなく、前線に留まってその周囲に上門や宮崎がポジショニングするようにしていたのだが、今名前を出した選手が主体的に愛媛の最終ラインの背後に抜け出すようなオフボールの動きをしたのはほとんど見られなかった。後ろの選手がボールを蹴ったときは縦に抜け出す動きを入れていたが、その動きは受動的なものにすぎず、愛媛の最終ラインに対応されていた。中央に人はいるが、愛媛のブロックの手前で漂っている状態だったので、愛媛としては背後を狙われて第二ラインと最終ラインの間を延ばされるというような恐怖をあまり感じることなくブロックを押し上げる形を作ることができていた。

 このように、前の選手が背後を狙わないことで奥行きを作ることができず、愛媛の守備を縦横に広げることができないことで岡山のボール保持が手詰まりになっていったのだが、そうなると上門や宮崎辺りが愛媛のブロック間から追い出されるような形で後方からボールを受けようとする。しかし岡山のこういったアクションこそが愛媛のプレッシャーのスイッチとなっていた。中央に位置する上門や内側というよりは中にどんどん入っていった宮崎がボールを受けてキープしたり打開したりができればまだ良いのだが、簡単に下げてしまっていたために、愛媛のプレッシャーのスイッチになってしまっていた。スイッチが入ったときの愛媛は4-5-1からインサイドの選手なりSHの選手なりが高い位置を取ることで4-4-2のような形に変化、そこから高い位置からの守備を仕掛けていくようにすることで岡山にアバウトなボールを蹴らせて回収、そこから自分たちの攻撃に繋げていこうとしていた。

インサイドの躍動と数少ない光明

 岡山からボールを回収してからの愛媛のボール保持は、中央や横幅を広く使ってボールを動かしていくということはあまりせず、サイドに逃がしてそこからワンサイドでロングボールを入れるやり方がメインとなっていた。CBの池田や西岡、CBと同じ高さを取ることが多かった左SBの前野あたりはそれなりに精度の高いロングボールを蹴ることができるので、SHの近藤や小暮、前野と違って高い位置を取ることが多かった右SBの茂木、また最前線の吉田のサイドに流れる動きに合わせてロングボールを入れていった。

 こうした愛媛の振る舞いは、岡山の守備の仕方を逆用するために取られたやり方でもあった。岡山の守備は第一ラインの齊藤と上門からサイドにボールを追い出して、そこからボールサイドのSHやSBがプレッシャーをかけてできるだけ高い位置でボールを回収するのが狙いとなっているが、この試合の前半は第一ラインのプレッシャーが上手くかからず、プレッシャーがかかり切らずに愛媛のボールホルダーのパスコースを追い込めないままにサイドにボールが出たということでボールサイドのSHやSBが縦にスライド、愛媛の選手が余裕を持って岡山のSBの背後にロングボールを入れるという形を作り出していた。特に精度の高いボールを蹴れる左利きの池田や前野のいる愛媛の左サイド、岡山の右サイドでこういった光景が何度も見られていた。

 こうした愛媛の攻撃が成立するには、ロングボールの先の選手がある程度ボールをキープできる必要があるのだが、この試合で主にターゲットとなっていた吉田はこの役割を全うすることができていた。逆に言うと岡山にとってはこの点が非常に誤算だったと言っても良いかもしれない。ロングボールでプレッシャーを外されたとしても、ロングボールの先をCBの濱田や井上で抑えれば問題なくボールを回収することができるのだが、特に濱田が吉田への対応に非常に手を焼いており、ボールを収められるとなかなかクリーンに対応することができずにたまらずファールにしてしまう場面が多かった。

 愛媛がワンサイドでボールを進め、サイドの高い位置で時間を作れると、ここで出て来るのがインサイドの川村と岩井。走力があり、それでいてボールを持ったときの技術も高いこの選手たちが局面に関わることで愛媛の攻撃は一気に活性化。逆に高い位置からのプレッシャーがかかり切らずに間延びさせられた岡山の守備は、ボールの局面で密度が薄い状態が散見されてしまい、愛媛がバイタル中央でボールを持っているにも関わらず後手後手の対応となってしまう、本来あってはならない状態になってしまっていた。前野からのロングボールを受けた吉田が左サイドで濱田をいなしてボールキープ、そこから岩井→川村と繋いで崩した2点目はこうした愛媛の攻撃の狙いがまさにハマった形であったし、川村の1点目もスローインからの流れではあるが、ミドルシュートをフリーで打たせるスペースを与えてしまった川村への後手を踏んだ対応が起こしてしまった得点であった。

 わずか30分で0-2となってしまった岡山。前半に見られた数少ない光明は、左サイドの木村-下口のラインがそれぞれの内側~大外、高低のポジショニングを意識して精力的にボールを引き出そうとしていたこと。木村が内側でボールを引き出そうとすれば下口が大外の高い位置を取り、下口が低い位置でボールを受ければ木村が逆に大外の高い位置を取ることで、愛媛の右SH-SB-CB間を引き延ばそうとしていた。特に木村はボールを受けたときに愛媛の選手からプレッシャーを受けても簡単にボールを離すことなく何とかキープしてファールを誘ったり、そこから打開してクロスに持ち込んだりすることができていた。また岡山が右サイドでボールを持ったとき、木村や下口が逆サイドの大外に張ってそこから白井や喜山あたりからの展開を受ける形は、数は少ないものの横幅を使って愛媛のブロックを押し下げていく形に繋がっていた。

 そんな左サイドの光明を見てか、岡山のボール保持は35分を過ぎたあたりからようやく右サイドでも動きが見られるようになった。岡山がボールを持って攻めるときに肝心の上門と宮崎はオンボール時、オフボール時両面で消えたままであったが、齊藤が気を利かせて右サイドに流れる回数を増やすことで右サイドへの展開が増え、それによって河野が高い位置を取って、そこからクロスを上げる形が少しずつできるようになっていった。それでも決定機は作れないまま、前半は0-2で折り返すことになる。

作られた奥行きと力技

 岡山は後半開始から宮崎に代えて山本を投入。この交代で岡山の前の4枚の組み合わせは、オフボールの動きで相手最終ラインに仕掛けることができる山本を前線に置いて齊藤と縦関係の2トップを形成、SHは木村が左のままで上門が宮崎のいた右に入る形となった。今までなら上門が左に入って木村が右にスイッチしていただろうから、軽い驚きではあったが、前半の左サイドでの木村の動きを見ればわざわざ変える理由はないのも確かではあるし、こっちの方が妥当でもある。

 山本が投入されてからの岡山は、シンプルに愛媛の最終ラインの背後に抜け出そうとしたり、サイドに流れて愛媛のCB-SB間を割ろうとしたりする山本の縦への動きに合わせるような形で、後方の濱田や井上から意図的な長いレンジのボールが増えることになっていった。特に後半開始の5分ほどはそんな山本の動きを積極的に使っていこうと意識的にロングボールを増やしていたように思う。山本の動き自体は非常にシンプルなものだし、この動きだけで愛媛の守備を破れるというわけではないのだが、山本のこの動きによって後半の岡山はボールを持ったときに奥行きを作り出すことができるようになっていった。山本の動きで奥行きを作り出すというのは具体的に言うと、山本の縦へのオフボールの動きで愛媛の最終ラインを押し下げるということである。これによって岡山は、愛媛の4-5-1のブロックの第二ラインと最終ラインの間を前半よりも広げることに成功した。

 後半の岡山は前述のように意図的にロングボールを使うようになったのだが、前線へのロングボールを主体にしたのかというと決してそういうわけではなかった。岡山は後方でのボール保持における金山の関わりを増やしながらCBの2枚を中心にボールを動かしていくのだが、山本の動きによって広げられた愛媛のライン間を齊藤、上門、木村が使うことで内側~中央へのボールが通るようになっていった。また、後半になってからの岡山のボール保持で特に良くなったのは、CHの白井と喜山のポジショニング。前半は2枚ともが愛媛の第一ライン(吉田)の横にまで下がってしまう場面も見られたが、後半は愛媛の第一ライン-第二ライン間に入ることで濱田や井上の持ち上がりを促し、愛媛の前からの守備を牽制することに成功した。岡山の改善によって愛媛は中盤の5枚が前への守備(⇒岡山のボール保持を阻害)をメインにするのか、後ろでの守備(⇒ラインを下げて最終ラインをプロテクトする)のかが曖昧になってしまっていた。

 後半の岡山のメインとなっていたボール前進の手段は、後方からボールを持ち出して一度内側~中央へのパスを入れてのレイオフプレーか、そのままCHが前を向ける状態でパスを受けて、そこから大外に展開してサイドからボールを運んでいくというものであった。前半は非常に窮屈だった岡山だったが、奥行きを作り出したことで横幅も使えるようになり、前半に比べると遥かにピッチを大きく使ってプレーができるようになっていた。岡山はある程度安定してボールを運べるようになったことで、ボールを失ってからのネガトラでも強度が復活。何度か愛媛のカウンターを受けることはあったが、大抵はすぐにプレッシャーをかけることで愛媛にボールを蹴らせて回収し、また自分たちでボールを運んでいくサイクルを作れるようになっていった。

 このようにサイドを糸口にしてボールを運んで主導権を握れるようになった後半の岡山であったが、高い位置まで運んでからの攻め手は乏しかったのもまた事実。低い位置まで押し下げられたときの愛媛が潔く中央を閉じる守り方にしており、和泉政権のように色気を出してボールを奪いに行くやり方にしていなかったのもあって、サイドでボールを持っても手詰まりになってしまうということも多かった。そんな中で前半同様に左サイドの木村であったり、川本が投入されてから右サイドに移った齊藤であったり、サイドから馬力のあるドリブル、失わずにそこから持ち運べる選手の動きは極めて貴重であった。サイドで自らボールを運ぶことで愛媛を押し下げ、味方が攻め上がる時間とスペースを作り出し、撤退志向が強まったことで明け渡すことになった愛媛のバイタル中央でボールを受けて、そこからのミドルだったり逆サイドのオーバーラップだったりで何とか愛媛のゴール前に迫る形を作っていったのだが、オープンプレーでのいくつかあった絶好機は全て秋元に防がれてしまっていた。

 しかし岡山は、ゴラッソという力技2つで半ば強引に秋元の壁をこじ開けて勝ち点1をもぎ取った。1点目は62分、左サイドからのセットプレー、白井のマイナスのパスに上門がダイレクトで叩き込んでのゴール。2点目は試合終了間際も間際のラストプレー、白井の右CKのこぼれ球を途中出場、Jリーグ初出場の疋田がダイレクトボレーで叩き込んでのゴールであった。いずれの得点も前述したようなサイドからの木村のドリブル、齊藤のドリブルが遠因になっているのは忘れないでおきたい。

雑感

・0-2から追いついたという結果、選手交代で奥行きを作った後半はボールを持って押し込む展開を作れたこと自体は当然ポジティブに捉えていいことなのだが、愛媛が監督交代間もない中で押し込まれた時の局面を打開する策までは授けられるような状況でなかった、実質的にブロックを下げて耐え凌ぐことしかできなかったことは頭に置いておく必要はあるだろう。「やり方を整理したら追いつけた、次は最初からできる!」と単純に考えるのは危険。

・それでも相手最終ラインの背後を狙う選手が入ったことでピッチを大きく使ってボールを運ぶことができるようになった後半の展開は、現状で手詰まりになりがちな自分たちがボールを持ったときの流れを打開するヒントになるのは間違いない。少なくとも前の4枚の組み合わせは、誰か一人はアクティブに相手最終ラインの背後にオフボールの動きができる(⇒ボールが出てから動くのではなく、後方からのボールを引き出せる動き出しができる)選手の起用、イヨンジェがなかなか使えない現状では具体的には山本を起用しないと正直厳しい部分はあると思う。多分有馬監督は上門や宮崎といった選手にそういうオフボールの動きを求めているのだろうけど、やっぱり選手のタイプによる向き不向きはある。それでももう少しオフボールで相手を動かせないと今後しんどくなるのは間違いない。

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