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5連戦第1クール終了~J2第14節 ファジアーノ岡山VSザスパクサツ群馬~

スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

立ち上がり15分の麻薬

 この試合の岡山は、立ち上がりから群馬の最終ラインの背後を狙うようなボールを蹴る選択をすることが多かった。いつもならCB-CH間にポープを加えて後方からボールを動かしていくようなシチュエーションでも、ポープやチェジョンウォンからシンプルなロングボールを蹴っていたことが多かったと思う。

 岡山がそういう選択をした理由としては、群馬が4-4-2で3ラインをコンパクトに、そして最終ラインを高く設定していたこと。最前線のイヨンジェが群馬のCBである岡村、舩津とのシンプルな競争(フィジカル面の競争)で十分に優位に立てると判断していたこと。そして、できるだけ早い時間帯で得点をしたかったということ。お互いに5連戦の最後の試合、そして水曜日の試合から中2日ということで、立ち上がりに群馬のゴールに速く攻め切って得点することで試合を優位に運べるという算段があったのだと思う。

 岡山は立ち上がりの15分間で、セカンドボールを回収しての形を含めて群馬の背後を狙うロングボール、そして群馬が高い位置まで運んだボールを引っ掛けてのロングカウンターと、オープンな展開からチャンスをいくつか作っていた。特に右サイドの野口と下口のパスカットやドリブルなどの意欲的なプレーからチャンスを作っており、8分には関戸の浮き球に野口が抜け出してGKと一対一という局面も生まれていた。

 意図通りにこの立ち上がり15分の時間帯でゴールを奪えていれば良かったのだが、ここで先制出来なかったことが間延びという形で徐々に岡山を蝕んでいくことになる。

コンパクトを保てない岡山、群馬のサイド攻撃

 20分を過ぎたあたりから岡山は4-4-2の各ラインが間延びがちになり、意図しないようなオープンな展開が増えるようになっていく。特に見られていたのがイヨンジェと清水の第一ラインからのチェイシングに、中盤の4枚が遅れるケース。群馬はCBの岡村、舩津やCHの金城、宮阪(内田の負傷による交代)がプレッシャーのあまりかからない状態でボールを持つことができるようになっていた。

 岡山がコンパクトな陣形を保てないと、相手の背後を速く狙うようなロングボール攻撃は、シュートで完結しない以上逆に相手にボールを渡してしまうだけの攻撃になってしまう。イヨンジェと群馬のCB陣を上手く競争させるボールだったらまだ相手が苦し紛れのクリアに逃げて岡山がマイボールを確保する可能性もあるが、そういうボールを出せていたのは27分の下口→イヨンジェを右サイド奥に走らせた形くらい。ほとんどはボールが短くて相手にカットされるか、逆にボールが長すぎてGKの清水にあっさり確保されることが多かった。

 逆に群馬は、岡山がロングボールに逸ってくれればコンパクトを堅持できていたと言える。間延びする岡山を尻目に徐々に群馬がセカンドボールを支配、敵陣に運んで行く回数を増やしていくことになる。

 敵陣に入ってからの群馬の攻撃の中心はサイドからのクロス攻撃。サイドに広げる形は、シンプルに宮阪や金城あたりから出される大きな展開か、中央~ハーフレーンにポジショニングする大前とSH(田中・加藤)に一度ボールを当ててから展開する形の主な2つ。サイドでボールを受けるのはSBの高瀬と小島であることが多く、前の視野を確保できる状態ならばそのままクロスを上げ、一度詰まった場合はSHにハーフレーンから抜け出させる形で深い位置を取って折り返すようにしていた。前半は特に群馬の右サイドからのクロス攻撃が多く、田中だったり小島だったりの抜け出しに徳元が振り切られて決定的なボールを入れられるシーンがいくつか見られていた。

 前述の展開からライン間のコンパクトさを保つ群馬にセカンドボールを支配されていた岡山は、35分過ぎから田中やチェジョンウォンを起点にサイドに広げてのボール保持の時間を増やそうとして試合の主導権を引き戻そうとする。群馬は4ー4ー2をコンパクトにまず中央を優先して守るので、大外の徳元や下口はフリーになりやすい。しかし肝心の田中とチェジョンウォンの判断が遅れがちで、群馬の第一ラインからのチェックに捕まることが多かった。また周囲のサポートの動きも遅く、関戸や白井が受けた時には既に群馬の選手たちに囲まれるということが多かった。

 ビルドアップの出口としての頼みの徳元も、ファーストタッチのブレが目立ち、ポープのフィードも精度を欠いており、ボール保持に切り替えようにもリズムが掴めない岡山は結局ロングボールを蹴り出してしまうというシーンが多かった。二人気を吐くように下口や清水は意欲的にボールを運ぼうとしていたが、全体的には動きの重たい展開で前半を折り返すことになる。

与えすぎたセットプレー、またも千両役者の一振り

 岡山は野口→上田、群馬は高瀬→光永と両チームともに後半開始から選手交代のカードを切る。岡山としては前に展開できる上田で、ボール保持のリズムを掴んでいきたいところだった。

 下口のクロスからイヨンジェの惜しい形はあったが、後半の立ち上がりから主導権を握っていたのは群馬。相変わらず岡山は非保持時の間延びが目立ち、第一ラインからのプレッシャーがかからない。無理に第一ラインから行けばその背後を起点にボールを動かされてしまっていた。岡山が前からコンパクトな守備(⇒ここ数戦できていた形)を行なえていなかった大きな要因の一つが、CBコンビの苦戦。前半から田中とチェジョンウォンは最前線で体を張る青木のマークに手を焼いており、それによってポジションを下げさせられたり、慎重なライン設定を余儀なくされたりすることが多かった。それによって周囲のCHやSBのカバー範囲が広がってしまい、さらに群馬にボールを動かすスペースを与えてしまっていた。

 スペースを与えられた群馬は、前半以上に右サイド、左サイドからクロスを入れていく。特にハーフレーンから突撃させての形による折り返しは効果的で、前半の終盤から後半の立ち上がりにかけて岡山はペナ内でのクリアが増えて、自然と群馬のCKの数も増えることになっていった。

 試合が動いたのは55分、群馬にとって7本目か8本目かのCKから。大前の左CKから岡村が頭で押し込んで0-1。このCKを得た形が、左大外の光永から加藤がハーフレーンから抜け出して入れたクロスによるもの。まさに群馬にとってはセットプレーを獲得する流れから狙い通りの得点であったと言える。ちなみに岡山にとって大前のセットプレーから失点したのは2年連続。昨季は大宮で直接FKを決められて失点、今季は群馬でCKのアシストを食らって失点。Cスタでは大前のセットプレーを禁止しようか。

意思に付いてこない重たい身体

 失点してからの岡山は、群馬が徐々にラインを下げ始めたのもあって後方でボールを持つ時間が与えられるようになる。前半同様フリーになりやすい大外のSBへの展開を増やすだけでなく、CB発信で運んでいきたいところだが、サイドから中に付けようとするボールは群馬のターゲットにされていた。先制してからは岡山にボールを持たせてのカウンター狙いにシフトした群馬は単純なカウンターだけでなく、青木や途中出場の林が岡山のCBを引っ張って前にスペースを作っていたので、そのできたスペースで大前あたりがボールを受けて時間を作ることもできていた。

 前にボールを運んでいきたい意思と裏腹に身体がなかなか付いてこない感じの岡山。飲水タイムを挟んで完全に自陣に下がった群馬の4-4-2に対して、イヨンジェ、清水に代わって赤嶺、山本と前線を入れ替えて押し込もうとするが、ボールを持たされた田中のレンジの長い縦パスは群馬に読まれてしまい、また敵陣に突っ込んだ田中のドリブルは相手に奪われてカウンターのスイッチに。チェジョンウォンが一本上門に出した縦パスからペナ内に侵入する形はあったものの、後方の田中とチェジョンウォンが不安定な状態が続いているとなかなか押し上げることができなかった。密集の中でスペースができにくく、縦に入れても失うというシーンが目立っていた。

 85分を過ぎると岡山も上門のクロスに赤嶺が飛び込んだり、途中出場の三村が大外から仕掛けたりとペナ付近であわやのシーンがいくつか作れるようになる。最後には濱田を投入しての3バックを見せて押し込むが、最後まで群馬のゴールを割ることはできなかった。

総括

・攻守ともにやるべきことを整理できていた印象の群馬は、水曜日の山口に続き中国勢を破っての連勝。なんと今季初めてのクリーンシート(無失点試合)だそう。4-4-2のコンパクトさを最後まで保つことでセカンドボールを最後まで相手に支配させず、崩されたような形で岡山に決定機を与えることなく逃げ切りに成功した。攻撃ではサイドからの大外orハーフレーンからのクロスでやり切るという形でセットプレーを多く獲得。名手大前の輝く時間を自分たちで見事に作り出した。

・一方で最後の最後まで群馬を崩す術を見つけられなかった岡山。特にボール保持時での身体の重たさは顕著で、パスのズレ、ファーストタッチのミス、相手の寄せに簡単にボールを奪われるなどのイージーなミスが目立った試合であった。岡山の方が群馬とよりもミスが多かったので、負けるべくして負けた試合であったことは間違いないだろう。ミスの多さをごまかして勝てるほど、岡山と群馬に現状のチーム力の差はない。

・個人的には立ち上がりからあそこまで縦に速い展開にする必要があったのか、とは思う。本文でも書いたがこの日の田中とチェジョンウォンのCBコンビはなかなか前に押し上げるライン設定をできていなかったので、セカンドボールをできるだけ高い位置で取りたいと考えていたはずの中盤より前との間延びが起きるのも必然であった。立ち上がりのアップテンポに自分たちが飲まれて、いざボール保持に入ってもなかなかそのテンポを取り戻せなかった部分はあったのではないだろうか。もちろん縦には速い展開のまま立ち上がり15分で先制出来ていれば話は違ったのかもしれないし、今となっては結果論でしかないけれど。

・なかなかチームとして重たい敗戦であったが、下口が2戦続けて攻守で意欲的にプレーして存在感を発揮したこと、(前半で交代となったが)野口が攻撃における突破のカードとして存分に機能しうる可能性を見せたことという、個人面の収穫はあった。特に下口はボールを受けるときの視野の確保ができており、またパスを受けるポジショニングが良かった。ボールを持った時の判断に迷いがなく、閉塞しがちだったゲーム展開で自らのプレーでそれを破ろうとしていたのが好印象だった。

試合情報・ハイライト

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